第314話 アイリス様の対応は緊急召喚のあとで

 アムを寝室のベッドに寝かせる。

 静かな寝息だ。

 顔色も悪くない。肌の色はいつもより少し白く見えるが、不健康な青白さではない。

 恐らく、これも彼女が妖力を取り戻した結果なのだろう。

 ミケも数時間で目を覚ますって言っていた。


「少し待っていてくれ」


 俺は彼女の頭を撫でてそう言うと、リビングに戻った。

 リビングでは、ミスラ、ハスティア、ポチたちが待っていた。

 話し合いはリーナが戻ってから行われることになった。

 まず、俺たちが自分の身に起こったことを説明する。

 武道大会が開かれること。

 それに参加することになったこと。

 スクルドが俺たちに接触してきたこと。

 武道大会決勝トーナメントの前日、アムが行方不明になったこと。

 帝都の下水道でクナイド教の奴らを見つけ、ワグナーと出会ったこと。

 ワグナーが武道大会の参加者を道ずれに、魔王城のダンジョンに転移させられたこと。

 そして、ダンジョンで起こったこと。


「とまぁ、そんな感じだ」

「霜月さんを停止させるためだけだったはずなのに、とんでもないことになっていますね。これも勇者の運命でしょうか?」


 リーナ、不吉なことを言うな。ハスティア、当然だと言わんばかりに深くうなずくな。

 俺もこんな予定じゃなかった。

 こっそり帝都のお城に忍び込んで霜月を破壊するだけのはずだった。

 ていうか、そうしてればよかったと後悔している。

 なに、正攻法で霜月と戦おうとしてたんだって話だよな。

 ノワールの力があれば城を出入りしている人の影の中にこっそり入って移動してカイザーにも接近できただろうに。

 あの時はあの選択がベストだって思ったんだけど、結果論だけで言えば失敗だった。

 いや、スクルドにそう誘導されていたのかもしれない。

 くそっ、スクルドめ!


「だいたいの事情はわかったのです。魔王が復活しつつあるってことなのですね」

「ん? まだ復活してないのか?」

「はいなのです。魔王の四肢はそれぞれ別のダンジョンに封印されているのです。それらがないから魔王の身体はまだ魔王城のダンジョンから出られないのです」


 そういえば魔王の右腕が最難関のダンジョンに封印されているって言っていたな。


「しかし、それが本当なら、ワグナーも先に魔王の四肢を解放してから魔王の復活に挑めばよかったんじゃないか?」

「魔王の四肢が封印されている場所にも魔王の本体ほどじゃないけど、結界が張られていたのです。その結界も魔王の本体の封印が解けた余派で砕けてしまったのです」

「それに、魔王の結界が解けたら、魔王の配下も復活します。ぴょん。彼らに任せればいいと思ったのでしょう。ぴょん」


 魔王の配下に任せて楽しようとしていたってことか。

 ていうことは、魔王の配下が現在進行形で魔王の四肢を取りにダンジョンに向かってるってことか?

 それ、かなり急がないといけないんじゃないか?


「そこまで急ぐ必要はにゃいにゃ。魔王の配下が動き出すまで一ヶ月はあるにゃ」

「……それまでに魔王の本体を倒せばいいの?」


 ミケが時間の猶予を告げるとミスラがすかさず尋ねた。


「魔王のいる場所は魔王城の地下百五十階なのです。でも、魔王城が崩壊しているから歩いて地下に潜るのは不可能なのです」

「……魔王と直接戦えない?」

「魔王の本体は徐々に地上に上がってきているのです。アイリス様の予想なら魔王の配下が動き出した少し後に地上に出てくると思います」


 魔王の配下は一緒に封印されているわけじゃないんだな。

 って、それより――


「それだよ! アイリス様だよ! 何してるんだ? 魔王は邪神らしいから、アイリス様が相手したらいいんじゃないか?」

「あぁ、そのことなのですが――」

「まさか、蒼剣で遊んでるなんてことはないよな?」


 だったら流石に容赦しないぞ?

 俺だって遊びたいのに。

 魔王の復活なんて事態がなかったら、ミスラに召喚魔法を研究させてゲームを召喚させるのに。


「あるじの妹がこっちの世界に来ることになって、急遽その手続きに追われているらしいにゃ」


 ……はい?

 誰の妹だって?

 俺の妹?


 リンがこっちに来るの?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る