第72話 古代に失われた魔法の取得は全部の宝箱を開けたあとで
くそっ、ボール狩りだがなかなかつらい。
リアルだと追いかけて追い詰めて殴って追いかけてのルーティンを全力で繰り返すのがこれほどきついのか。
これは、疾走技能の時と同じだな。
ゲームのキャラはコントローラーの命令一つで無理してでも動いてくれるが、現実だと100%を続けるのは困難を極める。
どうしても全力の八割くらいのところで落ち着いてしまうのだ。
「九匹目っ!」
なんとか九匹目のカッパーボールを倒す。
そして、次の部屋に行くが、新たなカッパーボールが見当たらない。
制限時間が過ぎたのだ。
くそっ、ゲームだと十匹は余裕だったのに。
疲れた。
スタミナの消耗はヒールでは回復できないからな。
とりあえず道具欄に入れてあった水を飲んで一呼吸入れたあと、合流地点に向かう。
途中でミスラと会った。
彼女も満身創痍という感じだ。いや、俺より酷く疲れている。
アカデミー衣装の角帽が少しずれていた。
「ミスラ、お疲れ様。初めてのボール狩りはどうだった?」
「……ミスラは三匹倒せた。ボール、速すぎる」
「あぁ……どんまい。効率よく追い詰める方法を考えて慣れていけばもっと倒せるようになるよ」
俺はそう言って角帽を取り、形を整えて彼女の頭に再度被せた。
そして、ダンジョンの奥に向かう。
一番奥には既にアムが待っていた。
彼女はとても元気そうだ。
「アム、お待たせ。それとお疲れ様。初めての感想は?」
「とても面白いですね。母以外で私より速い相手を初めて見ました。八匹ほどボールを倒しましたが、次はもっとうまくやります。ご主人様はどうでしたか?」
「俺は九匹倒した」
「さすがご主人様です!」
アムが尊敬するように俺を見る……が……内心ではアブねぇって焦っていた。
いや、初めてで八匹って上等だぞ?
隅に追い詰めるって口で言うのは簡単だが、慣れない間は結構難しい。
初回で八匹倒すってどうなってるんだ?
ほら、ミスラ、死んだような顔をしない。
お前は魔法専門でやってきたんだから魔法の効かない相手と戦うのが苦手なのは仕方のないことだろう。
「ご主人様、ボス部屋のボスはなんでしょうか?」
「ビッグカッパーボールだな。基本はさっきと同じだ。でかくて四倍くらい殴らないといけないが、反撃してこないのも同じ。こっちは制限時間がないから少し休憩してからいくか?」
「はい。楽しみです」
アムは元気だな。
やる気に溢れている。
それほどまでにボール狩りが気に入ったのか?
「初めてのダンジョンですから、銀色宝箱は確定なんですよね? 完全クリアの金色宝箱が手に入ったらさらに嬉しいです」
違った、ただの宝箱廃人の台詞だった。
休憩が終わってから、ボス部屋に入る。
さっそく現れた。
先ほどより遥かに大きな銅のボールが、体育館くらいあるボス部屋の隅に移動する。
作戦通り、アムとミスラが壁沿いに移動し、俺が斜めから移動し、できるだけ逃げられないように距離を詰めて一気に殴り掛かった。
と突然の爽快感。
クリティカルが決まったのだ。
(えぇ、ここで!?)
カッパーボール狩りの時は一度も出なかったクリティカルがここで出た。
クリティカルが発動すると一撃で倒せるのは、ビッグカッパーボールもカッパーボールも同じ。
一瞬にしてボス戦が終わってしまった。
「ご主人様、お見事です!」
「……凄い。さすがトーカ様」
「ただの偶然だよ」
謙遜でもなんでもなく、事実を告げる。
当然、完全クリアだ。
部屋の中央に宝箱が五つ現れる。
宝箱の昇格はなし。
金色一つ、銀色一つ、茶色三つだ。
金色宝箱が出ることは一撃で倒せた時点でわかっていたので、アムもミスラも驚いた反応はない。
ただし、しっかりと金色宝箱の前で待機している。
「せっかくだし、今日は三人で一緒に開けるか」
「はい。楽しみですね」
「……うん、楽しみ」
ということで、俺とアムとミスラ、三人で金色宝箱を開けた。
結果――
「ミスラの希望通りだな。魔導書だ」
「……魔導書!」
中に入っていたのは魔導書だった。
やっぱりミスラには物欲センサーが効かないのかもしれない。
いや、確率的にはそろそろだったかもしれない。
試練ダンジョンの魔導書といえば、最初はあれだろうな。
鑑定をして予想が確信に変わる。
「脱出魔法エスケプだ」
「……脱出魔法?」
「ああ。ダンジョンから脱出する魔法だな」
「……それって、古代に失われた転移魔法。これは凄い魔導書」
ミスラが興奮気味に言う。
あぁ、そういう解釈になるのか。
そうなんだが、エスケプってダンジョン周回廃人からしたらあまり使わないんだよな。
魔法を使ってダンジョンから出なくても、ボスを倒して宝箱を開けたら脱出できるんだから。
初めて挑む難易度不明のダンジョンで、死にそうになったときに使うくらいだったな。
「ご主人様、銀色宝箱を開けましょう」
「おっと、そうだった。ミスラ、開けるぞ」
「……ミスラはこれを読んでいる。トーカ様とアムで開けていい」
ミスラは本に夢中のようだが、すかさず没収する。
「はいはい。宝箱はみんなで開けような。これは後で読め」
「……わかった」
ということで銀色宝箱御開帳。
中に入っていたのはとあるダンジョンの入場チケットだった。
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