第288話 対戦相手が決まるのはクジを引いたあとで
武道大会の前日。
決勝トーナメントの抽選会が始まった。
こんなの当日にやって、さっさと試合を始めればいいんじゃないかって思うが、アリからの情報によると大きな武道大会では賭けも同じく大規模で行われている。
なので、前日に組み合わせを決めて、一日かけて賭けをするらしい。
八百長防止のため、決勝トーナメント参加者は賭けることはできないそうだ。
賭けができるなら自分に賭けたいし、スクルドと霜月にも全ベットするのに。
集合時間の五分前だが、八割の参加者が集まっていた。
そして、その中にスクルドの姿もあった。
俺の姿でこっちを見てウインクするのはやめてくれ。
しかし、どいつもこいつも決勝トーナメント出場者なだけはある。
どいつもこいつも強そうだ。
「いませんね」
アムが周囲を警戒しながら、狐の着ぐるみ越しに言う。
誰が? とは聞かない。
霜月やカイザーはいないが、霜月の狙いが俺であり、俺に変装しているスクルドがこの場にいる以上、霜月をこの場に連れて来ることはないだろうと思っていた。
アムが探しているのはその二人ではなく、彼女の母親の仇であるワグナーだ。
その姿はまだ見当たらない。
だが――
来ている。
地図を見ると、赤いマークが二つ。
一つは薄い赤――グラナドだ。
強盗殺人の犯人。
危険人物であるから、敵表示になっている。
そしてもう一つはゆっくりと会場に近付いてきた。
振り返る。
来た――ワグナーだ。
ワグナーは周囲を一瞥し、そして俺の姿をしたスクルドをじっと見つめる。
スクルドの正体に気付いたか?
それともかつて会った俺に興味を持っているのか?
と思ったら、ワグナーがこちらを見た。
俺は慌てて視線を逸らす。
気付かれていないはずだ。
着ぐるみ集団っていう珍しさに注目しているだけのはずだ。
「皆さん、お集まりくださりありがとうございます。では、これから抽選会を始めます。尚、シード枠の黒騎士選手とイレブン選手は既に抽選を終えており、一番と十一番に決まっていますのでご了承ください」
とタキシードを着た進行役の男性が言って、木箱を持ってきた。
一番と十一番……スクルドが言っていた通りだな。
そして、あの箱の形も同じだ。
「くじは誰から引くんだ?」
「くじは予選参加申し込み順になっています」
なるほど。
死刑囚として収監中のグラナドは、その立場から他の参加者よりも先に予選トーナメント参加登録をしていたのだろう。
一番最初と一番最後っていうのはイカサマしやすいってわけか。
いや、途中でくじを引くスクルド相手にもイカサマされるそうだから関係ないか。
「では、グラナド選手、前にどうぞ」
グラナドが前に出て、くじを引く。
彼は何も言わずに木箱に手を入れ、すぐに球を取り出した。
彼が引いた数字は――
「グラナド選手、十二番です」
これまたスクルドの言った通りになった。
「次、セカンド選手どうぞ」
と次々に番号を引いていく。
次々に進んでいき、残りの選手は七人となった。
ワグナーも残っている。
「次、トール選手、前にどうぞ」
俺の出番だ。
緊張する。
通常のくじ引きは運任せだが、今回は事前に準備をしている。
スクルドの言った通りの場所を引けば――って、スクルドを信用していいのだろうか?
あいつの目的が本当に霜月の停止って保証はどこにもない。
もしかしたら俺と霜月を戦わせないようにしているのではないか?
「トール選手?」
「あ、今引きます」
考えれば考える程答えは出ない。
俺は目を閉じ、そして箱に手を入れようとし――
「トール選手、さすがに入りませんよ?」
着ぐるみの大きな手では木箱に手が入らなかった。
この手、器用だから剣を握ることはできるんだが、なにしろ大きい。
木箱に手が入らない。
「…………」
「…………」
「……………………」
「……………………トール選手? 手袋外せますか?」
「えっと、全部脱がないと……」
「では、脱いでくれますか?
「すみません。脱げません」
「でしたら――」
どうすればいいのか?
と思ったところで、
「困っているようですし、俺が代わりに引きましょうか? こういうのって運営が関わったら八百長とか言われて大変でしょうし」
とそう言ったのはスクルドだった。
ものすごく愉快そうな笑みを浮かべている。
こいつ……こうなること知ってやがったな!?
「……お願いします」
「では、トーカ選手、お願いします」
「出ました。トール選手は九番ね」
狙っていた数字を当てた。
どうやら俺とイレブンを戦わせたいのは事実のようだ。
そして、さらにスクルドはアム、ミスラ、ハスティアの分も代わりに引いた。
って、俺の一回戦の相手、ハスティアになってるな。
まぁ、変な奴を相手にするよりはやりやすいが。
十五番のミスラの対戦相手は十六番を引いたさっきのセカンドっていう鎌使い。
七番のアムの対戦相手はまだ決まっていないのか。
そして、抽選会は続く。
「では、最後に念のため、ワグナー選手お願いします」
ワグナーは一番最後だったらしい。
ってあれ? こいつの番号は――
「ワグナー選手は八番。第四試合、アミさんとの対戦になります」
それを聞いて、アムが強く拳を握った。
スクルドの奴、いったいアムに何をさせるつもりだ?
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