第198話 全力介入は依頼のあとで
自宅に帰ってきた俺は、自分の部屋に宝船を置く。
宝船の上に、安物のお供えを置いて、二礼二拍手一礼と順番に行うと、宝船は光輝き、
【守りの加護(弱):パーティメンバー全員の被ダメージ-5%】
という文字が宝船の上に浮かび上がった。
守りの加護(弱)か。まぁ、安物のお供えだから無難な加護だな。
この効果は一週間、もしくは別のお供えを置くまで続く。
お供えは、別にお供え専用アイテムではなく普通のアイテムでも効果が出るのだが、お供え専用アイテムの方が効果は高いからな。
「トーカ様、宝船の設置は終わったのですか?」
アイリーナ様が尋ねる。
「ええ。これで神の加護が得られました」
「アイリス様の加護が……」
いや、宝船だから神様は七福神だと思うけれど……でも、アイリス様から貰ったゲームシステムの能力による加護だから、アイリス様からの加護と思ってもいいのか?
異端審問とか宗教裁判とか怖いし、アイリス様の加護ってことにしておこう。
「そう言われると、力が湧いてくる気がしますね」
アムがそう言うけれど、力が湧く系統の加護ではないのでプラシーボ効果だと思うが、被ダメージ減というからには少しは身体に変化があるのかもしれないな。
「それで、アイリーナ様。もう一度質問しますが、ボナメ公国に亡命するつもりはないんですか?」
「はい。先日の時点でボナメ公王はスクルド様の意思の元、国王側の陣営についてくれているそうですが、しかしボナメ公国も一枚岩ではありません。公王はよく言えば平和主義者ですから……」
「……アイナの身柄を引き渡して自国を守ろうとするかもしれない」
「はい、ミスラさんの仰る通りになる可能性もあります」
「だったら、トランデル王国は……いや、そっちも同じか」
トランデル王国とトーラ王国は友好国というわけではない。
双方歩み寄るためにアイリーナ様を留学生として受け入れているが、だからといって必ずしもアイリーナ様の味方というわけではないのか。
だからこそ、アイリーナ様が殺されるという預言を受けたとき、トランデル王国の庇護を求めるのではなく、俺たちと一緒にダンジョンに来たわけだし。
「トーラ王国に行くにしても、明日以降にしませんか?」
「トーカ殿は本当にお優しいのですね。預言のことを心配なさっているのでしょう?」
……その通りだ。
彼女が殺されるという預言を受けた。
今日の午後だ。
ゴーレム兵器を破壊し、殺し屋たちを懐柔したが、今日の午後はまだ終わっていない。
こんな状態でトーラ国に忍び込んだら、そこで彼女が殺される可能性がある。
彼女の安全を考えるのなら、少なくとも作戦の決行は明日以降にした方がいい。
「トーカ様の気持ちはありがたいですが、私の決意は固いです。どうか、トーラ王国に入る方法を教えてください」
「アム、ミスラ……」
俺は二人を見て、頭を下げた。
「すまん。俺もアイリーナ様と一緒にトーラに行くことにする。二人は――」
「御供致します。私はご主人様の従者ですから」
「……ん。ミスラも行く」
「そう言うと思ったんだけど、今回はこれまでの戦いとは違うぞ。ゴブリンキングや悪魔、山賊じゃない。戦う相手は必ずしも悪じゃないんだ」
クーデターを起こす奴には起こす奴の正義ってのがある。
例えば、日本の関ケ原の戦いだって、見方によればクーデターと言えなくもない。
だが、徳川家が悪か? と言われたら、必ずしもそうとは言えないだろう。
今回だって、クーデターを起こした宮廷魔術師第二席ムラハドでにはムラハドならではの正義があるのかもしれない。
それを無視して、俺はアイリーナ様の味方をすることにする。
これは単純な俺のエゴだ。
そう説明したのだが――
「そうですね。確かにご主人様の言う通りです。ですが、私がご主人様と一緒に行きたいのです」
「……ん。それに、全部終わったらトーラ王国の秘蔵の魔導書を見せてもらえるかもしれない」
「はい。それに、ご主人様です。危なくなったら――」
「……使うんでしょ?」
だな。
危なくなったら帰還チケットを使う。
それでいいだろう。
「ということで、アイリーナ様」
「皆さん……どうしてそこまで」
「いや、なんか知らないけど、たぶんアイリス様の思し召しってのもあるんだと思います」
考えてみれば、あのタイミングでアイリーナ様がレギュラーメンバーに入ったのだっておかしい。
だとしたら、
「あるじ、新しいクエストが発行されたのです」
やっぱり、ポチがそう言って部屋に入ってきた。
「見せてくれ!」
俺は二枚の紙を受け取った。
―――――――――――――――――――――
オリジンの水晶珠の破壊:500ポイント
推奨レベル:50
オリジンの水晶珠を1個破壊する。
―――――――――――――――――――――
こっちは拠点クエストか。
500ポイントは結構大きい。
しかし、オリジンの水晶珠ってなんだ?
そして、もう一枚は――
―――――――――――――――――――――
クーデターの終結:1192円
推奨レベル???
達成条件:ムラハドを撃破し、クーデターを失敗させる。
失敗条件:トーラ国王の死亡。
備考:この事件、少し裏がありそうです。気を付けてください
―――――――――――――――――――――
やっぱり、アイリス様からの依頼だ。
1192って、鎌倉幕府だっけ?
俺が中学で教わったときは1185年になっていたけれど、先生が「昔はいい国作ろう鎌倉幕府って覚えたもんだ」って懐かしそうに語っていた。
でも、これ――
「アイリーナ様、アイリス様から伝言です。トーラ国王はまだ生きています」
「本当ですか?」
「はい。それで、俺たちにクーデターを終結させるようにと命令が下りました」
なんでアイリス様が国の存亡に介入するのかはわからないけれど、これはきっと意味のあることなのだろう。
だったら、俺も全力で介入してやる。
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