第151話 ツルハシスマッシュはロケットパンチを封じたあとで

 ボス部屋に到着した俺たちだが、ここで初めての事態に陥った。

 ボス部屋に通じるはずの通路の手前の扉が閉じているのだ。

 いつもは奥の扉が閉じていて、俺たちが三人とも中に入る事で手前の扉が閉じる。

 そして、奥の扉が開き、ボス部屋に入る事ができるのだが、最初から手前の扉が閉じているのは初めてだ。


「恐らく、中で誰かが戦っているのでしょう」

「そうだろうな……少し待つか」


 ボス部屋の手前は安全地帯のため、魔物に対して警戒する必要はない。

 地面は少し湿っているので、座って待つ気にはならないな。

 立って待っているが、扉は中々開かない。

 一体中で何が?

 と思っていたら、扉が重い音とともに開いた。

 

 そこから現れたのは、赤い髪の男女二人組の冒険者だった。

 二人とも若い。

 日本だったらやや幼い中学生くらいの年齢に見える。

 彼らはロープで大きなゴーレムの死体を引っ張っていた。


「外から気配がすると思ったら、あたしたち以外の冒険者がいるなんて珍しい」

「悪いな、ボスは既に倒してしまったんだ。こいつ目当てだったら諦めてくれ。ここのボスは滅多に現れないから」

「いや、別に構わないよ」

  

 きっと俺たちが入ったらボスが湧いてると思うから。

 いなくても揺り戻しのねじ巻きを使ったら一回は戦える。

 二人が見えなくなってからボス部屋に入ろう――そう思って見送っていたら――


「凄いだったね妖力だったね」

「さすが妖狐族だな」


 見えなくなったところで二人が気になることを言っているのが聞こえた。

 慌てて追いかけたが、二人の姿が見えない。

 地図を開くも、二人の反応が消えていた。


 いま、妖力って言ってたよな。

 アムもミスラも、妖力や妖怪については何も知らないって言っていたが、やはりあるのか?

 あの二人、色々と謎を残していったな。


「ご主人様、彼らの匂いがここで途切れています」

「転移魔法かもな」


 あんな重いものを持って、一瞬のうちに地図の範囲外まで走って移動するなんて不可能だろう。


「……転移魔法は伝説の魔法。そう簡単に使える人がいない……と思ってたけど」


 ミスラが俺の顔をじっと見る。


「…………はぁ」


 そして、深いため息をついた。


「なんだよ、そのため息は」

「……トーカ様と一緒にいたら、常識の中で考えるのが馬鹿らしくなってくる」

「(ゲームの中では)常識の中の行動しかしてないぞ」


 まぁ、俺たちが使えるし、ミスラも理論を理解すれば魔法の出現位置をずらす転移魔法を使えるようになった。

 実際の転移魔法を使える人がいても不思議じゃない。

 もしも彼らが使ったのがダンジョンからの脱出魔法だったら、俺たちもエスケプの魔法を使えば追いつくことができるかもしれないが、違う魔法かもしれない。それだったら無駄足になってしまう。

 さっき、俺たちがいるのが珍しいって言っていたから、ダンジョンによく来てるってことだろうし、ハンバルの漁村の若者だろうか?

 だったら、村に行けばまた会えるだろう。

 ということで、俺たちはボス部屋の中に入った。


 暫く現れないと言っていたが、ボス部屋に入るとゴーレムが待ち受けていた。


「アクアゴーレム――水の多い場所に現れるゴーレムだ。水属性の魔物は雷属性が弱点だが、土属性でもあるからアクアゴーレムにはあまり効果がない。風属性と氷属性から選んで攻撃してくれ」


 俺はそう言って、ゴーレムツルハシを取り出す。

 ゴーレム系の魔物なので、こいつも弱点はツルハシだ。

 アムも何も言わずにアイアンハンマーに武器を持ち換えている。


 勝負は珍しく敵の攻撃からスタートした。

 離れた場所にいたら、アクアゴーレムが右腕を飛ばしてきたのだ。

 腕の中に溜め込んでいた水をジェット噴射にしてのロケットパンチ――アクアパンチだ。


 狙われたのはアムだった。

 結構早いが――


「せいやっ!」


 気合いを入れて振り回したアイアンハンマーがアクアゴーレムの腕を叩き落とす。

 アクアゴーレムは今度は左腕を飛ばそうと腕を構えるが、ミスラが魔法を使う方が早かった。

 ミスラの放ったアイスバレットがアクアゴーレムの左腕を凍てつかせる。

 腕の中の水も凍ってしまったのか、腕が噴射されることはない。

 アクアゴーレムは腕が飛ばないことでパニックになることはなく、近付く俺をその腕で叩き潰そうとするが、その時には俺はアクアゴーレムの右わきに入っていた。


「スマッシュっ!」


 特に能力でもなんでもない、単なるツルハシの振り下ろしで、アクアゴーレムの頭が砕けた。

 頭が壊されたアクアゴーレムはぐるぐる回って、そして倒れた。

 宝箱が五個現れる。


 金色宝箱、銀色宝箱×2、茶色宝箱×2の合計五つだ。

 最近よく見るパターンだな。

 さて――


「じゃん」

「「けん」」

「「「ぽん!」」」


 三人でジャンケン勝負。

 勝ったのはアムだった。


「……無念」

「ああ、残念だ」


 さっき休憩中、ミスラが「ミスラが開けた方が魔導書が多く出る気がする。金色宝箱が出たらミスラが宝箱を開けたい」なんてことを言い出して、それを言うなら俺やアムだって開けたい。

 だから誰が開けるかジャンケンで決めることにしていた。

 なので、アムが金色宝箱を開けることに。

 もちろん、俺とミスラは宝箱の横で待機しているので、中を確認するタイミングはいつも通りだが。


 宝箱の中から出てきたのは――


「お祝い用連続打ち上げ花火か」

「……ハズレ」

「申し訳ありません」

「アムが悪いわけじゃないって。宝箱が出た時点で中身は決まってるそうだから」


 打ち上げ花火は村人からの評判もよかったので、また何か嬉しいことがあったら使わせてもらおう。

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