第43話 配達依頼はクエスト提示のあとで

 その日、拠点クエストが更新されたとポチから通知が来た。

 襲撃イベントで大量にポイントを稼ぐことはできたが、それでも拠点クエスト、特に強クエストは達成したい。

 ポチからクエストの内容を確認する。

―――――――――――――――――――――

物資の配送:100ポイント

推奨レベル10

達成条件:物資を安全に所定の場所まで届ける。

―――――――――――――――――――――

 随分と曖昧な話だな。

 物資が何なのか、所定の場所がどこなのか、期日はいつまでなのか一切わからない。

 ポチにこれがなんなのか確認すると、依頼主は間もなく訪れるとのことなので、そちらに尋ねて欲しいとのことだ。


「聖者様! 聖者様はいるか?」


 ノックもせずに家に入ってきたのは村長だった。

 急いでいたのではなく、ノックをせずに他人の家に入って声を掛けるのはこの村では当たり前のことらしい。

 家の扉に鍵とか掛けない田舎だからな。

 唯一鍵が掛かっている建物は、食糧保管庫と村長の家だけらしい。

 村長の家に鍵が掛かっているのは、村の運営資金などを保管しているからだそうだ。


「おぉ、聖者様! 実は聖者様に折り入って頼みがあるんだ」

「俺に? なんでしょうか?」

「アムを少しの間雇わせてもらえないだろうか?」


 アムを? 


「トランクル王国まで作物を売りに行きたいので、その護衛だ。もちろん、謝礼は払う。道中の食事に加え500イリスでどうだ?」

「ああ、そういうことですか」


 500イリスって大した額ではないように思えるが、物価の低いこの村では大金だ。

 アムを買う時にかなりの額、村でも負担してもらったので彼らにとっては虎の子といってもいい額である。


「ええ、いいですよ。ただ、道中の食事はいらないので600イリスで、俺も一緒に行くって条件ならどうです? 前金は必要ありませんので」

「聖者様もか? まぁ、いまは村の奴らもゴブリン程度なら追い返せるようになったし……ありがたいが、いいのか? 聖者様には役不足な仕事だろ」

「いいんですよ。他の町も見てみたかったですし」


 なにより、拠点クエストのためだ。

 無料でも引き受けたよ。

 それに、他の町に興味があるのも事実だ。

 王国内での商品の物価とか見ておきたいし、ポットクールの店もどんな店なのか気になる。


「でも、なんで急に? 作物ならポットクールさんが定期的に買い取りに来てくれるでしょう?」

「ああ、そうなんだが、村の連中、金が急に入用になってな」

「金が?」


 この村での商品のやり取りは、基本物々交換だ。

 最近、アムを買ったあと、俺が払った金というと職業を変更するときに払った一万イリスくらいだ。


「昨日、聖者様の従魔のミケさんの店に行ったんだ。大麦を分けてやった礼に酒を振舞ってくれるって言われてな。ビールとピンガって名前の酒なんだが、恥ずかしい話、酒を飲んで泣いたのは初めてだ」

「泣き上戸なのですか?」

「うますぎて泣いたって意味だよ! とにかく、俺は水で薄めたワインと、ぬるいエール、あと一度だけ蜂蜜酒を飲んだことがあるが、それ以外は初めてだったんだ。しかも、ミケさんが言うにはこれから酒の種類はもっと増やしていくっていうじゃないか。俺たちは歓喜した。そして同時に絶望した。次回からは有料だって言われたんだ」


 村人割りってことで、俺たちの代金は半額にしてくれるそうだし、ミケも酒造りに使う作物を定価で買い取っているそうだが、それでも村人全員が酒場に通う金にはならないそうだ。仕入れ値が売り上げを上回ったら商売として成立しないからな。

 つまり、ミケの店で酒を飲むため、ポットクールに頼らずにお金を得られる手段が欲しいってことか。

 尚、酒場の売り上げの三割は俺の収入となる。

 これはゲームシステムと同じだな。

 

「村長、私からも一つお願いがあるのですが」

「なんだ?」

「町で品物を売って、そのまま村に帰る予定だと思いますが、一日、町に滞在する時間をください」

「……しかし、滞在するには宿代が」

「宿代もこちらが負担いたしますので」

「……そうだな。確かに町を見たいっていう聖者様の望みを考えると、そのままとんぼ返りってのも悪いか。でも、本当にいいのか? 宿代、結構するぞ? 下手したら護衛代の報酬より高い」

「問題ありません」


 と言って、アムが俺を見てくるので俺も頷いた。

 金には困っていない。

 出発は明日の朝と決め、村長は家を出た。

 拠点ポイント獲得のチャンスだ。


「ところで、アム。町に一日滞在するって決めたのは俺に町を案内したいだけか?」

「案内……といえば案内になりますが。町にはダンジョンがあるからです」

「ダンジョンっ!? え? 町の中にあるの?」

「はい。迷宮型のダンジョンで、難易度は水辺のダンジョンよりは高いですが、いまのご主人様なら踏破できるレベルです」

「そうか。それで――」

「はい。初回クリアは銀色宝箱が、完全クリアで金色宝箱が確定するのですよね?  ダンジョンの難易度が上がれば中身もよくなるそうですし、何が入っているか楽しみです」


 うん、俺も楽しみだ。

 ……あれ?

 もしかして、アムの奴。

 俺と一緒にダンジョンに潜って宝箱を開けまくっているせいで、ダンジョン廃人になっていないか?

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