第210話 六階層ボス退治は三階層ボス退治のあとで

 三階層の茶色宝箱から出たのはエクスポーションと白金塊だった。

 さすがは上級ダンジョンだ。

 ハズレ枠のはずの茶色宝箱からも結構いいものがでる。


「なんでこっちに興味がないんだよ! プラチナだぞ! この量、売れば一財産だろう!」


 なんで、金の相場は教会と各国が管理していて決まった値段で取引されるが、白金はその範囲内ではないらしい。

 マクールが言うには、50万イリスは下らないそうだ。


「それと、この薬はなんだ?」

「エクスポーションだ。ええと、鑑定によるとどんな大怪我でも一瞬で治す薬らしい」


 蒼剣では体力300回復するアイテムだったので、こっちでも同じだろう。

 俺の体力は400を超えているので、どんな大怪我でも治るというのは大言壮語甚だしい気がするが、そもそも体力300を超えている人間なんてほとんどいないので、なるほど、どんな大怪我でも一瞬で治るというのはある意味真実であるとも言える。


「伝説の薬じゃねないか」

「ああ、これはマクールが持ってろ。収納能力あるんだろ?」

「いいのか?」

「俺とミスラは回復魔法を使えるからな。アイリーナ様も、メディスンスライムと契約したから」

「ええ、精霊術で回復できます……ダンジョンの中ではあまり使えませんが」

「だったら、アムさんは――」

「アムを舐めるなよ。普通の攻撃は避けられるし、お前よりは危険は少ない」


 マクールの防御力はわからないが、アムより高いということはないだろう。


「ありがとう…………一応、僕のことを気にかけてくれていたんだな。てっきりいないものとして扱われていると思っていたから嬉しいよ。この薬は使わなかったら返す」


 マクールがデレた。

 男のデレはいらない。



 尚、揺り戻しのねじ巻きは使わない。

 本当は使いたいが、使わないと決めた。

 時間が勿体ないからという理由ではない。

 以前、山のダンジョンで揺り戻しのねじ巻きを使ったとき、アイリーナ様が俺のことを魔王みたいだと言った。

 その意味がさっきわかった。

 ダンジョンを作ったのは魔王である。つまり、ダンジョンの魔物を生み出したのも魔王である。

 ここで俺が揺り戻しのねじ巻きを使ってボスを呼び出すところを見せてしまったら、ターメルが俺は実は勇者ではないかと疑う可能性がある。

 勇者と認めたわけではないが、彼の協力は重要だ。


 ということで、ボスに再挑戦することなく、ダンジョンを進む。

 地下九階まで行ってから地上に戻るのでこれまでで一番長い


「ミノタウロスですね」

「……今夜はステーキ」


 棍棒を持った牛の魔物が現れた。

 ミスラはステーキを食べたいのか。

 最初に俺が持っていた、ハーフエルフは肉を食べないってイメージはもうすっかり無くなってしまったな。

 ミノタウロスというらしい。うん、蒼剣でもいるし、イメージ通りだ。

 ただ、ミノタウロスは地球だと、ミノス王の妃の息子の名前、つまりは個人名だったんだけど、何故か蒼剣でもこの世界でも種族名として登場するんだよな。

 そもそも、この世界にミノス王がいなかっただろう。

 ……なんて考えてみたが、結局は現地の言葉が勝手に俺の、いや、蒼剣の魔物の名前に寄せて翻訳されているのかもしれない。

 もしも俺が蒼剣をしていなければ、ゲームやアニメなどのサブカル知識はないが、日本の伝承についてはしっかり勉強している勤勉学生だったら、「ミノタウロス」ではなく「牛頭ごず」という名前で教わったかもしれない。

 まぁ、蒼剣のミノタウロスは棍棒ではなく斧だったし、やっぱり別物なのだろう。


 と考えている間に、アムとミスラはミノタウロスを倒していた。

 俺の出番はない。

 六階層のボスは、巨大な影だった。

 アムは久しぶりにライトソードを使っていた。

 俺とミスラは光魔法で応戦。

 一応、アイリーナ様も雷魔法を使っていたが、ほとんど役に立っていない。

 何の対策もなかったら強敵なのだろうけれど、悪魔を倒した俺たちの敵ではない。


 宝箱は、今回は昇格無し。金色宝箱、銀色宝箱、茶色宝箱三つだった。

 アムとミスラが金色宝箱の前に鎮座している。

 そして、今回はアイリーナ様も一緒だ。


「あなたもですか?」

「はい、楽しそうですので」


 アイリーナ様が宝箱の沼の入り口に立ってしまった。

 いや、もう嵌ってしまっているのか?


「こっちは僕が開けてもいいか?」

 

 マクールが茶色宝箱に興味を示した。

 もちろん、断った。


 尚、金色宝箱から出たのは巨大な刀だった。


「三天断罪刀……闇属性の太刀か。さすが上級だ、強いな。アム、使うか?」

「マグロの代わりになりそうですね。はい、使います」

「「マグロ?」」


 アイリーナ様とマクールが尋ねるが、そこは気にするな。

 次に銀色宝箱だ。


「これは――本」

「……魔導書……じゃない」

「ああ、犬でもわかる技術書(研磨)だな」


 ポチ専用の技術書だ。

 これを使えば、ポチに頼んで宝石の価値を上げることができるようになる。ただし、10%の確率で宝石が砕ける諸刃の剣。

 まぁ、便利なので保存する。

 茶色宝箱からは、万能薬とお金1万イリスと高級ペットフードが出た。

 これまで銀色宝箱から出ていたものまで出てくる。


「わふ」


 ミスラの鞄の中からパトラッシュが出てきた。


「うわ、お前、犬持ってたのかよ。ていうか鞄の中に入れてるなよ、可哀そうだろ」

「……ん、普段は収納してる。パトラッシュは自由に出入りできる」


 うん、鞄の中から出てきているけれど、本当にずっと鞄の中に入れているわけではない。

 鞄の中に入れている時間も長いが、道具欄に入れている時間の方が多い。

 自由に出入りできるのは知らなかった……そんなことできるのか?

 道具欄にいるアルパカが勝手に出てきたりしないよな?


『あるじ、大変なのです』


 と思ったら、パトラッシュが喋った。

 ポチからの連絡だ。

 横でマクールが「犬が喋ったっ!?」と驚いているが、気にしない。

 どうしたんだ?


『トランデル王国がトーラ王国に宣戦布告をしたのです』

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