第318話 軍の派遣は五カ国会談のあとで
少し厄介なことになってしまった。
現在、俺たちの街に二人の重要な来客が訪れていた。
一人は前教皇のヨハルナ様。
そしてもう一人はトランデル王国の国王、トランデル十四世だった。
もちろんこの二人だけというわけではなく、護衛を伴っている。俺の知っている人物といったらハスティアの兄のアルフォンス様がそうだ。
彼らが訪れた理由は単純明快。
死の大地で地震があったからだ。
でも、それだけで国のトップと元トップが来るか?
と思ったら、原因はカイザーとリーナだった。
トウロニア帝国の皇帝とトーラ王国の王女が集まっているという情報を得た二カ国は、だったらこちらも相応の人間を送らないといけないと思っていたようだ。
ちなみに、情報源はハスティアとメンフィスだった。
俺も許可を出した。
そしたら、この2TOPが来ちゃったってわけだ。
そのため、急遽五カ国会談が開催される流れとなった。
五カ国の参加者の中に俺は入っていないぞ?
ここはまだ正式に国として認められていない。
もう一人の参加者はマクールだ。
ゴーレム技師のマクールはボナメ公国の大使として駐在している。
当然、今回の会談に参加している。
ガチガチに緊張しているけれど。
ということで、参加者は俺、リーナ、カイザー、ヨハルナ、トランデル国王、マクールの六人で会談が行われることになった。
「勇者様。魔王軍がダンジョンから溢れるということですが――」
「なんでいまになって魔王が――」
「あ、それ嘘です。本当は魔王が復活します」
ヨハルナ様とトランデル国王が尋ねる。
嘘を吐くのが面倒――じゃなくて、トップの間で情報を共有するため、嘘偽りなく述べた。
ただし、トウロニア帝国の汚点は少な目にして、悪いのはスクルドとワグナーということにした。
スクルドの存在は全員知っているので一番話が通じる。
さらに、魔王の復活の前にその四肢を回収し、封印する必要があると話をした。
といってもそんな簡単に信じてもらえない――ん?
「どうなさいました?」
「実は、魔王の右脚は我がトランデル王国の王都のダンジョンに封印されている。これは儂を含む一部の人間にしか知らないことだ」
「左脚はブルグ聖国の聖都に封印されています。こちらも枢機卿と教皇しか知らされていません」
「え?」
魔王の四肢が封印されているダンジョンはポチが知っているからと敢えて聞かなかったのだが、そんなところに?
いや、そういえばトーラ王国の首都のダンジョンは最難関ダンジョンの一つだったし、結局一番奥まで行けなかった。
封印されていても不思議じゃない。
「あの、トーカ様。会談の直前に父――トーラ国王から手紙が届きまして――王都のダンジョンにも魔王の左腕が封印されているそうです。会談が終わってから話そうとしていたのですが」
俺はカイザーの方を見る。
こいつは魔王の右腕があの場所に封印されていることを知っていた。
魔王の四肢が封印されている場所は、死の大地を取り囲む四カ国でそれぞれ管理していたってことか?
いや、そういうことなのだろうな。
「それで、魔王が復活するというのはいつのことなのだ?」
「いまから二週間後です。それまでに魔王の四肢を回収し、魔王の強化を防ぎます。四肢は俺の家の棚に封印します」
「棚の中だと? もっと安全な保管場所があるのではないか?」
「俺の家の棚は不思議な空間になっています。アイリス様によるものですから」
「アイリス様の――それは本当なのか?」
「はい、よければ後でご覧にいただきます。とても不思議な棚ですから」
なんといっても四次元収納だからな。
そこから道具を取り出すところを見てもらえば納得するだろう。
「しかし、一週間後……間に合うのか? ここから王都まで早馬でも五日はかかるぞ」
「はい。そのくらいの距離なら――」
ノワールに乗って行けば一日で着く。
そう言おうとしたら――
「転移門を設置してもらうのはどうかしら?」
ヨハルナ様がそんなことを言う。
確かに、その方が効率がいい気がする。
ポチに今から出張してもらえば、時間ギリギリまで修行ができるし、いざというときに助けに行ける。
「待て、転移門は死の大地の周辺にしか設置できないのではないのか!?」
「俺もそう聞いているぞ。どうなのだ!」
「ああ、面倒なのでそういうことにしてました」
俺がそう言うと、ヨハルナ様とリーナ以外が頭を抱えた。
「よし、その転移門、帝都にも設置しろ」
「は? 帝都にはダンジョンないだろう?」
「魔王軍がダンジョンから溢れるのは事実なのだろう。その防備に帝国軍三十万を貸してやろうと言っているのだ」
「まさか、魔王亡きあとその軍を持って死の大地周辺を征服する気ではあるまいな? 魔王が退治されたのであれば、もう結界による封印も必要ない。伝承によると、この地はかつては肥沃な大地であったと言われている」
「それも悪くないな。魔王との戦いで勇者が破れたときはこの地を管理する人間が必要だ。そして、その権利は軍を派遣した我が帝国にある」
カイザーの奴、一体何を言い出すんだ!?
会議を混乱させる気かっ!?
と思ったが、笑ったのはヨハルナ様だった。
「帝国に死の大地を治められたら国力の差がつきすぎてしまいますね。そうならないためには我々も軍を派遣するしかありません。十万の聖皇軍を派遣しましょう」
「我々トランデル王国は二十万だ」
「そういうことなら、私も十五万の軍を派遣しないといけませんね。転移門があれば直ぐでしょう。すぐに父に手紙を出します。マクール様――」
「はっ、我らボナメは五万だ」
突然、とてつもない軍が派遣されることが決定した。
その決定に、
「八十万か。まぁ、魔王そのものに対してはいささか不安な数だが、しかし即興で集められる数としては上出来だな」
とカイザーが笑う。
こいつ、こうなることを読んでやがったのか。
やっぱり皇帝だな。
「ところで、トウロニア帝国。そのお召し物ななんでしょうか?」
「いいところに気付いたな、トランデル王。これは皇帝のために用意された正装だ」
とカイザーは皇帝と書かれた白ティーシャツを着て言ってのけたのだった。
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