第315話 作戦を聞くのは妹の話を聞いたあとで

「あるじの妹がこっちの世界に来ることになって、急遽その手続きに追われているらしいにゃ」


 ……はい?

 誰の妹だって?

 俺の妹?


 リンがこっちに来るの?

 なんで?


「今すぐというわけではないです。ぴょん。ただアイリス様の上司が未来を預言しました。ぴょん。近い将来、社長の妹がこっちの世界に行かないといけない事態に陥る。その時の準備をしておかないと彼女は死んでしまうって。ぴょん」


 ウサピーが「アイリス様から聞いた」と前置きをして言った。

 要約すると、リンに危機が迫っていて、この世界――メリシアに来るしか生き残る道がない――と言ったところか。

 未来を預言する神様って言うとどうしてもスクルドを思い出すが、あいつは邪神だ。まぁ、別神べつじんだろうな。


「でも、準備ってそんなに必要なのか?」

「にゃんでも、同時に四人くらい召喚されるそうにゃ。前代未聞の転移だから、事前の申請が必要だそうにゃ」

「お役所仕事みたいだな」


 それにしても四人同時に異世界に?

 リンだけでなく、友達も一緒に召喚されるってことか?

 日本でいったいなにがあるんだ?


「地球と日本って時間の流れが違うんだよな? あっちだと今何年くらい経過してるんだ?」

「だいたい三年なのです」


 てことは、ミリももう高校生か。

 女子校生になったミリ……うわぁ、全然想像つかねぇ。

 あいつ、中学生の時でも小学生体形だったからなぁ。

 さすがに高校生になっていたら成長しているだろう。

 いや、案外あのままかもしれない。

 女子校生になったリン――うわぁ、どっちだ?


「……トーカ様の妹。是非義姉宣言しないと」


 ミスラが鼻息荒く何か言っている。

 もしもリンが成長していなかったら、ミスラと仲良くできるかもしれない。

 ただ、リンが来るのが遅かったら、俺たちの年齢を越して二十歳とかになっている可能性もあるんだよな。


「でも、こっちは世界の危機なんだよな? アイリス様が世界より妹の方を優先していいのか? 俺としてはありがたいんだが」

「元々、アイリス様の仕事はこの世界に召喚される地球の人に能力を授けることなので、そちらが最優先で、それ以外はついでなのです」

「それに、ボスはアイリス様に妹のことをよろしく頼むと願って、アイリス様はそれを受けたにゃ。異世界に行く人の願いは極力叶えないといけにゃいのが神の定めにゃ。猶更にゃおさらアイリス様はボスの妹のことを優先するにゃ」


 あの時の話ってそこまでのことだったのか。

 俺は神の加護があればいいなって感じでお願いしていただけなのに。

 まぁ、リンがこの世界に来たときは歓迎してやろう。

 拠点を作れば、ウォシュレット付きトイレも全自動のお風呂も無限に食材が入る冷蔵庫やなんでも入る棚まである。

 米や醤油、味噌もあるっていうんだから、日本に比べて娯楽(特にゲーム)が無いことを除けば過ごしやすい世界かもしれない。

 リンがこっちの世界に来るまでにこの世界を平和にしておこう。

 魔王退治への意欲が高まった。


「妹のことはわかったよ。それで、ポチ。俺たちはどうすればいい?」

「魔王の四肢を回収してきてほしいのです。棚の中に保管すればあとはポチたちが守ることができるのですよ。ただ、できれば同時にお願いしたいのです。魔王の四肢の一つが外に出ると、他の四肢もそれに反応して他の四肢に力が宿るのです。そうなったら、魔王の四肢が勝手に動き出す可能性があるのですよ」

「いやいや、同時にって、そんなの無理だろ?」


 と言ったら、ポチがテーブルの上に懐中時計を置く。

 なるほど、これで時間を合わせて回収しろってことか。

 

「ってことは、俺たち、ポチ、ミケ、ウサピーで分かれて? それとも、俺、アム、ミスラ、リーナ、ハスティアの中から四人で?」

「ポチたちはここから動けないのですよ。魔王の四肢が来たときに封印する準備をしていないといけないのです。そして、アムにも」

「アムにも?」

「はい。アムの妖力は魔王の四肢を封印するのに必要な力を有しているのです」

「そうなったら人数が揃わないだろう? さすがにリーナとミスラ、後衛がソロで行くのはきついだろ。いまから鍛えるのか?」


 でも、ゲストメンバーだと鍛錬場を使っても鍛えるのに時間がかかる。

 そうなると――


「俺が行こう」


 と話に割り込むように話に入ってきたのはカイザーだった。

 部屋の中に隠れていたのか。


「お前、皇帝陛下だろう?」

「魔王退治は昔も今もこの世界に生きる全てのものの責務だ。当然、皇帝である俺も先頭に立って戦う必要がある」


 そしてカイザーは高圧的な笑みを浮かべ、


「俺が魔王退治の一役を担ったと世間に知られれば、絶対的な権力を得るための礎になるからな」


 あ、そのことはまだ諦めていなかったのか。

 いまから参戦メンバーを探すのも面倒だし、こいつでいいか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る