第71話 試練ダンジョンに行くのは説明のあとで
試練ダンジョン入場回数券は金色宝箱から0.03%の確率で、虹色宝箱から0.3%の確率で出現する激レアアイテムだ。
まぁ、普通は試練ダンジョン入場回数券はDLC以外ではほぼ伝説の道具であり、入手報告がSNSに上がるたびに嫉妬の祝福コメントが寄せらていれたものだ。
かくいう俺も一度だけ手に入れたことがある。
まぁ、試練ダンジョン入場券の入手難易度はそこまでひどくないので、それを使って試練ダンジョンに挑むのが普通だ。
「ご主人様、試練ダンジョン入場回数券とはなんですか?」
「いい質問だな。転移門に細長い穴があったのは気付いていたか?」
俺の問いに、アムもミスラも首を横に振る。
まぁ、普通は見ていないだろうな。
「あそこは転移チケットと呼ばれるアイテムの投入口でな。特定のアイテムを入れると特別な場所に転移できるんだ。試練ダンジョン入場回数券もその転移チケットの一種なんだよ。その名の通り試練ダンジョンと呼ばれるダンジョンに転移できる。そこにはボールと呼ばれる魔物しか生息していなくて、そのボールという魔物は経験値が非常に高いんだ。そこでレベル上げを行う」
「ダンジョンということは、ボスもいるのですか?」
「ボスもいるぞ。もちろん、宝箱も出る」
試練ダンジョンの宝箱からは、他のダンジョンに比べて試練ダンジョン入場券の取得確率が高くなる。
なので、運がいいときは「試練ダンジョンの無限ループや!」とか調子に乗るこ(何故か関西弁)ともできるのだが、仲間の運の値が最高値レベルでも五回に一回くらいなので無限には程遠い。
ちなみに、試練ダンジョンの難易度は主人公のレベルに応じて変化し、ボールの種類とそれに応じて取得経験値量が変化する。
「試練のダンジョンは入場後30分したら、通常のボールがいなくなってしまう。だから、前もって作戦が必要だ。まず、ボールはめっちゃ速い。そして、人間から逃げる。なので、部屋の隅に追い詰めて殴る必要がある」
「……サンダーボルトなら遠くからでも狙える」
「残念だが、ボールには特定の魔法以外効果がない。だから、ミスラも魔法ではなくボールを殴って攻撃してもらう必要がある」
「…………」
「接近戦は苦手だろうが、ボールは反撃は一切してこない。安心して殴れ。あと、どんなに攻撃力が高くても基本は1しかダメージが通らないから、とりあえず木の棒で殴れ。アムは手数の多いナイフで頼む。俺は斧で行く」
「斧では手数が減るのでは?」
「ボールはクリティカルが出たら一撃で倒せるんだ。斧はクリティカル率が高いからな。それと、ダンジョン内では三人別行動を取る。30分経過してボールがいなくなったらダンジョンの一番奥に集合する。広くないから迷うことはないはずだ。そして三人でボスに戻る。これが一回の行程だ。質問はあるか?」
「……ボールにドロップアイテムはあるの?」
「ボールの欠片とボールの塊だな。どっちも錬金術の材料になる。あと、シーフドロップはないから盗賊切りの必要もない」
「ご主人様、別行動しても経験値は全員に入るのでしょうか?」
「ああ、それは問題ない。ダンジョンに入った時点で全員が同じパーティとして認識されるから別行動をしても全員に経験値が入る」
「だったら、他に協力者を募ってボールを倒した方が効率がいいのではないでしょうか?」
「残念だが、試練ダンジョンはレギュラーメンバー専用ダンジョンなんだ。ゲストメンバーの入場はできない。それに、経験値が等分割りされるから、大勢で行ったからといって経験値がその分多くなるわけではない」
蒼剣では、だいたい一周するたびにレベルが2か3上がっていた。
それを十周すればどうなるか?
試練ダンジョン入場回数券がゲームバランスが崩れると言っていた原因がこれだ。
まぁ、何故か俺はレベルアップによるステータス増加が低く、アムとミスラはレベルがゲームキャラに比べて著しく上がりにくい。
それん、蒼剣はレベル以外にも強くなる要素がたくさんあるからな。
結局レベルだけ上がっても張子の虎状態にしかならないのだが、悪魔対策には必要だろう。
「この時間はまだ転移門の通行時間内で、エルマ村とこっちの村を行き来している村人も多いからな。通行時間が終わった夜中に出発するぞ」
「かしこまりました」
「……わかった」
作戦会議が終わり、
「話し合いが終わったのなら、お風呂に入るのです」
ポチに風呂に入るようにと急かされた。
遅めの夕食を摂って、酒場も閉店した時間。
俺たちは転移門にいた。
まだ壁はできていないが、簡易の柵ができていて、見張りがいた。
壁ができるまでの間、こうして見張りを立てるって副村長が言っていたのを思い出す。
俺が転移門に近付くと、見張りの村人は不思議そうに尋ねる。
「村長、どうしたんだ? 見張りシフトに村長は入ってなかったはずだが」
「ちょっと転移門を使わせてもらうんだ」
「通行時間外だぞ? まぁ、村長なら別にいいと思うが」
「転移門の別の機能を使って別の場所に行くんだ。詳しくは説明するのが面倒なのでしないが、エルマの村に行くわけじゃないよ」
「面倒だってはっきり言ったな。まぁ、村長だしな。好きにしてくれ」
「ああ。一応、俺たちが入ってから誰も入らないように見張っておいてくれ」
俺への信頼度が高いのか、それとも考えるのが面倒なのか?
たぶん後者だろうな。
俺たちは転移門に行く。
さっそく投入口に試練ダンジョンチケットを差し込んだ。
普通の入場券なら一度差し込んだら戻ってこないのだが、回数券は戻って来る。
そのとき、回数券の上に穴が一つ空いている。これで一回分使用したという証になる。
道具欄に入れて名前を確認すると、【試練ダンジョン入場回数券(残り9回)】と表示されるので穴の個数を調べる必要はないのだが、そこはお約束だ。
三人で転移門を潜ると、試練ダンジョンの中に入った。
振り返ると入り口の門は開きっぱなしになっているが、これは出口専用だ。
「ここから一度出たらもう戻れないからな。じゃあ、作戦通り移動開始!」
俺はそう言って、部屋にある五つの通路のうち一つを選択、アムとミスラと別行動を取り、ダンジョンの奥へと向かった。
最初の部屋でさっそく相手を発見。
人食いオレンジやびっくりピーチみたいにふわふわと浮かぶ球形の魔物。
十円玉みたいな色をしているから、カッパーボールだな。
ボールの中では下から三番目、主人公のレベルが20~29の時に出てくるボールだ。
さっそくボールは俺から遠ざかる方へと逃げて行ったので、さっそく部屋の隅に追い詰める。
斧を振るう。
ボールに当たる。
硬い――相手は金属の塊だから当然か。
もう一発!
と思ったら、ボールが壁沿いに飛んで逃げ出した。
逃げられるのはわかっていたが、その壁には出口はない。
なので再度隅に追い詰めて殴る。
「悪いが、こっちはボール退治の
そんな職業は存在しないってわかっているが、俺は蒼石の斧を振り下ろした。
またダメージを与える。
逃げられる。
先ほどと同じ隅に移動。
ダメージを与える。
逃げられる。
これを繰り返し、四回目――ようやくカッパーボールは沈んだ。
だが、カッパーボール撃破を喜ぶのもレベルが上がったかを確認するのも時間がもったいない。
制限時間は残りだいたい27分しかないのだから。
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