第150話 海辺のダンジョンは足止めのあとで
ポチは魚を売っていた店のおばちゃんの家に泊めてもらうことになり、俺たちは宿で寝る。
宿は部屋がそれほど多くないため、男部屋二つ、女部屋一つ借りてでほぼ雑魚寝状態だった。
これだったら、ポチの方がいい場所で寝てるんじゃないだろうか?
昨日は食べ過ぎたせいか、朝になっても腹が減っていない。
揺れが激しいとはいえずっと馬車旅だったわけだし、運動不足で太らないか心配だな。
「聖者様、少しよろしいでしょうか?」
「出発の時間ですね。はい、準備ができていますよ」
「そのことなのですが、今日は船が出せそうにないそうなのです」
「え? 船が出せない?」
天気はいいから絶好の航海日和だと思ったが、なんでも青空は広がっているが風が強く波が荒い。
だから船を出せないと、さきほど連絡があったそうだ。
大きな帆船ならまだしも、漁村の渡し船だからな。
そういうこともあるのだろう。
「じゃあ、今日はここで足止めですね」
こうなることは織り込み済みの依頼だったので特に驚きはない。
「ええ。それでですね、このあたりにもあるのですよ」
「あるって、なにが?」
「ダンジョンです。海辺のダンジョン」
ダンジョン⁉
そうだな、ダイエットしないといけないって思ったばかりだし、ちょうどいいだろう。
「ということで、今日は海辺のダンジョンだ! 一日中潜るから気合いを入れていくぞ!」
「はい!」
「……おぉ!」
ポチはお留守番なので、三人でのダンジョンだ。
場所はハンバルの漁村から歩いて三十分とかなり近い場所にある。
なんでも、成人の儀式とかで度胸試し的感覚で使われる初心者用のダンジョンらしい。
今の俺たちにとってはほとんどピクニック感覚だろう。
管理をしているのはハンバルの漁村の村長らしいが、成人の儀に使う時以外に特に入場の制限をしているわけではないので、安心して入ることができる。
ダンジョンの入り口は海岸沿いの崖を下って行ったところにあった。
海水が入るほどの高さはないので、満ち潮になってダンジョンの中に閉じ込められるなんてことにはならないな。
ダンジョンの中を進む。
川辺のダンジョンと同じで、ダンジョンの中にも海水で満ちている場所があるが、外に繋がっている雰囲気はない。
「どのような魔物が出るのですか?」
「魚系の魔物が多いらしい。てことは水の中から飛び出すのを警戒したいんだ……が……」
水の中を警戒していたのだが、その前に変なものを見た。
見た目はハリセンボンの形をしている。
その魚が、空を飛んでいた。
「ハリセンバルーンだな」
空を飛ぶハリセンボンのような魔物。
限界まで腹を膨らませると、急激に萎んでその反動で針を飛ばしてくる。
「食べられるのでしょうか?」
「どうだろ? フグの仲間だけどハリセンボンには毒はないそうだが――」
とりあえず、近付いて剣で突いてみる。
パンと弾けた。
針が飛んでくるがダメージはほとんどない。
服に刺さってはいるが、皮膚を貫くほどではないようだ。
これなら、ハリーさんが飛ばしてくる棘の方が痛いぞ。本当に「イタタっ」てなるからな。
そして残ったのは萎んだ風船のようなハリセンバルーンの死骸。
「こりゃ、食べるところはほとんどないぞ」
鑑定でも食べるところがほとんどないって出ている。
道具欄に入れておくが、道具欄がいっぱいになったら捨てる第一候補だな。
「でも、さっきの針が飛んでくるのは面白いですね」
「そうか? 俺はあんまり好きじゃないが」
風船を割るときのようなドキドキ感はあまり好きではない。
アムはそういう刺激を欲しているのだろうか?
「あの針を避けるのは動体視力を鍛える訓練になりそうです」
「避けるのかっ!?」
結構広範囲に広がってたぞ。
いや、でもアムの母さんはサクラトレントの花吹雪を避けたっていう。
「サクラトレントの花吹雪よりは避けやすいか……?」
「……常人には無理」
ミスラがアカデミー衣装についた針を抜きながら言う。
うん、俺も無理だと思うのだが、アムの服に刺さった針の数、俺やミスラに比べて明らかに少ないんだよな。
俊敏をもう少し上げれば、完全に避けてしまうかもしれない。
さらに道中サハギンの劣等種のレッサーサハギンが現れたのでそれも狩りつつ、奥に進む。
埋蔵センサーが鳴ったのでセンサーの音を頼りに穴を掘ると、貝殻が出てきた。
【ひと夏の思い出:耳に当てると波の音が聞こえてくるかもしれない巻貝】
ガラクタアイテムね。
まぁ、普通の貝殻だしな。
さらに奥に進むと、今度は亀の魔物が現れた。
「オイスタータートルだ。こいつはゲームでは世話になったな」
オイスタータートル、背中の岩は実は岩牡蠣で、倒すと必ず牡蠣を落とすのだが、20%の確率で真珠を落とし、500ドラゴで売れる。
ゲーム序盤の敵の中では最も効率のいい稼ぎモンスターだ。
牡蠣を食べたいので、当然倒しておく。
さらにダンジョンの奥に進むと、ボス部屋に到着した。
これは浅いダンジョンだな。
まだ三十分も経ってないと思う。
これ、もしかして十五、六周はできるんじゃないか?
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