第204話 闇ギルドに行くのは案内を見つけたあとで
スラム街の多数の敵の反応。
しかし、こいつらが今すぐ俺を襲って来るというわけではないのは、これまでの経験から知っている。
あくまで、俺が近付けば害を成す、もしくは害を成す可能性が高い相手ということだ。
その中にはスリのような小悪党も含まれる。
自由都市に来たときも最初は驚いたが、実際は襲われたりしなかったもんな。
こうも冷静に分析できるとは――俺も偉くなったな。
「なにニヤニヤしてるんだ?」
ちょっと悦に浸っていた俺を、マックルが気味悪そうに見る。
いいだろ、別に。
「それで、アイリーナ様、闇ギルドの場所はわかりますか?」
「申し訳ありません。そこまでは――」
だよな。
地図でも施設の名前までは表示されていない。
とりあえず、スラム街の中に入るか。
異臭塗れかと思ったが、中は思ったより清潔だった。
闇ギルドがしっかり管理しているから、下手な貧民街より清潔なのだろうとミスラが教えてくれた。
闇ギルドの影響がそんなに大きいのなら、その辺の人に闇ギルドのことを聞けば教えてくれるんじゃないか?
「おぉ、なんだ? 行商人のくせにこんなところに来て。道にでも迷ったのか?」
「何なら俺たちが案内するぜ?」
「荷物と女は置いていってもらうがな」
明らかにチンピラっぽい奴らと出くわす。
うん、こいつらでいいや。
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
「秘密裏に王都に入る方法でございますか――私のようなチンピラが知るわけがありません」
と目の部分に大きな青痰のできたチンピラAがが愛想笑いを浮かべて言う。
「闇ギルドの場所ですね。はい、案内いたします。ですからどうか命ばかりはお助けください」
と頭がチリチリのアフロ状態になったチンピラBが、必死に訴える。
「…………………………………………」
気絶しているチンピラCは何も言わない。一応回復魔法を使ったので死ぬことはないだろう。
手加減技能はあるけれど、手加減を間違えたのは俺だよ。
アムとミスラは上手に相手の戦意を削いだというのに。
いや、俺が最初に一瞬で気絶させたから、あとの二人もちょっとの怪我で戦意喪失した――そう思っておこう。
ということで、チンピアAとBに案内されて、俺たちは闇ギルドに辿り着いた。
闇ギルドと言っても、普通のレストランみたいな雰囲気だ。
案内してくれたチンピラたちには、闇ギルドの前に止めた馬車を見張ってもらう。
逃げたらどうなると思う? 獣人の嗅覚は知ってるだろ?
って告げたら、背筋をピンと伸ばして『絶対に逃げません』と宣言した。
ちなみに、チンピラCは馬車の中でいまも寝ている。
俺はアイリーナ様の入った干物の箱を抱えて、闇ギルドの中に入った。
外観もそうだけど、中もレストランみたいな感じで、各々食事をしたり、酒を飲んだりしている。
「初めての客人だな」
そう言ったのはハードボイルドな白髪のおっさんだ。眼帯をしているということは、隻眼なのだろうか?
トンプソンよりもマフィアのボスが似合いそうな男だ。
「この匂い、魚っすよ! 干物っす! 卸しに来たんだよな! 俺にも一枚売ってくれ! ちょうど酒の肴が欲しかったんだ!」
犬獣人っぽい男が尻尾を振って言う。
「黙ってろハチ! こいつは物売りじゃねぇよ。とりあえずついてきな」
罠を警戒したが、奥の部屋には誰もいない。
とりあえず、木箱を抱えたまま彼のあとをついていく。
そして、俺たちが部屋に入ると、最後に入ったマックルに扉を閉めるように言った。
「防音の魔道具が使ってあるからな。ここの会話は外には漏れることはない」
そう言っておっさんは座ると、木箱を見て言った。
「とりあえず、その中にいる嬢ちゃんを出してやりな。いつまでも干物の中にいたら苦しくて仕方ないだろう」
「――っ!?」
「なんでわかったって顔をしてるな。まぁ、長年こういう仕事をしているとそういう勘が働く。それに情報も集まるんだよ、トーカ村長」
俺のことも知っているのか。
俺は木箱を床に置き、中に隠れていたアイリーナ様を出す。
おっさんは特に驚きもせずにため息をついた。
「あいつらは失敗したようだな。それで、用事はなんだ? 暗殺依頼を斡旋した俺への報復か?」
「現在の王都の情報と、そして王都に入るための手引きをお願いします」
「断る。わかっているとは思うが、闇ギルドは既に王家を裏切る道を選んだ。今更あんたらに力を貸すことはできん」
「力尽くって言ってもか?」
俺が尋ねる。
脅迫だ。
「殺すか? それでもかまわん。闇ギルドはこの店でもなければ、俺一人の命でもねぇ。組織なんだよ。組織は頭が潰れても壊れねぇ」
「三つお聞きします。答えられないのであれば答えなくても構いません」
「言ってみろ」
「私達をここに案内したのは何故ですか? 私が隠れているのに気付いたのなら――」
「皆に報せて袋叩きにしろってか? 冗談言え。ここにいる奴全員でかかっても、その獣人、アムルタート一人で十分だろ」
アムのことも知ってるのか。
そして、他人の実力を測る目はある。
おっさんの言う通り、あそこで騒ぎになって損をするのはおっさんの方だった。
「二つ目です。王家を裏切った理由はなんでしょうか? 王家と闇ギルド、決して良好な関係とは言えませんでしたが、相互不干渉、お互いの領域を守った付き合いをしてきましたはずです」
「クーデター側の出した報酬が魅力的だっただけだ」
「その報酬というのは?」
「答えたくないな」
「貴様――」
マックルが怒鳴りつけるが、アイリーナ様が手で制した。
答えられないなら答えなくてもいいって言ったのはアイリーナ様だからな。
それに、三つ目の質問も終わっていない。
さて、どんな質問をするのか――
「三つ目の質問です」
彼女はそう言うと、さっき入っていた干物を見て言った。
「あの干物、いくらで買いますか?」
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