第313話 緊急会議はアムを寝かせたあとで

 全員で拠点の転移門から出てきたが、拠点までも大地震に見舞われていた。

 この街の建物はポチが作ったものがほとんどで耐震強度も高いためそう簡単に壊れはしないが、地震なんて経験したことのない町の人はパニックになっていた。

 この世の終わりだと叫ぶ人もいる。

 これが日本だったら、大袈裟なって思うだろうが、魔王の復活の前兆というのだから間違いではない。


 地震はほどなくして収まった。

 しかし、地震を経験したことのない町の人たちはまだ怯えて立ち上がることもできない様子だ。


「トーカ様!」


 駆け寄ってきたのはリーナだ。

 一緒にいるのはメンフィスだ。町に帰ってきていたらしい。


「ハスティア様、ご無事ですか? 顔色が悪いようですが」

「平気だ。それよりメンフィス、服に血が付いているがどうしたんだ?」

「先ほどまで怪我人の治療をしていましたから」

「怪我人って、ダンジョンの中で怪我した奴らか?」


 でもダンジョンですれちがった奴には回復薬を渡したから怪我は自力で治せるはずだが。

 俺が尋ねると、メンフィスは軽く舌打ちをし、首を横に振り、一応敬語で説明する。


「いえ、近くのダンジョンに狩りにいっていた冒険者です」

 

 近くのダンジョンっていうと、ジャイアントスネークのいるダンジョンか?

 俺がこの世界に来て最初に行った初心者用のダンジョンだが、戦いの経験のない奴がいったら怪我をするかもしれない。

 まぁ、冒険者なら怪我くらいはするかと思ったら、事情が違った。

 怪我をしているのはダンジョンに何度も行っているベテランの冒険者だという。

 そのダンジョンの魔物が何故かいつもより強かったらしい。

 

「一応峠は越えましたが、先ほどまで危なかったです」

「ハイポーションを使っても?」

「はい」


 村の治療院や教会にはハイポーションを置いていて、危ない時は使うように言っている。

 骨折程度なら簡単に治してしまうレベルの回復薬なのだが、それでも治せないとなると本当に危なかったのだろう。

 いまは峠も越えて、快方に向かっているらしい。

 しかし、魔物の狂暴化って――やっぱりこれも魔王復活の前兆か?

 時期的にワグナーが俺たちをダンジョンの中に転移させた後だろうし。


「ところで、彼女はアムルタートですか? 髪の色が違うようですが」

「ああ、事情があってな。悪いが、アムを部屋で休ませたあと、ポチたちと話し合ってから詳しく説明する」

「それはいいのですが、彼の扱いはどうします?」


 とリーナはカイザーを見る。

 メンフィスや一緒に避難してきた大会参加者はわかっていないみたいだが、一応皇帝陛下だもんな。

 どう扱っていいか困るだろう。


「とりあえず客人扱いだ。迎賓館の客間に案内してくれ」

「……頼む」


 本当はカイザーも会議に参加したいだろうけれど、カイザーにとっては他国のトップ会議のようなものだ。

 参加できないことがわかっているので、素直にリーナの案内に応じて迎賓館に向かった。

 そして、俺はアムを寝かせる。

 まだ目を覚まさない。

 彼女のステータスを確認する。

 途中、回復魔法を使ったので体力は満タン。

 本来なえら目を覚ましてもおかしくないのだがまだ眠っている。

 その原因は、魔力だと思う。


 さっきまでアムのステータスは【魔力:0/1】だったのだが、今は何故か、「縺ゅ:n/n」ってよくわからないことになっている。

 文字化けしている。バグっている。

 恐らく、原因は彼女の中にある妖力のせいだと思う。 


 家の中に入ると、ポチ、ミケ、ウサピーの神獣が勢ぞろいで出迎えた。


「あるじ、おかえりなさいなのです。といっても、悠長に挨拶している暇はないのです」

「ボス、アムは預かるにゃ。妖力が溢れて身体がついていっていにゃいだけだから、数時間で目を覚ますにゃ」

「社長はこちらに来てほしいです。ぴょん。魔王復活について話をします。ぴょん」


 神獣トリオは今起こっていることを正確に把握しているようだ。

 本当に頼もしい。

 だが、その三人がいつも以上に真剣な表情をしていることからも、やはり事態は深刻のようだ。

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