第209話 三階層のボス退治は鶏蛇論争のあとで
頭が鶏、尻尾が蛇、これなーに?
なぞなぞのようで、実はなぞなぞでもなんでもないそんな変態生物、それがコカトリスである。
蛇の方が本体だとか、致死性の毒を持っているとか言われているけれど、わかっているのはこう見えて草食だということくらいだ。
三階層のボスがコカトリスだった。
「言っておくが、本体は鶏だぞ。どこのだれだ? 本体が蛇だとか言ったのは」
「そうなのか?」
「当然だ。お前、自分で言ってただろ? コカトリスは草食だって。尻尾でも嘴でも食べるが、草食の蛇って聞いたことがあるか?」
マクールが呆れ顔で言う。
そういえばないな。
目から鱗が落ちた。蛇だけに。
いや、待て。
鶏だって野菜も食べるけど肉も食べるぞ?
ヒヨコの頃からミミズを食べるじゃないか。
鶏が本体なら雑食じゃないのか?
「スクルド師匠が、コカトリスの卵は蛇の卵に似ているから蛇が本体だと仰っていましたが」
「蛇の部分を切り落としたところ両方動いたので、どっちも本体に違いないと母が申していました」
「……魔法生物学の権威であるガラパスゴ先生の著書によると、コカトリスは爬虫類から鳥類への進化の途中の生物」
意見がバラバラだ。
ちなみに、意見を出さないターメルは「どっちでもいい」派だ。
これはきっと答えのない質問だ。
キノコとタケノコ、どっちが美味しいか? という論争と同じく答えの出ないものに違いない。
俺にもっと語彙力があれば、その論争に決着をつけてキノコを勝利に導けるのだろうが。
とにかく、話を戻すと、コカトリスは毒が厄介な魔物だ。
ってことは――
「僕のゴーレムの出番だな! ゴーレムならコカトリスの毒も通用しない」
「いや、別にいいよ」
いいって言ったのに、マクールがゴーレムを出して戦闘準備をする。
ボス部屋に入る。
蛇にしても鶏にしても、インド象くらいの大きさはないと思う。
やっぱり魔物だ。
「行くぞ、僕のゴーレム裁きを――」
「「サンダーボルド」」
「雷よ敵を穿て!」
俺とミスラ、そしてアイリーナ様の雷魔法が直撃する。
アイリーナ様の雷魔法は初めてみたけれど、初級雷魔法くらいだろうか?
サンダーボルトほどの威力はない。
それに比べ、ミスラの魔法は威力がさらに化け物になってるな。
――そして次の瞬間アムが尻尾の蛇を切り落としていた。
尻尾の蛇も動いているし、鶏部分も動いている。
これ、どっちも本体じゃないか?
とりあえず、武器をハンマーに替えて、蛇の頭を叩き潰す。
これで毒の心配はない。
「コクェェェェっ!」
自分の一部を殺されたことに気付いたのか、コカトリスが雄たけびを上げる。
「僕の出番だ!」
ゴーレム五体がコカトリスに襲い掛かるが、ダメージが通っているように全然見えない。
あ、一体踏みつぶされた。
「なんでだ⁉」
マクールが怒鳴った。
単純に攻撃力不足だよな。
ターメルが嘆息混じりに言う。
「ここは上級ダンジョンだぞ。生半可な攻撃が通じるか」
「は? でもあの二人は斬ったり叩き潰したりしてるだろ」
「あの二人が、いや、あのハーフエルフの嬢ちゃんも含めて三人が異常なんだ。勇者とその従者だからな」
そういうことだ。
マクールが実力の違いを諭されている間に俺たちはコカトリスを撃破し――
「よっし! 宝箱五つGET!」
金色宝箱と銀色宝箱が二つ、茶色宝箱が二つ出た。
はい、ミスラとアムは金色宝箱に張り付いてるな。
「メディスンスライムの時といい、なんで宝箱が出るんだよ」
「勇者だからな」
「勇者ってそういうものなのかっ!?」
うん、そういうものだ。
ということで、金色宝箱から開ける。
アムとミスラが待ちきれないって感じだったからな。
さて、何が出るかな?
「お、技術書、久しぶりだな」
覚えられる能力は、ギャンブルアタック。1/3でクリティカル、1/3で通常攻撃、1/3で不発という攻撃能力だ。
試練の塔でボール退治をする時に非常に便利な能力だ。
覚えられるのは、俺とアムか。ミスラとアイリーナ様は覚えられなかった。
「僕にも見せてくれ――ってこれも触れないのかっ!?」
マクールは魔導書と一緒で技術書も触れないようだ。
ドンマイ!
ってことで、銀色宝箱を開ける。
あ、これは
「アルパカさんか」
真っ白なアルパカが出てきた。
「「「なんで動物が出てくるんだ(ですか)!」」」
これにはマクールだけでなく、アイリーナ様とターメルもツッコミを入れていた。
なお、もう一個は久しぶりに酒樽だった。
ミケへのお土産確保だな。
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