第四章
第175話 カジノを建てるのは鍛冶場のあとで
ラン島の橋渡しのダンジョンに俺たちはいた。
ポイズンスライムを狩り続けて、いまはアドモンのメディスンスライムを倒したところだ。
赤い宝箱が出るのは、四度目。
中身はエクストラポーションという最上級のポーションだった。
ミスラが露骨にガッカリしている。
彼女の狙いはメディスンスライムが落とす魔導書だからな。
「……トーカ様、エスケプで脱出――」
「しないぞ。ボス倒してからな」
「……むぅ」
口を尖らせるミスラもかわいいが、それだけは曲げられない。
そんなことしたら――
「はい、ここまで来てボスを倒さないなんてありえません」
宝箱廃のアムが黙っていない。
ということで、ボス部屋に直行だ。
部屋に入ると、大きなゴリラが待ち構えていた。
名前はスローイングゴリラ。
戦いの時に一定時間ごとに何かを投げてくるのが特徴。
投げてくるものはランダムで、怖い順に並べると、糞、火の玉、ポイズンスライム、岩、木、バナナとなる。
よくあるゲームみたいに投げ返したり打ち返したりするアクションは必要はなく、普通に倒せる。
糞が一番怖いのは、それにあたると精神的にきついのに加え、わずかの間動けなくなるからだ。
しかも糞を投げる頻度が一番高いというから嫌いな敵だ。
「「スポットライト!」」
本当は嫌なのだが、タゲを集める。
黒鉄の剣を構えた。
「ソニックムーブ!」
剣戟を放つ。
スローイングゴリラの右わき腹に命中するが、このボスは体力がかなり高いのでまだまだ戦いは終わらない。
スローイングゴリラもまた俺と同じように剣戟を放ってきた。
素手で放つ技を剣戟と呼んでいいのならの話だが。
スローイングゴリラの能力、猿真似だ。
MPを消費しない能力を1/5の確率で真似して発動することがあるのだが、運悪くそれを引いてしまった。
「……風よ護れ」
ミスラの魔法により俺の目の前に風の防壁が現れ、スローイングゴリラの剣戟をかき消してくれた。
「パワースタンプ!」
とそこに、アムがすかさず巨大なハンマーを力を込めて振り下ろす。
パワースタンプの効果でスローイングゴリラがノックバックした。
後ろに退きながらも、スローイングゴリラは何かを取り出す仕草をする。
「投擲来るぞ! 注意!」
スローイングゴリラが振りかぶって投げた。
石だ。
少し安心して石を剣の腹で叩き落とす。
スローイングゴリラは腹を立ててドラミングを始め、攻撃力上昇のバフを自身に施す。
次の投擲の前に倒す――と俺は武器を黒鉄の剣から黒鉄の大剣に持ち替え、
「パワードライブ!」
と剣に覇気を上乗せして切り裂いた。
スローイングゴリラの身体から返り血が噴き出てもろにくらった。
宝箱が三つ出る。
一つは金色宝箱だ。
「金色宝箱が出たのは嬉しいが、最後に失敗したな。ハンマーにしておけばよかった」
上着を脱いで、洗ってある服に着替える。
「接近戦をする者の定めですね。私も今日二度ほど着替えましたし」
「だな。替えの服がなかったらダンジョン周回もままならない。ちょっと着替えるから宝箱を開けるのを待ってくれ」
金色宝箱の前で鎮座しているアムにそう言って、とりあえず上半身の服だけでも着替える。
馬車旅でたるんだ身体も、最近のダンジョン周回により引き締まり、スリムマッチョを自称してもいい体つきになってきている。
さて、宝箱の中身はなんだろうなー
「ん? おぉ! やっとでたか!」
「これは……石でできた人形でしょうか?」
「これはお地蔵様だ。正式名称福寄せ地蔵」
普通のサイズではなく、1/16フィギュアくらいの大きさの小さなお地蔵様である。
「金色宝箱からの出現率は1%。そろそろ出るだろうって思ってたが、ようやくって感じだな」
「どのような効果があるのでしょうか?」
「普通の魔物を倒したとき1%の確率で福引補助券を、アドモンとボスを倒したとき5%の確率で福引券を出してくれる拠点設置型のアイテムだな」
福引券を使ってもらえる景品の中でも特等のゴールド福引券は重要だからな。
前にも話したが、蒼剣においてゴールド福引券の景品はステータスアップなどもあり、エンドコンテンツ扱いされている。
なので、お地蔵様も重要アイテムだ。
特に重要なのは、お地蔵様は最大100体設置できるということにある。
100体設置すれば、雑魚を倒せば補助券1枚、ボスやアドモンを倒せば福引券が5枚手に入る計算になる
これは強い。
「さて、揺り戻しのねじ巻きを使ってもう一戦したあと、拠点に帰るぞ」
「……もう一周しない?」
「しない。アドモンは倒さない」
「……ミスラ、トーカ様に夜のサービスを目いっぱいするから」
「しない。ほどほどでいいと思ってた。最近、寝不足気味だ」
「……むぅ」
悪いが、今日はポチに早く帰って来るように言われている。
返り血塗れ(と糞塗れ)の洗濯物を洗ってくれるポチのご機嫌を損ねるのは得策ではない。
ということで、スローイングゴリラを無傷は当然として、今回は服を汚さずに倒した俺たちは帰還チケットを使って拠点に帰った。
死の大地周辺に存在する村は、自由都市を除いて村長の名前で呼ばれるのが通例となっている。
俺たちのいる村もその例に漏れることはない。
つまりは俺の名前を使って、トーカの村なんて呼ばれている。
俺がゲームでよく使う名前、トーカ。
いまや、本名の遊佐紀冬志以上に俺の名前になっている。
その村に本日、ある変化が起きる。
「あるじ、お披露目会が始まるのですよ」
施設ができるのだ。
前から決めていた。
施設を作る順番は、酒場、錬金工房、商店、鍛冶場、カジノ、牧場、畑の順番に作って、海にサブ拠点ができれば港や釣り堀を造ったり拠点のレベル上げをしたり……なんて思っていた。
商店まではもうできたので、次は鍛冶場だ。
「では、あるじ。この紐を引いてほしいのです」
紐を引くのは俺と転移門で繋がっている各村の村長、ラッキー町長、そしてトンプソンだ。
全員でゆっくりと紐を引くと、現場シートが剥がれ落ち、建物が現れた。
昼間だというのにド派手なネオンが光っている派手な建物。
鍛冶場――ではない、カジノだ。
俺たちの村にカジノができた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます