第291話 下水道最下層に行くのは下水道スライムを殲滅したあとで

 帝都の下水道について、地図と一緒に情報も貰っていたので、それを読みながら目的の場所に向かった。

 下水道の入り口は人通りのない場所にあり、鍵のついた木製の扉で封鎖されていたが、壊す必要もなく普通に飛び越えて中に入ることができる。

 上水道だったなら、毒を撒かれたら大ごとだけれど下水道だったら間違えて子どもが入ってしまわないようにするくらいの設備でしかないということか。

 下水道の掃除以外で好き好んで中に入る奴はいないだろう。

 まだ入り口に入ったばかりだというのに酷い臭いだ。

 俺は布を取り出して、それに消臭剤をかけて口と鼻を覆った。

 かなり臭いが軽減されたが、こんな場所にアムがいるとしたら彼女(の嗅覚)が心配だ。

 俺はランタンで周囲を照らしながら下水道の中を走った。

 いつも着ている空の主人公衣装に着替えている。

 アバターなら下水道の汚水で汚れても装着し直せば綺麗になって、洗濯する必要がない。

 アリから貰った下水道の情報を思い出す。

 ここは帝都が、いや、トウロニア帝国できる前から存在する地下遺跡だったらしい。

 そこを整備して下水道として利用したのがトウロニア帝国の初代皇帝なんだそうだ。かなり罰当たりだと思うが、帝国の人口を考えると、下水工事が必要なのは確かで、それを効率よく行おうと思えば、既にしっかりと地下通路が存在する遺跡を利用するのはタイパもコスパも申し分がないといったところか。

 そのため、かなり下水道は入り組んでいる。

 地図があっても迷いそうだ。

 システムの地図って二次元構造だから、複数に階層が分かれていると何度も切り換えないといけない。

 目指すのは地下の最深部だ。

 ここに来て気付いたことだが、下水道でわかるのは地下三階まで。

 そして地下三階にも下り階段があるのだが、地下四階が表示されていない。

 たぶん、マップの範囲外ってことだろう。

 ゲームでも街に入ると一定距離までは表示され、それは地下でも変わらないのだが、一部表示されない場所がある。

 隠しエリアや街の中のダンジョン、そして結界の張られている場所がそれだ。

 地図を見たとき、下水道にアムがいないのは確認していたのだが、地下四階への階段があっても地下四階のエリアが存在しないのは、てっきり階段から先が崩落して何もないからだと思い込んでいた。

 しかし、その先があるのなら、アムがそこにいる可能性がある。

 そして、ワグナーも。


「まぁ、簡単にいけないよな」


 地下三階層。

 下水が流れ込んでいるが、そこに現れたのはスライム軍団だ。

 下水を浄化しているわけではなく、あくまで汚物の一部を餌にして繁殖しているだけなので、倒してしまっても問題ないわけだが、その数が非常に多い。

 火の魔法を使って燃やすか? なんか黒い油っぽい見た目をしているからよく燃えそうだが、しかし燃えすぎて酸欠になったら困る。

 アイスバレットを使うか?

 あれなら下水道が壊れたりしないだろうがしかし、下手に凍らせれば滑って転んでしまいそうだ。

 それに、広範囲の魔法ではない。他の魔法も同じだ。

 無視して飛び越えて行こうと思ったが、スライムを一匹踏みつけてしまうと、脚がくっついた。

 うわ、まるでガムを踏んだようにベトベトしている。

 アバターを動物なりきりセットに変更、もう一度空の主人公衣装に戻した。

 靴のベトベトがなくなったが、このままスライムを無視していくと一歩進む度に衣装を変更しないといけなくなる。

 かといって剣で倒すには多すぎるし、やはり剣を一度消して出してを繰り返す必要が出てきそうだ。

 どうしたものか――と思ったら、ランタンによって照らされた俺の影が急に伸びた。

 と思ったら、影からノワールが飛び出して、スライムたちを下水ごと呑み込む。


「ノワール、下水なんて呑み込んで大丈夫なのかっ!?」


 お腹壊したりしないか?

 って思ったら、ノワールは俺を見て頷くと、影の中から下水だけを吐き出した。

 ああ、影の中に収納したみたいな感じなのか。

 それでスライムだけ消化したと……いや、汚物を餌にしているスライムを食べるのも体に悪い気がするが、まぁノワールはドラゴンだから大丈夫なのだろう。


「助かった!」


 俺はそう言うと、ノワールは影の中に戻っていく。

 心なしか誇らしげな表情をしていた。

 さらに進む。

 地下三階に辿り着いた。


「これはまた……」


 これは祭儀場だろうか?

 中心に大きな石が敷かれている。

 ってあれ? この石の雰囲気、どこかで感じたような気がする。

 どこにでもある石のように見えるけれど、何故か引っかかるんだよな。

 鑑定をしてみる。


【召喚石:召喚魔法の補助を行う希少な石。大きければ大きいほどその補助能力は大きくなる】


 召喚石?

 そんなものがあるのか……って思い出した!

 この雰囲気、俺がこの世界に来たとき足下にあった石畳に似ているんだ。

 あの時はただの石だと思っていたが、あれは召喚石だったのかもしれない。

 もしかしたら、あれは石畳ではなく、巨大な召喚石の一部だったのかもしれない。

 ミスラから、召喚魔法は勇者召喚しか残っていないと言っていたが、大昔は普通に召喚魔法が使われていたらしい。

 ここはトウロニア帝国ができる前から存在する遺跡だって言っていたから、その時代に使われていた石なのかも。

 そして、アムや他の失踪者はここに召喚されていたのかもしれないな。

 ワグナーの手によって。


「――っ!?」


 石畳の隙間に茶色い髪の毛が見えた。

 鑑定をする。

 妖狐族の毛――と出た。

 アムの髪の毛だ。

 やはりここにアムがいる!


 俺はその髪の毛を収納し、地下四階に続く階段に向かった。

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