第199話 抜け道に行くのは契約のあとで
ラン島はいつもと変わらない様子だった。
海上封鎖されているといっても、ラン島南の海峡は岩礁が多く、交易船のような大きな帆船が行き来することはない。
唯一困るのは渡し船を出せないことだが、もともと週に一度の運行で、次に船を出すのも五日後だった。
というか、町にいるほとんどの人は海峡が封鎖されていることを知らないのだろう。
「トーラ王国への抜け道と聞いたのですが、船で行くつもりですか?」
「いえ、船で行けば流石にどんな小さな船でもバレますよ。ついてきてください」
俺はそう言って町を出るのだが、一応確認する。
「それで、あんたも来るのか?」
ゴーレムマスターのマックルが俺たちについて来たのだ。
「ああ、僕は姫の身を守るように公王から命令を受けているから当然だ」
「でも、武器となるゴーレムがないだろ?」
「ふん、ゴーレムがあの五体だけなはずがないだろ。」
と言って、マックルはどこからともなくゴーレム兵器を取り出す。収納能力を持っているとの予想は正しかったようだ
同じゴーレムの核を埋め込んでいるらしく、これらも俺が壊したゴーレム兵器と同じように操ることができるらしい。
「でも、あの姿を消す能力は潜入に使えますよ?」
「あれは能力ではなく、我が国が開発している魔道具による力です。大量に魔力を消費しますので、魔力が満ちているダンジョンの中でしか使えません」
マックルが姫に説明をする。
能力ではなく、魔道具によるものであり、しかもダンジョンの中でしか使えないのか。
今は使われていない街道を進む。
ここを通るのは三度目だ。
一応、ダンジョンを目指す冒険者が訪れてもいいように、整備を初めてはいるのだけれど、やっぱりまだまだ歩きにくい。
「アイリーナ様、大丈夫ですか?」
「ええ、学院で行うトレッキングみたいなものです。問題ありません」
「それは頼もしいです」
ハイキングとトレッキングの違いもわからないけれど、余裕そうだ。
アムとミスラは特に何も言わないけれど、たぶんもう、俺が言っている抜け道が何かはわかっているだろう。
途中、川で道が途切れている。
「おい、道が途切れてるぞ? 橋が流されたのか?」
「ここは前からだ。黙ってついてこい」
マックルにそう言う。
任務に忠実で危険を承知で俺たちについてくるところは認めているけれど、もう少し丁寧に接してほしい。
「ここはダンジョンですか?」
「ええ、川の向こうに繋がっています。抜け道はこの先にあります。それとミスラ――」
「……なに?」
「メディスンスライムは倒さないからな」
「…………ん」
一瞬間があったけれど、わかってくれたようだ。
彼女はメディスンスライムが落とす魔導書を欲しがっていたが、今はそんなことをしている場合ではないことくらいはわかっているようだ。
「待ってください! トーカ様、いま、メディスンスライムって言いましたか!?」
「え? はい」
「それって、白いスライムですよね? 回復能力のある」
「はい。そのスライムです」
「いるのですかっ!? このダンジョンにっ!?」
いるけれど、急にどうしたんだ?
確かにメディスンスライムは珍しい魔物だ。
蒼剣の中でもそう記載されている。
《人の前に滅多に現れることのないスライムの精霊》
と――精霊?
そういえば、アイリーナ様の指輪には精霊召喚の能力付与が、そして能力の中には精霊術があった。
ダンジョンを出てから見せてくれることになっていたが、それどころじゃなかったからな。
「そういえば、メディスンスライムはスライムの精霊だって聞いたことがありますね」
アムが思い出したように言う。
この世界でもメディスンスライムって精霊扱いなのか。
そもそも精霊ってなんなんだ?
「……精霊召喚をするアイナにとって、精霊であるメディスンスライムを倒すのはまずい?」
「――っ!?」
天然記念物とかそういう扱い?
いや、でもラン島は既にどこの国のも属していない。
法の外、いや、俺が法律だ。
大丈夫、訴えられることはない……と思う。
「いえ、まずくはないですが……是非会わせてください! メディスンスライムと契約したいので!」
「契約?」
「はい。私が使えるのは微精霊のみ。その効果は大したことがないのです。しっかりとした精霊術を使うには、精霊と契約する必要があります。きっと、今回メディスンスライムの力が必要になると思うので」
メディスンスライムと契約か。
それは別に構わないんだが、一つ気になる事がある。
「……契約した場合、宝箱って出るの?」
俺が気になったことをミスラが口に出した。
どうだろうな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます