第200話 ゴーレムは契約のあとで

「さて、雑魚相手なら僕の出番だな。ゴーレムを出すから――」


 マックルが自慢げに言い、収納能力でゴーレムを取り出そうとする。


「ああ、待て待て。ダンジョンの中で無闇に戦うな。これから戦うのはポイズンスライムだけだ。他の魔物との戦闘は一切禁止するから、メディスンスライムと契約するまでは目立つゴーレムも出さないでくれ」

「何だと⁉」

「メディスンスライムを出すための儀式のようなものだ。まぁ、マックルの姿を消す魔道具には期待しているよ」

「それは僕ではなく、魔道具があればいいってことか? ……だが、わかった。君の言われた通りにしよう」


 一応、マックルも納得してくれたのでダンジョンの中を進む。

 最初に出てきたのはヌーパールーパーという両生類の魔物だった。


「ファイアボール」


 とりあえず邪魔なので火魔法でダメージを与えると、アムが跳躍して剣で切り裂く。


「おい、ポイズンスライムしか倒さないんじゃなかったのか?」

「……ポイズンスライムを連続で倒し続ける必要がある。だから、ポイズンスライムを倒す前なら何を倒してもいい」

「そういうことなら先に言ってくれ」


 ミスラの説明にマックルは納得するも文句を言う。

 イライラしているな。

 すると、アイリーナ様が俺に提案をしてくる。


「トーカ様。ポイズンスライムは毒液を飛ばしてくると聞きます。私の指輪には破毒の効果がありますので、前に出て戦うアムルタートさんかトーカ様が装備なさってはいかがでしょう?」

「お気持ち感謝します。でも、俺の腕輪にも完全毒耐性はありますし、アムは――」

「はい、私の指輪は故あって外せないのです」


 アムの指輪、ハッピーリングは宝箱の昇格率を上げる効果があるのだが、ダンジョンの中で一度でも外すと、そのダンジョンアタック中の効果が失われてしまう。


「では、トーカ様の腕輪をアムルタートさんが付けて、私の指輪をトーカ様が装備なさっては――」

「そこまでする必要はありませんよ。解毒魔法も使えますから」

「そうなのですね」

「回復魔法は教会の関係者にしか使えないはずだが、教会の人間なのか?」


 アイリーナ様は納得したが、マックルは変なところに引っかかった。

 そういえば、回復魔法は教会関係者にしか使えないって聞いてたな。


「教会が使う魔法とは別体系の魔法だよ」

「そうなのか? そういえば、先ほどの魔法も僕の知る魔法とは違うようだし……なるほど、隠し玉が多いわけか。さすがだな」


 そして、変なところで感心してきた。

 元々研究者らしいし、そういう未知の分野を開拓している人間には一目置くところがあるのだろう。

 俺の場合、ただのゲームシステムなのだが。


 次に出てきたのはポイズンスライムだった。

 ミスラが魔法で倒す。

 ここからがアドモン出現勝負だ。

 地図で確認しながら、魔物を探す。

 ポイズンスライムだったら倒す。

 それ以外だったら逃げる。

 これまでは全力で逃げていたが、いまはマックルの姿を消す魔道具のお陰で余計な体力を消費しなくて済む。

 そして倒し続けること20分。


「色の違うスライムが出たな。あれが――」

「メディスンスライムですね」


 マックルの言葉に続いて、アイリーナ様が言った。

 その通り、回復魔法の使い手、メディスンスライム。

 必ず、他の魔物と一緒に出るのが特徴。

 一緒にいるのはポイズンスライム三体だ。


「それで、契約魔法ってどうするんですか?」

「準備をします。まずは他のポイズンスライムを倒してください」

「わかりました」


 ということでさくっと倒す。

 回復魔法を使われると厄介なので、一体ずつ確実に息の根を止める。

 そして、メディスンスライム一体になった。


「アイリーナ様、倒しました。でも急いでください、こいつ攻撃はしてこないけど仲間は呼ぶので急いでください」

「わかりました」


 彼女は頷くと、赤い宝石が埋め込まれている王家の指輪を強く握った。

 そして、メディスンスライムに近付いていき、その指輪をメディスンスライムの頭に当てる。


「我が名は精霊使いアイリーナ――精霊の御霊よ、我が願いに応えその力を授けたまえ」


 アイリーナ様の指輪が白く光っている。

 そして、その光はメディスンスライムにも伝わっていく。

 とても神秘的な光景に、俺は思わず息を呑んだ。

 そして、その光が収まったとき、メディスンスライムが消えて赤い宝箱だけがそこにあった。


「スライムが宝箱に……これが王家の精霊契約か。凄いものを見た」


 違う違う、宝箱は精霊契約ではなくてこっちの領域ゲームシステムだから。


「中身はなんでしょうか?」

「……宝箱、魔導書希望」


 アムとミスラが宝箱に張り付くが、先に聞いておく。


「アイリーナ様、契約は?」

「はい、無事に終わりました。初めての契約に少しドキドキしていますが――」

「え? 微精霊を使えるって」

「微精霊は意志を持たない魔力のようなもので、契約の必要はないんです」


 そうなのか。

 じゃあ、精霊術がどんなものか見せて――ってダンジョンの中だと使えないんだったな。


「ところで、トーカ様、あの宝箱は?」

「じゃあ、開けてみます? 精霊契約祝いってことで」


 ということで、アムとミスラが張り付いている前で、アイリーナ様が宝箱を開ける。

 中に入っていたのは――


「これは、本……ですか?」


 あぁ、ミスラの希望が叶ったな。

 鑑定の結果、回復魔法の中でも珍しい《ディスペル》の魔導書だ。


―――――――――――――――――――――――――――――――

200話になりました、ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

もしよろしければ、200話の記念にフォローやレビューで☆評価してください。

また、主人公の妹、遊佐紀リンが主人公の、『遊佐紀リンと四つの能力チート』も連載しておりますので、よろしければご覧になってください。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る