第182話 トーラはトランデルのあとで

 金色宝箱の中身はアメシストキャベツの苗だった。

 育つと高級な紫キャベツになる。

 作物の苗が出てくるのは久しぶりな気がする。

 実は、俺たちの村では現在、キャベツの増産が進んでいるのでありがたい。

 キャベツからザワークラウトを造って、交易船に積んでいるんだ。

 二周目は大したものは出なかった。

 さて、もう一周――と思ったら、


『あるじ、お客さんなのです。急いで帰ってほしいのです』


 俺の鞄の中から白い小犬――パトラッシュが顔を出して言った。

 もちろん、実際に喋っているのはポチであり、パトラッシュはそのメッセンジャーに過ぎない。

 ポチが急いでっていうのなら、緊急の用事なのだろう。

 なので、ダンジョンから出て即帰還チケットを使う。


 転移門から帰還。

 地図の様子を見る。

 村人たちの配置がいつもと違う。

 遠巻きに使者を見ているという感じだろうか?

 とすれば、使者はこいつらだろうか? 十人ほど迎賓館にいるな。


「村長、戻ってこられたのですね」


 そう言って俺を待っていたのは、ウサピーが最近雇った女性従業員(人妻)だ。


「ウサピーさんからの伝言です。村長はこれに着替えて来てくださいとのことです」


 そう言って渡したのは、堅苦しそうな服だ。

 正装で出迎えないといけない相手なのだろう。

 トランデル王国かトーラ王国か、もしくはブルグ聖国の使者だろうか?

 トウロニア帝国の使者かもしれない。

 国じゃなくて、貴族や有力者かも。

 

「いったい、お客さんって誰ですか?」

「トーラ王国の使者とトランデル王国の使者です」


 一気に両方来たっ!?

 そりゃ確かに大ごとだ。

 俺は急いで正装に着替えるために家に帰った。

 ああ、アバター衣装だったら一瞬で着替えられるのに。  


「これ、どうやって着替えるんだ?」


 見たこともない衣装に戸惑っていると、部屋に先ほどの女性が入ってきた。


「お手伝いします」

「いや、自分で着れ……てないですね。お願いします」


 着せ替え人形になった気分を味わうこと数分、なんとか着替え終わった俺は最近、ウサピー主導で作られた迎賓館に向かった。

 アムとミスラは後から来るらしい。

 迎賓館の前ではウサピーが待っていた。


「待たせたな」

「いえ、思ったより速かったです。ぴょん。では、トーカ様、まずはトランデル王国の使者の相手をお願いします。ぴょん」

「トランデル王国が先でいいのか?」

「はいです。ぴょん。社長はトランデル王国の冒険者ギルドに所属し、クリオネル侯爵とも繋がりがありますから、同時に来られたのであればトランデル王国の使者からお願いします。ぴょん」

「わかった。ウサピーも一緒に来てくれるんだよな?」

「もちろん、社長だけにはしません。ぴょん」


 助かる。

 口車に乗せられて不平等条約でも結ばされたら大変だからな。

 迎賓館の中にある。

 迎賓館は現在、犬の間、猫の間、兎の間があるのだが、トランデル王国の一行は犬の間にいるらしい。


 ウサピーの部下が扉をノックすると、中にいた別の人間が扉を開けた。

 そして、最初にウサピーが、続いて俺が入る。

 部屋にいたのは護衛と思われる人間数名と、そして男と女性。

 一人は三十歳くらいの金髪の男性、一人は俺と年齢の違わない金髪の女性。

 男の方が豪奢な服を着ているので、こちらが代表だろうか?


「お待たせして申し訳ありません。村長のトーカと申します。遠路はるばるよくおいでくださいました」

「あなたがトーカ殿ですか。お初にお目りかかります。私はアルフォンス・ジオ・イリア・クリオネルと申します」

「クリオネル侯爵家――ということは、ハスティア様の」

「ハスティアは私の妹です」


 なんと、ハスティアの兄さんか。

 そう言われてみれば、どことなく雰囲気が似ている気がする。


「それとこちらは――」


 アルフォンスが奥にいる女性を紹介しようとすると、彼女は立ち上がり言った。


「お初にお目りかかります。私はアイナと申します」

「はじめまして、アイナ様。よくおいでくださいました」


 家名を名乗らないってことは貴族じゃないのか?

 でも、護衛の人は立っているし……あぁ、秘書さんかもしれないな。

 もしくは旅のコーディネーターとか。


「改めまして、トーカと申します。彼女はミスラ商会の代表をしていますウサピーです。今回の話に同席させていただきます」

「ウサピーと申します」


 ウサピーが頭を下げた。

 いつもの変な語尾を封印している。封印できるのなら、常にその口調で話してほしい。


「ええ、ミスラ商会の噂は既に我が国内にも広まっています。死の大地周辺の村々に商会連合を作り、なんでもかの海洋国家であるトーラにも負けず劣らずの帆船を保有し、既に別大陸との交易を初めているとか」

「そのような大したことは――」

「ええ、既に交易は順調に進んでいます。帆船も新たに二隻建造中です」


 ウサピーの奴、そんな自慢気に言っていいの?

 でもそういえば、日本だと自分の手柄を謙虚に言うのが美徳とされているけれど、海外では自分の手柄は最大限にアピールして話すのが礼儀だって聞いたことがあるからな。


「それは頼もしい。そして、その交易を可能としているのが、転移門ですか。先ほど拝見させていただきましたが、古代の遺物を再現なさったとか。実に興味深い」


 とアルフォンスさんが目を細めて言う。

 やっぱり今回の目的は転移門の調査だろうか?

 だとしたら――好きに調査してもらってもかまわないんだが。


「それで提案なのだが――」


 とアルフォンスさんが何かを言おうとしたとき、廊下から声が聞こえてきた。


「村長は来ているのだろ! 何故我々のところに来ないんだ!」

「お客様、トーカ様は現在トランデル王国の使節団の皆様と――」

「ええい、そこを通せ! トーラ王国の宮廷魔術師である儂が、トランデル王国の使節団より下に見られるわけにはいかん! 国家の威信にかかわる!」


 そう言って扉が開き、入ってきたのは五十歳くらいの頭頂部ハゲのおっさんだった。

 入って来るなり、俺のことを睨みつけてる。

 なんか、めんどくさそうなやつだな。

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