第149話 ダイエットを始めるのは運動不足を自覚したあとで
俺の予想通り、納屋の前だけでは人が収まりきらず、隣の空き地で祭り騒ぎになった。
まぁ、醤油の香りが強力過ぎた。
さらに、集まった群衆の目線は醤油だけではなく、ポチの持っていた日本酒に向けられる。
見たこともない酒――そんなものがあると知って、酒のみたちが黙っていられるわけがない。
結果、一人一杯までという条件でポチの酒は振舞われた。
そんなに配って大丈夫なのかと心配になるが、ポチも俺たちと同じく道具欄があり、酒や醤油、その他調味料類は月単位で使えるほどの量を持ってきているので問題ないらしい。
醤油のお礼に、俺たちも店で買えなかったタコやイカ、さらには夕食のために造っていたという漁師鍋までご馳走になった。
漁師町ってだけあって、魚介類が本当に豊富だな。
え? このヒトデ食べられるの?
卵だけ食べることができるのか。
味に当たりはずれが多いらしいが、俺が食べたものは当たりでもハズレでもなく、なんかビミョーな味だった。
「この雰囲気、うちの村に似てるな」
「はい。ご主人様が村長になられてからは毎日宴会のようですからね」
「……ん、賑やか。トーカ様、あーん」
殻を剥いてくれた海老をミスラが差し出してくれたので、口を出して噛みつく。
プリップリの海老がいいな。
「ふー、ふー、ご主人様、こちらもどうぞ」
アムが、漁師鍋の残った汁で作ってくれた雑炊を匙で掬って俺に差し出してくれる。
まだ少し熱いが、魚介類の出汁と醤油が混ざったこの味はシメとしては最高だ。
「いやぁ、聖者様。両手に花ですね」
「自分でも思ってます」
現代日本だったら、リア充爆発しろってお祝いメッセ―ジをダース単位で頂いていたことだろう。
その
「ポットクールさん、宿の食事は食べてきたんですか?」
俺は食事は最初から断っていたが、ポットクールさんや商会のみんなは宿の食事を食べているとばかり思っていたが、いつの間にか全員集まっている。
「いやいや、こんなににぎわっている状態で宿に籠っていられませんよ。それより、このショーユという調味料はいいですね。ポチさんが作られていると聞きましたが、どうです? 私の商会で販売してみませんか?」
とポットクールさんは、(犬なのに)猫舌らしく慎重に雑炊を冷まして食べているポチに提案する。
するとポチは顔を上げて笑顔で言った。
「ポットクールさん、この醤油はユサキ商会で販売するので、取り引きしたいならそこで買って欲しいのです」
「やはりそうですか」
ポットクールさんは狸耳をペタンとさせて残念そうなポーズを取る。
そして――
「なんだ、ポチさん! 今夜納屋で泊まるのか? なんだよ、宿のおかみさん、入れてくれないのかよ」
「おかみさんの気持ちにもなってみなよ。ポチさんはこんなにかわいくても魔物だからさ、例外を作れないだろ?」
「そりゃそうだけどさ――そうだ、ポチさん! 今夜はうちに泊まりなよ! ちょうど独り立ちした息子の部屋が空いてるからそこで泊まるといい!」
「あんたみたいなむさ苦しい男の部屋に泊るくらいなら納屋の方がマシだろ。ポチさん、うちに来な。ちょうどポチさんにピッタリのサイズの服もあるから貰っていっておくれよ」
なんかポチが人気になっていた。
馬車でも取り合いになるほど人気だったし、ここまで料理の腕を見せられたらこうなるのは必然か。
こりゃ、ポチも寝る場所の心配はなさそうだ。
ポチは魚を売っていた店のおばちゃんの家に泊めてもらうことになり、俺たちは宿で寝る。
宿は部屋がそれほど多くないため、男部屋二つ、女部屋一つ借りてでほぼ雑魚寝状態だった。
これだったら、ポチの方がいい場所で寝てるんじゃないだろうか?
昨日は食べ過ぎたせいか、朝になっても腹が減っていない。
揺れが激しいとはいえずっと馬車旅だったわけだし、運動不足で太らないか心配だな。
「聖者様、少しよろしいでしょうか?」
「出発の時間ですね。はい、準備ができていますよ」
「そのことなのですが、今日は船が出せそうにないそうなのです」
「え? 船が出せない?」
天気はいいから絶好の航海日和だと思ったが、なんでも青空は広がっているが風が強く波が荒い。
だから船を出せないと、さきほど連絡があったそうだ。
大きな帆船ならまだしも、漁村の渡し船だからな。
そういうこともあるのだろう。
「じゃあ、今日はここで足止めですね」
こうなることは織り込み済みの依頼だったので特に驚きはない。
「ええ。それでですね、このあたりにもあるのですよ」
「あるって、なにが?」
「ダンジョンです。海辺のダンジョン」
ダンジョン⁉
そうだな、ダイエットしないといけないって思ったばかりだし、ちょうどいいだろう。
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