第208話 ダンジョン探索は掘ったあとで

 床下収納から地下道に入った。

 いや、待て、地下道っていうかこれ――


「ダンジョンかっ!?」


 壁とかぼんやり光っていて、松明とかなくても明るくて、そもそも地図がほとんど通じない。

 まさにダンジョンじゃないか。


「王都の下にダンジョンがあるのか?」

「はい。順番が逆ですが」


 王都の下にダンジョンができたんじゃなくて、ダンジョンの上に王都が作られたのか。

 そういえば、ダンジョンを作ったのは魔王で、魔王が死んだあとにトーラ国が建てられたって言ってたな。

 

「こちらです。ついてきてください」


 ターメルが言うが――


「あ、待ってくれ」


 俺はゴーレムツルハシを取り出して――


「ここだ」


 それを振るった。そこは採掘ポイントだった。

 やっぱり勇者がわざわざ選ぶダンジョンだけあっていい素材が出るな。


「何をしていらっしゃるのですか?」

「採掘だよ。こんなのが出た」


 俺は道具欄からいま採掘したばかりの金属を取り出してターメルに渡した。

 その後もツルハシを振るう。


「これはミスリル――っ!? 伝説の金属じゃないですか。その嗅覚、さすがは勇者様」


 普通に採掘してるだけなのにターメルが褒めてくる。

 トイレに行ったあとに手を洗うだけでも褒めてきそうな感じだな。

 でも、ミスリルはありがたい。

 ミスリル系の聖剣装備の解放に使えるからな。


「ミスリルっ!? 見せてくれ!」

「どうしたんだ、急に。マクール、金属に興味があるのか?」

「忘れたのか、俺はゴーレムマスターだぞ。ゴーレムの素材になる金属に興味がないわけがないだろ」


 そういえばそうだった。

 消える魔道具の持ち主としか思っていなかった。

 ミスリルゴーレムとか強そうだもんな。

 マクールが眼鏡を取って目玉とくっつくんじゃないかというくらいの近距離でミスリルを凝視する。


「純度が高い。間違いなく一級品のミスリルだ。国宝級だぞ」

「そうなのか? 今の採掘で三十個は採れたけど」


 他にも貴金属がいくつか。

 さすがにオリハルコンは出ないか。

 まだツルハシが折れていないからもっと採掘できるんだけど、他の採掘ポイントもあるかもしれない。

 一度しか来れないダンジョンだ、慎重に行こう。

 そう思いながら、後一発だけとツルハシを振るうと――


「折れた」


 誰が言ったのか?

 その言葉の通り、俺のツルハシの柄は見事にポッキリ折れてしまった。

 折れた瞬間消えるので危険はないのだが――

 これで終わりにしようって思ったときに折れるんだよな。

 

「じゃあ、行こうか」

「ええ、参りましょう」


 改めてターメルの案内開始。


《ピ…………ピ…………ピ…………》


 と思ったら、今度はこれか。


「ちょっと待って」


 埋蔵センサーが鳴っている。

 どこだ、どこだ、どこだ、どこだ?

 ここだっ!


 音が一番鳴っているところで――


「アム、頼む」

「はい! 穴を掘る」


 穴掘り技能は運が上がるので、アムに掘ってもらう。

 出た!


・超高性能ネジ【未来の技術によって作られた超高性能のネジ。ただし、専用ドライバーがないので使い道がない】


 はい、ゴミアイテム!

 でも、凄いなこのネジ。


「なんだそれ! ちょっと見せてくれ」

「ああ、失くすなよ」

「わかってる……これは、なんてネジだ。いったい誰が作ったんだ? こんな細かい螺旋構造――ドワーフの技術でも作れないぞ。これをゴーレムに組み込むことができれば」


 アムもミスラもこういうのは全然興味がないからな。


「マクール、わかるのか?」

「当然だ。ゴーレムにとってネジは命だからな。火魔法で溶接しろという意見もあるが、ゴーレムは精密魔道具。メンテナンスは常に必要だ。当然ネジが必要になる。しかし、この素材はなんだ?」

「鑑定によるとステンレス鋼らしいぞ」

「ステンレスとはなんだ?」

「ええとだな――」


 話が弾みそうになったところで、


「トーカ様、そろそろ参りましょうっ!!!!!」


 アイリーナ様に大声で言われた。

 しまった、そんなことしてる場合じゃなかった。


「すみません」

「いえ、ずっと緊張したままよりはいいです」

「でも、ここってたぶん上級ダンジョン――ものすごく強い魔物がいるダンジョンですよね?」

「ええ……過去に踏破したことがあるのは勇者様のみだと言われています。地下三階にボス部屋があり、その後も六階、九階と三の倍数ごとにボスが現れます。入り口はいくつもあり、現在は封鎖されている場所を含め、二十カ所以上。しかし、闇ギルドに入り口があったとは知りませんでした」


 まぁ、それだけ入り口があるっていうのなら、把握しきれないものもあったのだろう。

 かつて封鎖してそのまま忘れられた入り口とかありそうだ。


「ってことは、ここを通れば王都の中に入れるのか?」

「はい。ただし、王都の中に入るには、ここから計五回ボスを倒さないといけません。しかも九階層のボスを一度倒す必要があるのです

「へぇ、ボスを五回か」


 それを聞いて、俺は少し笑っていた。

 上級ダンジョン相当のボスと五連戦――しかも全部違うボスとなったら初回踏破ボーナス五回。


「新たなボスですか」

「……魔導書」

「ああ、滾ってくるな」


 こんな状況なのに不謹慎だとも思うし、アイリーナ様には悪いと思っているが、少し楽しくなってきた。

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