第286話 抽選は神頼みのあとで
決勝トーナメントの日程が決まった。
一番大事なのは決勝トーナメント初日――のその前日、抽選会だ。
スクルドが霜月と戦うよりも先に、俺が霜月と対戦できるようにしないといけない。
もしもそれができないのであれば、霜月が他の人と対戦中に会場に乱入して戦わないといけない。しかしそんなことをしたら邪魔が入るのは間違いないし、霜月に俺の正体が看破されるリスクも上がる。そうなったら最悪、その場で爆発されるかもしれない。
アムならギリギリ霜月に勝てるレベルだが、ハスティアとミスラは正直きついかな。
俺たちは着ぐるみを着ているから、装備を交換できれば――って思ったが予選トーナメント出場時に魔力を登録しているので成りすましはできない。
やっぱり俺が戦うしかないか。
四回勝てば優勝の決勝トーナメント。
霜月とスクルドの戦いは恐らく準決勝か決勝って言っていたから、霜月と戦えるのは一回戦か二回戦。
対戦カードの一部がヤラセっていうのなら、一回戦や二回戦でカイザーと霜月が戦うこともないだろう。
となると、3/13ってことかな?
結構低い確率だ。
逆に俺とスクルドが戦うことになったら困ったことになる。
俺に変装したスクルドが早々に負けることになったら、カイザーや霜月がどんな行動に出るかわからないし、俺が負ければ霜月と戦えなくなる。
「運をよくする方法がないものか」
「運は大事ですからね」
アムが同意するように頷く。
いや、いまは宝箱の昇格率の話はしていないからな。
しかし、腹が減ってきたな。
そろそろ飯にするかと思ったときだった。
「ウーバーイーツです」
「お、タイミングがいいな。誰か飯を注文したのか」
窓の外を見ると、ウーバーイーツの鞄を持った少女がいた。
ってこの世界がウーバーイーツの宅配圏内なわけないだろ!
この世界でウーバーイーツのことを知っているとすれば――
俺は警戒しながら玄関の扉を開けた。
「スクルド、なんのつもりだ?」
「ウーバーイーツです。お昼一緒に食べましょう。抽選会についても話があります」
俺の質問に、にっこりと笑みを浮かべる少女に、俺は嘆息を漏らした。
まぁ、俺の姿でないだけマシか。
彼女を家にあげる。
アムたちには警戒しておくようにとだけ伝えて。
一番広いリビングに招き入れると、彼女は鞄の蓋を開けた。
当然俺たちは警戒するが、出てきたのは料理だった。
餃子、レバニラ炒め、炒飯、天津飯、麻婆豆腐、エビチリ、カラアゲ、ゴマ団子と中華料理のオンパレードだ。
北京ダックやフカヒレ、ツバメの巣のような高級料理はない。
最後に割り箸と餃子のタレ、ラー油、小皿を置く。
「さて、大切なことを話す。二度と言わないから聞き逃さないように」
彼女がそう言うと俺たちは息を呑んだ。
わざわざ家にまで押し寄せてきて語るんだ。大切なことだろう。
「この餃子、こっちはニンニク入り、こっちの餃子はニンニクが入っておらず、代わりに生姜が使われています」
「何の話だよ!」
「餃子の話です。ニンニク入りだと思って生姜入りを食べたらイヤでしょ? では、食べましょうか」
そう言っても俺たちは動かない。
鑑定しても問題なさそうだし、とても美味しいそうだし、いい匂いだし、今すぐ食べたいが、邪神が出した得体のしれないものだ。
食べようだなんて――
「勇者くん、君ならわかるでしょ? 私がその気になればここにいる全員を皆殺しにできるって。毒はないよ。だから食べよう。君達が霜月を適切に処理するまで私たちは協力関係にある」
「……」
俺は割り箸を横にして割り、ニンニク入りの餃子を食べた。
「毒はない。みんな、食べよう。俺の故郷の料理だ」
中華料理ではあるが、天津飯があるってことは、中国の料理ではなく、日本の町中華だろうし、故郷の味で問題ないだろう。
悔しいが、うまかった。
ポチの料理も美味しいのだが、これは懐かしい。
「これ、お前が作ったのか?」
「ええ。世界中を回って素材を集めたわ。異世界のものは知っていても、持ってくることはできないもの。偽物の神と違って」
「アイリス様は本物の女神だぞ」
「この世界の神ではないでしょう? 私と違って」
スクルドが目を細めて言う。
顔は笑っているが、内心はどう思っているかはわからない。
「それで、何をしに来たんだ?」
「なにって、勇者くんが霜月と戦うためのサポートに決まってるでしょ?」
「戦うって、イカサマでもするのか?」
「まさか。正々堂々くじ引きで当てるのさ。困ったときの神頼みだよ」
神っていっても邪神だけどな。
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