第289話 スクルドの思惑は抽選会のあとで

「では、抽選会はこれで終わりです。決勝トーナメントの一回戦は予定通り朝の十時から行われます。尚、試合開始時にその場にいなければマイナスポイント、五分以内に舞台に上がらなければ不戦敗になりますから遅刻のないようにしてください。それでは今日は解散となります」


 進行役の男性がそう言ったので、さっそくスクルドの奴にアムとカイザーを戦わせる意図を聞こうとしたのだが、あいつの姿はもうどこにもなかった。

 神出鬼没っていうけれど、あいつの場合は神出神没だな。

 さらにワグナーの姿も消えている。 

 あいつもよくわからない奴だ。

 一体、なんのためにこの大会に出場したのか?

 目的が気になる。

 やはり霜月か?

 しかし、あいつの場合霜月と戦おうと思ったら決勝戦までその出番はない。

 じゃあなんだ?

 ベスト4に入って恩赦狙いだろうか?

 カイザーはワグナーの正体に気付いているのか?


 気になることがあるが、わからない。

 アリに情報を求めるか?

 いや、しかし――


 周囲を見ると、選手たちは会場を去っていく。

 俺たちもいつまでもここにいるわけにはいかない。

 試合会場を出ると、既にトーナメント票が張り出され、賭けが行われていた。

 既に倍率も出ている。


 一番勝敗が分かっている対決、イレブンとグラナドはイレブンが勝つ予想になっているな。

 アムとワグナーはワグナーの方が評価が高いが、そもそも人気がない感じがする。

 ワグナーはこれまで全部不戦勝だったから強さがわからないから賭けにくいのだろう。

 そして俺とハスティアは――


「キルティアの方が高いのか」


 だいたい3:1くらい。

 なんでも、キルティアの総評によると剣術の差だ。

 予選トーナメントでは俺もキルティアも手加減して戦っていた。

 剣速や威力はそう変わらなかったはずだ。

 そうなると、どちらの剣術が洗練されているか? という点で差が出たのだろう。

 俺は結構敵からの攻撃も受けていたしな。


「その……トール様」

「気にしないでいいよ。技術に差があるのは確かだから」


 剣術に身を費やしていた期間が違う。

 もしも空手の型のように剣術の型の勝負があれば、俺はハスティアに完封負けすることになるだろう。

 さて、家に戻るか。


「ご主人様」

「どうした?」

「ワグナーの件ですが、対戦相手は全員不戦敗しているのですよね? 消息を絶っていると聞きました」

「ああ、そうだな。アミも気を付けないとだめだぞ。次の対戦相手なんだから。俺たちと一緒に行動してれば大丈夫だと思うから一人で行動するなよ。適当な場所で着替えて家に帰ろう」

「はい……」


 変装を解けばアムがアミだってわかるわけがないんだし、ワグナーから狙われることもないだろう。

 そして、家に帰って俺は寛いでいた。

 本当に俺たち四人で暮らすには贅沢な部屋だ。

 部屋も多く、全員に個室があるからな。

 夜になったら俺がアムの部屋に行ったり、ミスラが俺の部屋に夜這いにきたりしているが、一人でいる時間が多い。

 こんなのなら二部屋か三部屋くらいの家にしたらよかったかな? と思うことおまる。


「……トーカ様、いる?」

「ん? ミスラか。夜這いにはだいぶ早いぞ。昼這いだな」

「……ひとり?」


 扉を開けて部屋を見渡す。


「ああ。分身魔法を使えたら二人になれるが」


 ポチの犬分身の術ってのが凄かったな。

 あれがあれば、夜のプレイも幅が増えそうな――


「……アムはいない?」

「アム? 来てないがどうした?」

「……部屋にいない。ここにいるかと思ったけれど」


 部屋にいない?

 地図を確認する。

 味方を示す青い反応が庭に一つだ。


「ミスラ、庭には?」

「……ティアがいた」

「ってことはアムがいない?」


 まさか、一人で外に出たのか!?

―――――――――――――

 お知らせ:明日から取材旅行のため、3月1日まで休みをいただきます。次回更新は3月2日になります。ご了承ください。

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