第261話 帝都に入るのは布告内容を知ったあとで

 トウロニア帝国との国境を越えて三時間程飛んだところで、一度地上に降りて、ノワールの中に入る。

 真面目なことに、三人とも起きて待っていてくれた。


「ご主人様!? 髪と眉毛が凍ってますが大丈夫ですかっ!?」

「意外なことに全然寒くない……ポカポカドリンクの効果だな……」


 寒くはないけれど、寒さと風圧で肌がものすごい乾燥している。

 乾燥肌になるのは間違いない。

 女性陣に中に入ってもらっていてよかったと思う。


「中はどうだった?」

「本当に飛んでいるのかと思うくらい何事もありませんでした。寒くもありませんし熱くもありません」

「……ん。たぶん、ここは亜空間。ノワールが死なない限りミスラたちがどうこうなることはないと思う」

「真っ黒な空間というのはいささか落ち着きませんが」


 アム、ミスラ、ハスティアがそれぞれ言う。

 真っ黒ということ以外、中は快適なんだな。

 壁紙を貼らせてもらえればもっと快適になるかもしれないが、ノワールが許してくれるだろうか?


 とりあえず、四人で外に出る。

 外は真っ暗だが、ミスラが魔法で明かりを作って照らしてくれるので問題ない。

 とりあえず、道具欄に入れてあったドラゴン肉をノワールに食べさせて現状の確認。


「ご主人様、いまはどのあたりですか?」

「帝都まで三分の一弱進んだ感じだ。かなり進んだと思うが、帝国広すぎるだろ」


 たぶん、東京福岡間くらい飛んでいると思う。

 新幹線よりは絶対に速い――リニアモーターカーくらいの速度じゃないだろうか?

 もっと速く飛ぶことはできるらしいが、それ以上速度を上げれば俺が死んでしまう。

 

「勇者様、ひとつ気になったのですが、皇帝たちは先日まであのダンジョンにいたのですよね? 私たちが帝都に行ったところで、まだ彼らは帝都に戻ってきていないのでは? もちろん、帝都で待てば確実ですが、ひとまずこの辺りの町で待ち伏せしてはどうでしょう?」

「ああ、ハスティアの疑念はもっともだが、カイザーたちは帝都に戻っている可能性が高い」

「どういうことですか?」

「霜月には転移装置が搭載されていてな。エスケプの魔法のようにダンジョンからの脱出する転移と、帰還チケットと同じように使用者の拠点に戻ることができるんだ。カイザーにとって拠点は帝都だろ?」


 アイリス様が見たカイザーはダンジョンから脱出していた。

 あれがダンジョンの中だというのなら、まだダンジョン探索をしているかもしれないが、きっと霜月の能力でダンジョンから出たところだったのだろう。

 だとしたら、もう帝都に帰っている可能性が高い。

 俺がそう言うと、ハスティアも納得した。

 エアロボトルとポカポカドリンクを再度飲み、再度移動。

 さらに休憩を挟んでもう一度移動する。

 もうすぐ帝都というところで、近くの町付近に着地。

 さすがに帝都近くに飛んでいくと誰かに見つかる可能性が高いからな。

 ここから乗合馬車で移動することにしたのだが、様子がおかしい。


「なぁ、乗合馬車ってこんななのか?」

「いえ、私は以前帝国に来たことがありますが、こんなのではなかったはずです」


 そうだよな?

 なんというか、乗合馬車がかなり暑苦しいことになっていた。

 屈強そうな戦士――というのかな? 傭兵や冒険者だらけだった。


「いったい、どうなってるんだ?」


 これから戦いにでも行くような雰囲気だ。

 まさか、徴兵?

 ……どこかに戦争を仕掛けるのか?

 ブルグ聖国?

 それとも、死の大地周辺の無法地帯に!?


「な、なぁ、少し聞きたいんだが、この集まりはなんあんだ?」


 馬車に乗っている人の中で話しかけやすそうな人を選んで尋ねる。


「なんだ、あんた知らないのか? 一昨日皇帝陛下から布告があっただろ? これから帝都の闘技場で武道大会が開かれるんだよ」

「ああ、そうだ。予選を突破するだけでも莫大な賞金が手に入る。抽選次第なら俺たちでもワンチャン勝ち抜けるかもしれないからな。腕に覚えのあるやつは帝都に向かってるぞ」


 帝都で武道大会?

 カイザーの奴、いったい何を考えてるんだ? 

 でも、この様子なら帝都に入りやすそうだ。

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