第174話 他国の介入は大規模発展のあとで
「いや、杜撰過ぎるだろ」
「私もそう思います」
「……ん、浅知恵」
グナイド教の奴らが来なくても失敗していたと思うぞ。
実際、騎士が出向いて来たのは山賊退治ではなく、国境の衛兵の失踪事件が原因だったわけだし、山賊については情報は入っているけれど無視しているみたいな感じだったからな。
「儂もそう思う。だからこやつらが山賊の真似事をしているのを見たときは呆れて何も言えんかった。まぁ、こ奴らの親には伝書鳩を使って手紙を送ったからな」
ラッキー船長がため息をついて言う。
黙っていたのって、こいつらを庇おうとしたんじゃなくてそういう理由?
それと、この世界にも伝書鳩ってあるんだ。
「そもそも、ラン島の再興とか言っておるが、こ奴らが生まれたときには既にラン島は放棄されていたのだ。ただ、今の生活が苦しいのを、ラン島に二度と戻れないせいだと決めつけて山賊の真似事なんてしおってからに」
そう言ってラッキー船長がポーツ村の連中を棒を使って殴ろうとする。
俺は慌てて止めた。
「け、計画はうまくいくはずだったんだ! ミストタートルを使って霧を出し、カイリュウノツカイという魔物を飼いならして通る船をこの島から遠ざけて小島に誘導するように波を操ってもらうことにも成功して、山賊としては完璧。あとは軍が派遣されるのを待って村に逃げ帰るはずだったのに――」
「村長に全部バレて、村を追放された」
「なぁ、俺たちどうすればいいんだよ! 村にも帰れないんだよ!」
「俺が知るかっ! ていうか、ミストタートルを用意したり、波がおかしかったのもお前らのせいか!」
どうりでさっきから浮かない表情をしているわけだ。
村に送り届けたところで追い出されるしかないのだから。
「よし、戻ってこいつらを騎士のところに届けよう。罪を償ってもらわないと」
「待ってくれ、それだけは!」
「どうか見逃してください! 反省してます!」
「反省なんて猿でもできるわ!」
俺がそう言ったとき、脇に抱えていたポチが動いた。
「ポチ、目を覚ましたのか?」
「ちょっと前から耳だけは聞こえていたのです」
ポーツ村を追放された奴らが、「コボルトが喋ったっ!?」と今更のことを言っているが無視だ。
「あるじ……」
「なんだ?」
「ごめんなさいなのです」
ポチがはっきりと、だが元気のない声で言った。
「気にするな。お前は全然悪くない。ただ操られていただけなんだろ?」
「油断したのです。ポチは普通の魔物ではないので、操られるなんて思いもしていなかったのです」
……そうなんだよな。
ポチはコボルトビルダーという魔物ではあるのだが、それ以上に特別な存在。
女神アイリス様が直接創造した魔物なのだ。
だからこそ俺も苦戦したわけだ。
あとでカスタマーセンターを利用して、アイリス様に
「それで、何があったんだ?」
「わからないのです。いつ操られたのかも。ただ、倉庫で隠れていたとき、妙な気配がしたので不安にはなっていたのですよ」
「だからブラックウルフに万が一のときのことを考えて頼んでいたわけか」
「はいなのです」
まぁ、これもワグナーの仕業だろうな。
あいつ、本当に何者なんだ?
もしかしたら蒼剣に出てくる魔王ラグン・ド・シャより強いかもしれないぞ――蒼剣の魔王は中ボスみたいな扱いだけどな。名前ほぼお菓子だし。
ということで、ポチからも情報はその程度か。
「じゃあ、ハッピーさんとポットクールさんも絶対に心配してるし戻るか」
「それで、ご主人様、彼らはどうするんですか?」
「……棄てる?」
んー、どうしたものかな?
一応、騎士隊長さんには彼らのことを村に届けるように言われたし、
「あるじ、ポチに考えがあるのです。あるじへのお詫びの意味も含めてサービスするのです」
サービス?
尻尾をもふもふさせてくれるっていうのなら喜んでもふらせてもらうぞ?
こうして、今回の物語は一応幕を閉じた。
そう、もう終わったのだ。
ポーツ村に転移門を置く計画は頓挫した。
というか、ポーツ村が無くなったのだ。
何故なら、ポーツ村に代わる新たな玄関口ができたからだ。
ポチのサービス、それはラン島にある町の再興だった。
ポチが建物を建て直し、そこに転移門と港、さらに造船所を作った。
元々、ポチの造船の技能により、大きな帆船ができたのだ。
ポーツ村の人間はそこに移り住んだ。
トーラ国という国の庇護は失ったが、しかし自由都市のマフィアという裏社会の後ろ盾、ミスラ商会による金銭的、物質的な支援、そしてなにより転移門による交通網により、その町は大きく発展することだろう。
既にポチにより造られた船が交易品と使者を載せて別の大陸に向けて船を出した。交易品の目玉はウサピーに売り払った魔物素材とミスラの作った聖水もどき――ミスラ薬らしい。
山賊もどきをしていた若い連中――と言っても大半は俺より年上だが――は、全員水夫として雇い、船に乗船してもらった。
三年間一生懸命働けば、山賊としての罪を一応許すことになった。
ここはどこの国にも所属していないので、町を支配している俺が行政であり立法であり司法でもある。
俺がそう言ったら文句を言う奴はいなかった。というか言える状況じゃなかった。
「しかし、この町にはもうこんなに人が集まってるんだな」
再興した港町トラス。
そこを見下ろせる高台から町の様子を見ると、大通りは活気づいていて、多くの人が行きかっている。
人口が1000人を超えたらしい。
最初、住民を集めてきたのはトンプソンだった。
船に乗る残りの水夫たちを集めたのも彼女だし、ここまで人を集められるのなら、マフィアなんてやらずに人材派遣会社でもやったらいいのに――と思うほどの手腕だ。
それから、町の噂を聞いて、かつてトラスに住んでいた住民や、ここで一旗を上げようと思ってやってきた人間が移り住み、町はさらに発展を遂げた。
ちなみに、この町の町長はラッキー船長になってもらった。
元々、この町の町長の息子だったそうだし、ポーツ村の村民たちにも信頼が厚い。
本人は渡し船の船長を続けたかったらしいのだが、もういい年だからって孫のハッピーさんに押し切られる形で町長となった。
「……大きくなり過ぎた。そろそろ周辺諸国も黙って見ていられない」
「はい。ウサピーさんが前もって商会の使者をトランデル王国とトーラ国、ブルグ皇国に派遣したそうですけど転移門のことはもう知られているでしょうね」
「まぁ、そうなるよな」
ミスラとアムの言葉に俺は頷く。
トウロニア帝国周辺の村はまだ支配下にないのでそちらには使者は送っていないけど、そちらにも当然知られているだろう。
はぁ、俺は毎日ダンジョンに潜って蒼剣みたいな生活を満喫できたらそれでいいんだけどな。
まぁ、乗りかかった船だ――本物の船はもう出港したけど――やれることはやるしかない。
ん? なんか町の方が騒がしいな。
そう思っていたら、走ってくる影が。
「聖者様! 大変だ! 港にクラーケンが出た! あの時のクラーケンだ」
ラッキー船長――もといラッキー町長が高台を全速力で走って来る。
年だというのに元気だな。
そうか、クラーケンが出るって話だったな。
「そうか、クラーケンですか。じゃあ倒しに行きますね」
「はい、行きましょう」
「……ん、倒す」
俺たちはそう言うと、港へと走った。
今夜はイカ焼きだな!
【遊佐紀様、アイリスです。
ポチさんの件を伺いました。
再度こちらで詳しく調べますので、それが終わり次第、一度そちらに訪問させていただきます。
そのため、来月以降の都合のいい日時を教えていただけると助かります。
追伸:聖剣の蒼い空、聖剣の蒼い大地に続く蒼剣シリーズ第三作、聖剣の蒼い海の開発が進んでいるようです。それに伴い、ゲーム発売後遊佐紀様のシステムに変更が加わる可能性がありますが、ご了承ください】
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第三章はこれにて完結です。
第四章は明日からの予定です。
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