第244話 ハスティアとツーマンセルは彼女の強さを知ったあとで
前回潜ったダンジョンの近くにやってきた。
ゴブリンの巣穴の奥。
今日もゴブリンは留守のようだ。
あれからゴブリンが帰ってきた様子はない。
もしかしたら、ここを
だとしたら楽な気がするが、ゴブリンは引っ越した後も群れが増えすぎたら内部分裂が起こり、追い出された方のゴブリンが元の塒に戻って来ることがあるから、油断はできない。
ただでさえ、ゴブリンの巣に選ばれるということは、ゴブリンにとって快適な場所にあるということなのだから。
……かつてゴブリンキングが棲んでいた洞窟も定期的に見回る必要があるかもな。
ミスラの魔法の光を頼りに洞窟の奥のダンジョンに向かう。
「ん?」
「どうした、アム」
「あそこをご覧ください」
アムが見た先にあったのは……焚き火の跡?
「ここに焚き火の跡はなかったはずですが」
「ゴブリンが来てたのか?」
「いえ、ゴブリンの臭いはありませんね。数日前――恐らく私たちが帰ったあとに誰かが来たのでしょう」
ふぅん、誰かか。
まぁ、冒険者にとってダンジョンは稼げる場所だ。
俺は死の大地の周辺のダンジョンばかり潜っているが、町の中のダンジョンは人が結構入っていた。
ここは村の人たちが最近見つけたダンジョンだったが、もしかしたら他の地域では知られているダンジョンで、一部の冒険者の狩場として使われているのかもしれない。
とりあえずダンジョンの中に人がいるかもしれないってことだけ頭の隅にとどめておこう。
「じゃあ、今回の目標は30階層到達。それと16から18階層のどこかにある宝の地図に隠された宝箱の回収だ」
前回、十八階層の宝箱から宝の地図が出た。
宝の地図に書かれた場所で見つかる宝箱の割合は金色宝箱75%、虹色宝箱25%。
「でも、ご主人様。宝の地図は発見後30分以内に見つけないといけないのでは?」
宝の地図を元に宝物が見つかるのは、地図発見後30分以内限定だった。
宝の地図を見つけたのは以前ダンジョンに来たとき。
本当は宝の地図を見つけたその日のうちに宝箱を探したかったが、16階層から18階層の地図の完成度は30%程度。宝の地図に該当する場所はなく、その時には既にブルグ聖国の使者を迎えるための制限時間いっぱい。泣く泣く俺たちはそのまま帰ることになった。
どうやらアムはもう宝の地図の宝箱は手に入らないと思っていたようだ。
「ああ――それについては問題ない。アップデートがあって、宝の地図の制限時間が廃止されたんだ。ただし、宝の地図は最大で三枚しか所持できないように変わっている」
DLC導入時にアイリス様から連絡があった。
「ということは、トーラ王都で手に入れた宝の地図も使えるのですかっ!?」
「ああ、使えるぞ」
アムが嬉しそうな顔をする。
どうやら、あの時手に入れた宝の地図の宝箱はもう手に入らないと思っていたらしい。
あの時はダンジョンを引き返す時間がなかったからな。
アムはどうやら宝の地図を手に入れたけど、前回も今回も宝箱の回収は不可能だと思っていたのだろう。
ちゃんと説明していればよかったな。
そういうことでダンジョンに潜る。
15階層までは地図の最短ルートを通って目指すつもりだ。
もちろん、ボスは毎回二回倒す。
「では、行きましょう。最初はハスティア様とアムが連携して前衛で。俺は前衛と後衛の両方をサポートしますので」
「…………」
一瞬だけハスティア様の表情が変わった気がした。
気のせいか?
「リーナとミスラは後衛で――」
「勇者様、私にだけ他人行儀なのはやめてほしいのですが」
「え?」
「アイリーナ様を愛称で呼んで、私だけ様付けというのは。勇者様に呼び捨てされたいという願望を置いても、一国の姫殿下より上の扱いをされるのは外聞が悪いです。どうぞティアとお呼びください」
「あぁ……ハスティアでいいですか?」
リーナは婚約者だからそう呼ぶことにしたが、ハスティア様とはそこまで距離も近くないと思う。
「うー……仕方ありません。ですが、敬語はおやめください。あなたはもうすぐこの土地の王になられるお方です」
この国の王様であろうと、他国の貴族に対して敬語は必要だと思うのだが、そう言ってもハスティアは引き下がらないだろうな。
豚と呼んで欲しいと言われるよりはマシか。
「わかったよ。よろしく頼む、ハスティア」
「はい!」
と言ったところで、チビドラゴンが現れた。
見た目は可愛いけれど、結構強い。
今のハスティアには少し辛いか。
「ハスティア、ここは――」
「お任せください。アムルタートさん、行きますよ」
「戦いのときはアムで結構です、ハスティア様」
「なら、私もティアで構わない!」
二人が前に出る。
強い――アムが強いのはわかっている。
しかし、ハスティアの息の合わせ方がうまい。
「……トーカ様」
「ああ、ハスティアは凄いな」
彼女が剣一筋で生きてきた理由も、そしてあの強さの理由も俺はようやくわかった。
「やっぱりこの階層なら、俺が後衛に回る必要はないな。通路は狭いし、前衛は三人でローテーションで行こう。次は俺とハスティアで行ってみようか」
「はい!」
ハスティアが言った。
勇者の従者になるべく、誰かと一緒に戦うために鍛えてきた彼女の剣。
職業、勇者マニア。
なるほど、彼女は確かにその通りの人間だ。
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