第316話 アムと一緒は妖力制御のあとで

「貴様らは普段からこんなことをしていたのかっ!? ズルいぞ!」

「勇者の特権だ。お前だって皇帝の特権とかで良い装備を手に入れたり良い教師から剣術を教わったりしてただろ? それと同じだ」


 試練の塔でボール退治をしていると、カイザーが文句を言うが、俺は軽く躱す。

 あと、技術書で覚えられる能力は一通り覚えてもらった。魔法の適性がないので魔導書は使えなかった。

 そして、ボスの大きなボールを倒すと、金色宝箱が出た。

 今回4つ目だ。

 虹色宝箱こそ出ないものの、金色四つは素晴らしい。


「さすがカイザー! 運44は伊達じゃないな」

「……皇帝グッジョブ」


 俺に続いてミスラが親指を立てて言う。

 こいつもこいつで皇帝相手にも堂々としているな。

 一番対応に困っているのはリーナか。

 まぁ、リーナはトーラ王国の王女で、トーラ王国とトウロニア帝国は死の海を挟んではいるが一応隣国にあたる。

 ここでのやり取りが今後の国の関係にも影響する可能性を考えると、迂闊なことは言えないだろう。

 死の大地の周辺の街や村を取りまとめて国にしようとしている俺からしたら正真正銘の隣国になるわけだが、いまさらカイザーに対して畏まるつもりはさらさらないのでこの関係で行かせてもらう。

 とにかく、カイザーのおかげで宝箱の昇格率がいい。

 まだ眠っているアムが復帰したらさらに凄いことになりそうだ。


「……魔導書出た」


 インスタントワープか。短い距離を転移する魔法だ。

 距離はだいたい十メートル範囲内で、見える場所にしか転移できない。

 他の魔法と同様連続で使用できないのだが、敵の背後に回ったり、本来ならアイテムが必要な谷を飛び越えたり、段差を登ったりもできる重要な魔法であり、さらに、この試練の塔においては、離れた場所にいるボールに急接近して一撃を入れることができる。

 俺とリーナも覚えておこう。

 これでボール狩りがさらに楽になるぞ。


「よし、じゃあもう一周行くか」

「少し休んだらどうだ?」


 カイザーが疲れた様子で言う。

 こいつだけ重い鎧を装備して走り回っているから体力の消費が激しいのだろう。


「世界の命運は俺たちにかかってるんだぞ? ここで無理をしないでどうするんだ?」 

「それはそうだが――」


 ということで、ダンジョンから脱出し、もう一周行こうとダンジョンから出たところで、転移の外にポチが立っていた。

 アムが目を覚ましたそうだ。

 急ぎ寝室に向かうと、アムがベッドに座っていた。

 ミケとウサピーが傍で見てくれている。


「ご主人様、申し訳ありません。事情は聞きました。ご迷惑をおかけしたようで」

「アム、なんであの時地下に向かっていたんだ? 誰かに呼ばれている気がするって言っていたが」


 俺の質問にアムは首を横に振る。

 彼女にもよくわからないそうだ。

 ワグナーが何かしたのだろうか?

 あいつが死んだ今、その答えはわからない。スクルドあたりは知っているかもしれないが、あいつもどこで何をしているのかわからないな。いや、あいつと関わらない方がいいだろう。

 

「それで、体調はどうだ?」

「はい、平気です。もう動けます」


 アムがそう言って立ち上がろうとするが、俺は彼女の肩にそっと手を添え、


「無理するな。今は休んでろ」


 と彼女をベッドに座らせる。

 後ろでカイザーが「俺と扱いが全然違うぞ」って文句言ってるが、お前とアムの扱いが違うのは当然だろう。少し黙ってろ。


「アム。勇者様の言う通り無理はするな。私は魔力についてはよくわからないが、今のアムからは何か異様な力が渦巻いている」

「はい。精霊たちも騒めいていますね」

「……ん。魔力とは違う。それが妖力だと思う」


 え? いや、俺にはわからないが。

 髪の色が違う以外に何かあるのか?

 ステータスの「縺ゅ:n/n」のせいか?


「アムはいま妖力が溢れているが、体内たいにゃいに抑えておく力が皆無にゃ。にゃので、まずはその妖力を体内たいにゃいに抑え込む訓練をしてもらうにゃ」

「アムの力ならだいたい二週間くらい訓練したらしっかり制御できるはずです。ぴょん。その間はあまり出歩かないでください。ぴょん。力のない人と接触したら気絶してしまうレベルです。ぴょん」


 毒物垂れ流し状態!?

 これは、アムと一緒に試練の塔に行くのは無理そうだな。

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