第41話 職業の変更は営業開始のあとで

 時は遡り、ゴブリンキングを倒した次の日。

 ハスティアとメンフィスを見送った俺とアムは二人で話し合いをしていた。

 襲撃イベント、ゴブリンキング退治クエストをクリアして拠点ポイントが貯まったため、施設を建てることにしたのだ。

 現在拠点ポイントを使ってできるのは以下の施設。


・職業酒場Lv1(職業の変更できる。酒場の利用できる)

・カジノLv1(カジノの利用できる、福引場の利用できる)

・牧場Lv1(家畜を育てることができる。魔物を仲間にすることができる)

・畑Lv1(作物を育てることができる。井戸が利用できる)

・錬金工房Lv1(薬、武器、アクセサリーの属性付与ができる)

・鍛冶場Lv1(武器の作成、アクセサリーの強化ができる)

・商店Lv1(買い物ができる)

・レストランLv1(食事ができる)

・鍛錬場Lv1(待機キャラにも経験値が入る)

・櫓Lv1(襲撃イベントの発生時期を事前に知ることができる)

・自宅Lv1→Lv2(自宅が大きくなる)

・転移門(帰還チケットを使って転移門への移動ができる。転移門同士の通行ができる)

・サブ拠点(別の場所に拠点を作ることができる。ただし現地住民との信頼度が必要)



 拠点が発展するなど条件さえ揃えば、砦や工場、研究棟、図書館、城、空中庭園などの施設も建設が可能になるが、いまは無理。

 海や湖がないので養殖場と港の建築もできない。

 転移門とサブ拠点を除き、施設にはレベルがあり、そのレベルアップにも拠点ポイントを使う。


 安全を考慮するのなら、櫓も捨てがたい。

 櫓があれば、事前に知ることができるだけでなく、離れた場所にいても襲撃を知る事ができる。

 ゲームだと襲撃イベントに参加しなくても施設の破壊だけで済むのだが、現実だと人命にかかわるからな。

 それと、転移門――やっぱり移動は疲れる。

 離れた場所から一気に帰ることができる転移門は是非欲しい。

 だが、俺とアムが選んだのは、最初はとにかく強くなることだった。



「あるじ、おかえりなさいなのです! 施設、完成したのですよ!」


 俺が帰って来ると気付いていたのか、ポチが家のすぐ近く、工事の現場シートで覆われた建物の前で待っていた。

 そして、俺に紐を引っ張るように促してきた。

 紐を引っ張ると、現場シートが剥がれ、自宅よりは小さいが、しかしながらオシャレなデザインの建物が現れる。

 職業酒場の完成だ。

 ポチは本当は村人全員を集めてお披露目会をしたかったそうなのだが、酒場といってもお酒が何も用意できていない状態で村人を集めてもガッカリさせると思ったので、今回のお披露目会は見送ることにしたらしい。

 ただし、酒が確保できたら皆を集めてお祭りをしたいと言っていた。

 一生懸命仕事をしていたポチに、ドッグフードを持って帰ってあげられなかったことが本当に申し訳なく思う。

 ポチに中を案内してもらう。

 中はカウンターと椅子だけの酒場で、後ろの棚にはグラスは並んでいるがお酒はない。

 カウンターの隣にはトイレもあった。男女分かれている。

 カウンターの裏側にも扉があり、そこは従業員のプライベートルームとお酒の保管庫兼醸造スペースになっているそうだ。


「ちゃんと酒場だな。ここはポチが管理してくれるのか?」

「ポチはお酒は苦手なのです。だから、そろそろ来るのです」


 そろそろ来る?

 とそのとき、着信音が聞こえた。

 メールだ。

 メニュー画面を開く。

 メールの差出人はアイリスア様だった。


【遊佐紀様、職業酒場完成おめでとうございます。

 酒場の管理人が必要だと思うので、特殊能力NPC召喚Ⅲを付与しました。


 追伸:遊佐紀リンさんに遊佐紀様が異世界に召喚されたこと、ようやく信じてもらえました。リン様のことは私に任せて異世界で頑張ってください】


 妹のリンについて軽く触れられていた。

 いまどうしているかは気になるが、アイリス様が見守ってくれるというのだから彼女に任せよう。

 元気でいてくれると信じることしかできない。

 そして、ステータスを見ると、NPC召喚Ⅲが付与されていた。

 NPC召喚Ⅱではなく、NPC召喚Ⅲなのは、きっとⅡは別の場所で必要になるNPCなのだろう。

 鍛冶師とか、錬金術師とか商人とか。


 職業酒場のNPC、たぶんあいつだな――と思ってNPC召喚Ⅲを使用する。


 現れたのは二本足で立つ三毛猫――よいどれケット・シーだった。

 蒼剣の中に登場する、お酒が大好きなケット・シーの一族であり、いろんな国で酒場を営んでいる。

 また、ケット・シーは魔法に秀でた種族であり、他人の職業を変える魔法を一族の秘術として伝承している。

 職業酒場には欠かせないNPCだ。


「あんたがボスかにゃ?」

「ああ、遊佐紀冬志だ。トーカってよんでくれ」

「トージにゃのにトーカにゃのかにゃ? 変わってるにゃ」

「言うな。それで、お前の名前なんだが、ミケでいいか?」

「問題ないにゃ。美味い酒さえ造れたらいいにゃ。ボス、樽は持ってるにゃ?」

「二つあるぞ」


 俺は手に入れたばかりの大樽を二つ置く。


「ありがとうにゃ。そこのコボルト先輩」

「なんなのですか?」

「酒に使える食材が欲しいにゃ。にゃにがあるにゃ?」

「お酒に……んー、砂糖ならいっぱい使えるのですよ?」

「じゃあピンガもどきでも作るかにゃ。香り付けににゃりそうな草がにゃいか探さにゃいとにゃ」


 ピンガはサトウキビのしぼり汁から作る蒸留酒のことらしい。

 俺の世界だとブラジルが原産国として有名なのだとか。

 葡萄の苗とゴールデンコーンの苗を手に入れたことを伝えたら、「ワインとバーボンも作れるにゃ。そそるにゃ」と喜んでいた。

 もっとも、収穫には数日必要になるだろう。


「ということで、ボス。明日来るにゃ」

「職業の変更をしたいんだが」

「酒もにゃいのに酒場は営業できないにゃ。オレっちの矜持、ここは曲げられにゃいにゃ」


 と冷たくあしらわれた。

 ちなみに、ミケに性別を訪ねたところ、


「おいおい、ボス。三毛猫のよいどれケット・シーだからメスに決まってるにゃ。三毛猫のオスにゃんて貴重種過ぎるにゃよ」


 って言われた。

 そういえば、三毛猫がオスの確率って、三万分の一とかだっけ?

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