第42話 職業変更はまずいっぱいのあとで
翌日、俺とアムは二人で酒場に行った。
ミケが出迎える。
「ボス、いらっしゃいにゃ」
既に透明の何かを飲んでいた。
たぶん、酒だろう。
「それがピンガか?」
「そうニャ。ポチが持ってる砂糖の中に三温糖があったおかげでトウキビ汁に近いものができたのはよかったにゃ。でも、ボスたちは、まずこれを飲むにゃ」
そう言ってミケが出してくれたのはビールだった。
こっちではエールだったっけ?
とミケに尋ねたら、ビールでいいとのことらしい。
今出たのは正確にはラガー。一般的に日本で飲まれているビール。エールもビールの一種なので、やっぱりどっちもビールだ。
ミケが言うには、大樽さえあれば、ラガーもエールも麦焼酎も作れるらしい。しかも小麦でも大麦でもオート麦でもライ麦でも作れるっていうのだから凄い。
村人に挨拶に行ったついでにライ麦を分けてもらい、樽のうち一つはピンガを、もう一つはラガービールを作ったらしい。
麦を樽に入れたあと、どうやって作るものを分けているのかは企業秘密らしい。
「……俺、二十歳になってないんだけど飲んでいいのか?」
「こっちでは十五歳で成人にゃ。それにこの周辺国では酒を飲むのに年齢規定はにゃいにゃ」
そうなのか?
アムに尋ねると、この村では井戸の水が豊富なため飲み水には困らないが、他の国だとそのまま飲める水がほとんどないため、お酒を飲用水として飲んでいる地域も多いそうだ。慣例的に小さな子供はお酒を飲まないことになっているが、それも詳しい取り決めはないらしい。
水をそのまま飲むのは貧民層くらいだという。
俺の場合、最近はペットボトルに水道水を入れて運んでるから、こっちの飲み水事情とか全然考えてなかったな。
まぁ、郷に入っては郷に従えっていう。
ドイツやフランスだと十六歳からビールを飲んでもいいらしいので、海外に来たつもりで飲んでみるか。
俺とアムは二人並んでビールを飲む。
「……苦いな」
「とても美味しいです」
俺とアムの正反対の意見が出る。
え、これおいしいの?
泡とか普通に苦いんだけど。
グラスが小さいので、アムは一気に飲み干した。
「ボスは子供にゃ。アム、もう一杯飲むにゃ。あ、これはつまみにゃ」
「ありがとうございます、ミケさん」
ミケが空になったグラスにビールを注ぎ、ポチから貰ったのであろう魚の燻製を差し出す。
「そういえばボス。葡萄の
「ああ、昨日の夜に家の裏に植えたよ。天の恵みの能力を使ったから、数日で実ると思う。ポチには畑を造って植えた方が高品質のものができるって言われたけど、当分畑に回せるポイントがないんで」
「それでいいにゃ。あと、できればレモンかライムが欲しいにゃ」
「はいはい、気が向いたらな……そういえば米の苗をポットクールさんに頼んでるんだった。米も欲しいんだろ?」
俺は日本酒を飲んだことがないが、日本酒は海外では人気だってよく聞くからな。
そのことを話したが、ミケは首をかしげる。
「ああ……どうだろうにゃ? 確かにボスの世界では日本の酒は海外で人気だったかもしれにゃいが、それは日本の醸造メーカーがしっかり品質を管理し、しっかり営業をして評価を高めたからこそ価値があったのにゃ。この世界の人に飲ませるにゃら、いまは慣れ親しんだ素材の酒の方が喜ばれると思うにゃよ。まぁ、ポチは喜ぶと思うけどにゃ」
「ポチが? ポチってお酒苦手って言ってたけど?」
「ポチは料理酒とみりんが欲しいって言ってたにゃ」
あ……そういえば本みりんもお酒の一種なんだったっけ。
ポチの料理は和食が多いから、みりんがあれば便利だろうな。
魚の煮つけとか、さらに美味しくなるだろう。
俺もそっち方面の酒造りは是非協力したい。
「って、今日は酒を飲みにきたんじゃなくて、職業の変更だよ。ミケ、できるんだろ?」
「ああ、そうだったにゃ。まぁ、職業変更はおまけみたいなものにゃのだけど、ボスの頼みにゃ。やぶさかではにゃいにゃ。じゃあ、ボス。職業について説明してほしいにゃ。間違ってるところがあれば、オレっちが訂正するからにゃ」
ミケはそう言って自分のグラスにピンガを注ぐと、聞く姿勢に入る。
まぁ、俺の再確認を込めて説明するか。
ステータス画面の職業を示す。
俺は職業無し、アムは職業が村人、そして奴隷と変化したが、これはあくまでゲームにおいては初期職業であり、これを変化させることができる。
職業には職業ごとのレベルがあり、その職業レベルに応じてボーナスが付く。
ボーナスは主にステータスの増加と能力の取得だが、ステータス増加については職業を変更すると上昇値が半分になる。
例えば剣士になって力+20のボーナスを取得しても、魔術師になったら力+10になってしまうわけだ。
もちろん、剣士に再度職業を戻せば、力+20に戻る。
能力については、その職業の間でしか使えない能力と、職業を変えても使える能力がある。
また、職業を変えている間は、技能にもボーナスが付き、剣士だったら剣術の技能が伸びやすい、魔術師だったら杖術や魔法系の能力が伸びやすいといった特徴もある。
逆に技能が伸びにくくなることはない。
つまり、職業は就けばいいことはたくさんあるのだが、悪いことは何一つないってことだ。
職業には基本職、上級職、特殊職の三種類があり、上級職は基本職のレベルを最大まで上げることで転職することができる。
特殊職は転職アイテムを使用することで転職することができる。
「違うか?」
「だいたいあってるにゃ。あと、基本職への転職には一回につき5000イリス。上級職には50000イリス必要にゃ。ボス相手でもそれはまからにゃいにゃ」
「わかってるよ」
「それと、酒場レベルによっては転職できない職業があるから、ボスには頑張って拠点ポイントを稼いで、オレっちの酒場を大きくしてもらわないとにゃ」
「それは
「これだけにゃ」
―――――――――――――――――――――
剣士:Lv1
格闘家:Lv1
魔術師:Lv1
修道士:Lv1
盗賊:Lv1
―――――――――――――――――――――
種類少ない上に、生産職が一つもない。
でも、確かにレベル1だとこんなもんだったよな。
酒場レベル20くらいになると基本職だけでも三十種類くらいあったもんな。
それぞれの職業の特徴をアムに伝える
「アムはとりあえず剣士でいいか?」
「いえ、盗賊になろうと思います」
「盗賊? まぁ、いろいろと便利な職業ではあるが、でもなんで?」
「短剣の技能が上がると聞きました。ご主人様に言われた通り短剣の技能を上げて俊敏値を上げていたら、戦いやすくなったので、まずは盗賊として短剣技能を上げようと思います」
「なるほど……」
彼女なりに考えた結論だろう。
だったら俺はそれを尊重する。
俺は修道士になることにした。
ヒールは既に覚えているが、状態異常解除の魔法や、身体強化の魔法は覚えたい。
聖者と呼ばれている以上、それらしい能力が欲しいのだ。
「そういえば、メンフィスさんも修道士でしたが彼女も同じような職業なのでしょうか?」
アムが尋ねる。
正しくは修道女だったような気がするが、どうなのだろうか?
「ん? 現地人の話かにゃ? それは仕事が修道士ってだけで、この職業とは別の話にゃ。この世界でゲームシステムとしての職業を変更し、使うことができるのはここだけにゃ」
「ということは、このことが世間に知られたら大変なことになりそうですね」
アムの言う通り、そのことが知られたら世界中の強さを求める人間がこの村を訪れるだろう。
最悪、村がどこかの国に乗っ取られるかもしれないな。
せめて防衛能力が大幅に上がる「砦」が拠点にできるまではミケの能力は知られないようにしないといけない。
どこから情報が洩れるかわからないから、村人たちにも、ここはただの酒場だと言っておこう。
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