第290話 アムを助けるのはワグナーを追ったあとで
地図をもう一度確認する。
アムがいない。
屋敷だけでなく、その周辺にも。
いや、待て、地図は地下など切り替えないと見れない場所もある。
それを再度確認する。
やはりいない。
ていうか、この屋敷の地下室は食材を収納するだけの部屋で、俺たちは使っていない。
念のためにノワールにも確認を取ったが、その中にもいないという。
だとすると、本当に一人で?
母親の仇を討つために自分を囮にしてワグナーを捜しにいったのか?
いや、そんなバカな。
アムはそんな自分勝手なことはしない。
ワグナーに対して何も思うところがないことはないだろう。
だとすると?
ワグナーの奴が何かしたのか?
あいつの対戦相手は全員失踪している。
考えてみれば、おかしな話だ。
ワグナーの対戦相手が失踪しているという話は多くの人が知っていることだろう。
対戦相手は何の対策もしてこなかっただろうか?
もしも俺が対戦相手なら、たとえば試合までの間ずっと誰かと一緒にいるとか、安全な場所にいるとか対策を取るはずだ。
なんに全員が失踪した。
そしてアムもいなくなった。
そこに秘密があるはずだ。
「俺はアムを捜しに行く。ミスラはハスティアと一緒にいてくれ」
「……ミスラも捜す。アムが心配」
「この国だとハーフエルフへの差別もある。それに、アムが帰って来る可能性もあるからな。悪いがハスティアと一緒にいてくれ。普通に捜して見つかるのなら、俺の地図があればすぐにわかる」
「……普通なら」
「普通ならだ。そして、普通じゃないのなら、すまん。猶更ミスラを一人で行動させられない」
「……力不足?」
俺は無言で頷く。
今のミスラは強い。
魔法使いとしては大陸一を自称してもいいレベルだと思う。
それでも、ワグナーは強い。
単純なステータスならアムがやっと戦えるレベル。
あいつには底知れぬ何かを感じる――ってのは第六感が発達していない俺が言っても説得力がないが、
「……気を付けて」
「ああ……それと危ないと思ったらこれを使え……ってのはひどいか?」
「……ん、使わせてもらう」
俺はミスラにそれを投げると、彼女はそれを空中でキャッチする。
そのままはじき返してくれてもよかったのだが。
しかし、それでミスラの命が助かるのなら、是が非でも使ってもらいたい。
「じゃあ行ってくる」
俺はそう言って、窓から隣の家の屋根に飛び移った。
帝都を縦横無尽に駆け回る以上、普通に町の通路を歩くよりもこちらの方が動きやすい。
教会、裏通り、スラム街、武道会場、宿屋街などは地図で確認した。
だが、いくら探しても反応はない。
アムは仲間を示す青いマークだからわかりやすいはずなのに。
まだ索敵のできていないのは王城の中心部。中に忍び込むか?
いや、王城の中にアムがいる可能性は低いか。
情報が足りない。
情報……そうか、情報だ。
こういう時のためにアリと契約していたんじゃないか。
あいつとは最近直接会わずに代理人を介して情報を貰っているが、借りている宿は聞いている。
借りているのは街の外れの安宿だった。
豚の着ぐるみを着て入る。
銅貨一枚をカウンターに置き受付でアリの名前を出すと部屋の番号をすんなり教えてくれた。
部屋をノックすると、返事が返ってくる。
「旦那、どうしたんです? そんなに慌てて」
「アミが行方不明になった。部屋にいたはずなのに気付いたらいなくなってた」
「アミっていうと、あのキツネの姉御ですか。ワグナーの野郎の次の対戦相手ですね」
「ワグナーの対戦相手は全員失踪していると書いてあったが、実際どうしてるのかわかるのか?」
「わかるのは全員行方不明としか……唯一の救いがあるとすれば死体も見つかってないってことですね」
「まるで生きている可能性が低いような言い方をするな」
アムは強い。
多少の危機は余裕で乗り越えられる。
死んでいるはずがない。
死んで――そうだ!
ステータスを確認する。
同じ町の中程度なら、離れた場所にいても仲間の装備を変更できるし、道具欄の入れ替えも可能だ。
もしもアムが捕まっているとすれば、彼女に手紙を送る事も返事を貰う事も――
ステータスを確認した。
体力は減っていない。
アムは生きている。
それがわかった。
「くっ、町にいないのかっ!?」
だが、道具欄の中身の変更はできない。
つまり、アムが帝都にいないということになる。
「アミの姉御は帝都にいないのですか?」
「ああ。そうだ、ワグナーがどこに泊まっているかわかるか?」
「すみません、旦那。それはわかりません。ただ、ワグナーの奴が下水道に入っていったのを見た奴がいるみたいです」
「下水道?」
「入り口はここですね」
アリが地図で場所を示す。
ワグナーが下水道に?
そこになにがあるのかはわからないが、町を走り回ってもワグナーの居場所もわからなかった。
「助かった。これは情報料だ」
俺は道具欄から宝石を一個取り出してアリに投げて下水道に向かった。
「頑張ってください、
アリの声が一瞬ダブって聞こえた気がしたが、俺は下水道の入り口に向かって走った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます