第317話 魔王の四肢が封印されたダンジョンへの突撃は強化訓練のあとで


 試練の塔でのレベル上げは続いていた。

 妖力の制御に二週間かかると思われていたアムだったが、なんと彼女は予定の三分の一、たった五日でそれをマスターし、訓練に参加した。


「よし、今日も絶好調!」


 レベル80以上になると試練の当時に登場するオリハルコンボールを短剣で倒して俺は言った。

 絶好調なのは俺だけでなく、アムとカイザー、ハスティアも調子がいい。

 ミスラとリーナは肉体系ではないのが、それでも頑張っている。


「どうだ? 初日に比べ倍近くのボールを倒せるようになったぞ。これぞ皇帝の皇帝たるゆえんだな」


 カイザーが自慢げに言うが、こいつがそれだけボールを倒せるようになったのは鎧を脱いで動きやすくなったからだと思う。

 いまではポチが用意てくれた白いティーシャツにジャージズボンで戦っているからな。

 その白いティーシャツには日本語で「皇帝」と書いている。

 イケメンの皇帝陛下がダサファッションを着ているのは中々シュールだ。

 ポチの奴、絶対狙ってやっているに違いない。

 なんて書かれているのか聞かれ「異世界で皇帝を意味する言葉だ」って教えたら、カイザーは嬉しそうにしていた。

 外国人が日本語の書いているティーシャツをお土産に買ったり、中学二年生が変な英語ばかり書いているティーシャツを着たりするのと同じ心理なのかもしれない。

 まぁ、本人が気に入っているのなら別にいいや。

 そして、ボス部屋でビッグオリハルコンボールと戦う。

 倒して出てきた宝箱は銀色宝箱2つと茶色宝箱1つ。


「カイザーが入ってから銀色宝箱が安定して出るようになりましたね」


 アムも当然のようにカイザーは呼び捨てだが、特に怒ったりはしない。

 むしろ、このような扱いを受けるのは新鮮らしく、楽しいんだとか。

 そして、その銀色宝箱の中から出てきたのは、職業育成ダンジョンの入場券と、技能ポーション。

 職業育成ダンジョンの入場券と技能ポーションだった。

 職業育成ダンジョンの入場券は以前にも入手したことがあり、試練のダンジョンが通常の経験値が手に入るダンジョンなのに対し、こちらは職業経験値が入る。

 ポチに頼んで職業酒場のレベルを4まであげてもらった。

 お陰で上位職にも転職できるようになっている。

 俺とハスティア、カイザーの職業は剣豪、ミスラとリーナは魔法大師、そしてアムは巫女だ。

 巫女は少ない魔力消費で回復の能力を使えるサポート系の職業なので、魔力が皆無のアムにとっては使い勝手の非常に悪い職業のはずなのだが、なんでも妖力を扱う上では一番相性がいいそうなのだ。

 技能ポーションは技能の経験値がランダムで上がる。

 これはカイザーに飲んでもらった。

 カイザーは敢えて技能を少な目に入手させている。その能力とは釣りや穴掘りなど運が上がる技能だ。

 お陰でカイザーの現在の運の値は49にまで上がった。50が目の前だ。

 職業酒場のレベルを5にしたときに解放される職業、お笑い芸人になってくれないかと密に期待している。

 そうすれば運の値が5も増えるんだが。


 試練のダンジョンを出ると、一目散に駆け付けてきたのが、ターニアとメンフィスだった。

 ターニアにはこっちに戻ってきたあと、ノワールに頼んで手紙を届けてもらった。

 伝書鳩ならぬ伝書影竜だ。

 帝国は武道大会の参加者がいなくなり、さらには大地震でパニックになっていたそうだ。

 幸いなことに、黒騎士の正体がカイザーであることを知っていたのはターニアを含むごく一部のため、皇帝不在の情報は世間に露呈せずに済んだそうだ。

 尚、現在は影武者が政務に当たっているらしい。

 そして、ターニアはデクとともにノワールに入ってやってきた。


「陛下! 冷たいタオルです!」

「ハスティア様、どうぞお使いください」

「ああ、すまない」

「ありがとう」

「「いえ!」」


 と恍惚な表情を浮かべて頭を撫でられたあと、ターニアとメンフィスは俺たちを睨みつけ、


「貴様ら、陛下に無礼なことをしなかっただろうな。誘惑をして側室や妾の座を狙おうなどもってのほかだぞ!」

「勇者様、夜中にハスティア様を連れ出すのはいまだけにしてください」


 と特にターニアは女性陣に対して、メンフィスは俺に対して威嚇の目を向けるが、いつものことなのでそれらを無視して、ポチたちが持ってきた冷やしタオルで顔を拭く。

 ふぅ、すっきりする。

 

「それで、鍛錬場の調子はどうだ?」


 俺が二人に尋ねる。

 鍛錬場ではターニアやメンフィス、デク、そして街の自警団の連中や自由都市のトンプソンたち一部マフィアの幹部連中にも訓練に励んでもらっている。

 彼らには魔王の復活のことは伝えず、魔王軍の残党共がダンジョンから溢れる可能性があるとだけ伝えた。


「ああ、効率のいい訓練ができている。先日は単騎でのワイバーン撃破も可能になった。いまなら竜も倒せるだろう」

「はい。皆調子がいいです。魔王軍の襲来にも耐えられそうですね」


 どうやら鍛錬場による強化も順調のようだ。

 魔王への備えは着実に進んでいた。

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