第287話 神との戦いを心配するのは目の前のことが終わったあとで
「神頼みって、超能力とかでくじ引きの操作でもするのか?」
「ははは、そんなこと餃子にしかできないよ」
とスクルドはニンニクの入っていない餃子を箸でつまんで言うと、そのまま餃子のタレをつけて食べた。
魔人ブウでもできると思うぞ。
「じゃあ、どうするんだ?」
「どうするもこうするも、私は未来を司る神よ。つまり、君がくじを引く段階で、どこのくじを引けば狙っている番号が出るかはわかるわ」
「マジか……」
それって、こっちが攻撃しようとしたらどこを狙っているかわかるってことだよな。
敵になれば恐ろしい相手だ。
いや、その前提条件はおかしいな。
現時点で彼女は敵なのだから。
くじ引きはどんな感じで行われるのだろうか?
未来が見えるとして、あみだくじみたいな方法だというのなら非常にわかりやすい。
裏返っている札を自由に選べっていうのでもいい。
どこを選んだらいいかわかるのだから。
だが、スクルドが用意したのは、木箱だった。
中に入っているのは番号の入っているガラス玉だ。
凄いな、番号の書かれた紙片がガラス玉の中に入っている。
「練習用の球だけど本番に備えて本物と同じものを用意したのか。さすが皇帝肝入りの武道大会だな。こんな凝ったガラス玉を用意するなんて」
「いや、本番では普通に木の球が使われるわ。これは私の趣味よ」
本物より豪華なものを使うなよ。
彼女が指をパチンと鳴らすと、木の箱がガラスに変わった。
「さて、中に球がいくつ入っているかしら?」
え? そりゃ十六人参加者がいるのだから……ん?
「七個しかないな」
ハスティアが数えて言った。
透明のガラス玉が五つに赤い半透明のガラス玉が二つ?
「ご主人様が引くときにはその数になっているってことですね」
「ええ。神龍でも呼び出せそうな数ね……ふふ、神である私を差し置いて神を名乗るなんて許せない龍ね」
「アニメキャラに嫉妬するなよ。ああ、そうか。俺が引くときには他の参加者がくじを引いたあとだから、七個になってるのか。二つだけ赤いのは?」
「勇者くんが引かないといけない玉よ」
「当たりは三つのはずだが、一つは引かれているわけか。できれば初戦で戦いたいんだが」
確率は3/13だと思っていたが、2/7に上がっている?
「これを見なさい」
スクルドはウーバーイーツの鞄の中から一枚の紙を取り出す。
それは決勝トーナメントの一覧。
そして、既に九人の名前が記されている。
一番左の一番が
そして、十二番は例の強盗殺人犯である蛇刀使いのグナサン、
「あなたがくじを引くときは既にこうなっているわ。だからあなたはここで九番と十番のどちらかを引かないとダメってわけ」
「……スクルドは未来を見れるんだろ? たとえば、グナサンにちょっかいをかけて他の番号を選ばせることはできないのか?」
「無理よ。イカサマによって、その番号は決まってるの」
「霜月やお前の番号はまだしも、グナサンも?」
「公開処刑よ。ベスト4になったら無罪放免なんてサービスをするつもりはないのよ。グナサンには確実に死んでもらう。本当はカイザーが自ら処刑するつもりだったみたいだけれど、側近に止められたみたいね」
なるほどな。
「あなたがくじを引くとき、球はこのような状態で入っているわ。だから、狙うとしたらこの右手前。取ってみなよ」
箱が透明だから、問題なく赤い半透明の球を取れる。
赤い半透明の球の中には九番の数字が書かれていた。
「これで勇者君は九番ね」
彼女はそう言った。
「なんかズルしてるみたいだな」
「ズルしてるのよ。正々堂々戦うのが私たちの目的じゃないでしょ。じゃあ、あとはよろしくね」
そう言って、彼女は立ち上がると去っていく。
「ウーバーイーツの鞄を忘れてるぞ」
俺がそう言うと、鞄は砂となって崩れ落ちていく。
誰が掃除すると思ってるんだか。
幸いなことに食べ物は砂になっていない。
棄てるのもあれなので全部食べることにしよう。
「リーナがいなくてよかったと思うべきだろうか」
「ええ……彼女がいたら複雑な心境な心境を抱くでしょうが、良いことはありませんから」
スクルドは師匠であり、祖国のクーデターを企ててリーナの父である国王を監禁していた張本人でもある。
決して許すことはできないだろうが、しかし憎み切ることもできない。
そんな複雑な思いがあるはずだ。
そして、あいつとアイリス様が戦う未来を想像する。
スクルドじゃないから、どんな戦いになるか全然想像ができない。
しかし、もしもアイリス様が破れたら――
「……トーカ様。目の前のことに」
「そうだな。いまは霜月を止めることに集中しないと」
あいつが爆発したらこの帝都は滅びる。
それだけは阻止しないといけない。
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