第81話 勇者気取りはアムの前に立ったあとで

 見張りは入り口近くと一緒でこちらも二人か。

 たぶん、夜だから一人が寝てしまっても起こせるようにしているのだろう。

 倉庫の前に明るいし、長い直線、隠れる場所もない。近付けば動きを止める前に仲間を呼ばれるだろう。

 だが、人質さえ取られなければ盗賊たちは敵ではない。

 なにしろ、ナイフで刺されてもダメージを受けないくらいのステータス差があるのだから。


「ここからは気付かれてもいい。速攻で盗賊を倒して捕まってる人たちを保護する。盗賊を倒したら敵の仲間が来る前にアムとミスラは右の部屋を、俺は左の部屋に入る」


 俺が小声で指示を出すと、二人は頷いた。

 そして、走る。

 ミスラがサンダーボルトの魔法を使った。

 見張りのうち一人が倒れる。 

 ミスラは魔法の威力を調整できるので、ちゃんと気絶する程度の威力に抑えることができるが、俺はそれができない。

 サンダーボルトを使ったら殺してしまう可能性が高い。


「なっ! 敵だぁぁぁあっ!」


 残った一人が叫んだが、俺は鞄の中から丸い石を取り出し、それを投げた。

 丸い石が当たり、スタン状態になった盗賊をアムがあっという間に行動不能にする。

 地図を見ると、寝ていた盗賊たちが動き始めた。

 俺は扉を開けようとするが、鍵が掛かっているのか開かない。

 鍵を持っているのは見張りのどっちかだろうか?


 気絶している二人の荷物を漁ろうとしたとき、アムが叫ぶ。


「子供たち、扉の近くにいたら離れなさい! とびらを壊します!」


 彼女はそう言って少し間を置き、木の扉を剣で叩き斬った。

 どのみち盗賊たちには俺たちが侵入したことはバレてるんだ。

 大きな音を立てても問題ないし、そっちの方が早いな。

 俺の方は扉の近くに人がいないのは地図で確認できたので、何も言わずに扉をたたき壊す。

 そして――


「助けに来たぞ!」


 と中に入った。

 荷物も何もない薄暗い部屋。

 そこにいたのは――


「子供……とスライム!?」


 十二歳くらいだろうか? 茶色い髪の男の子と、そして二匹の小さな緑色のスライムがいた。

 そうか、地図で二つあった白いマークが三つに増えたのは、スライムが分裂したからだったのか。


「だ、誰っ!?」


 男の子が怯えた様子で俺を見る。


「近くの村の村長に頼まれてここに囚われている子どもたちを助けに来た。急いで逃げるぞ」

「この子たちもつれていっていい? 悪い魔物じゃないんだ」

「ああ、悪くないのはわかる。なんか事情を聴く時間がないから、スライムも連れてこい!」


 スライムが敵じゃないのは地図で表示されているマークが白いからわかってる。

 この子の従魔なのか、それともスライムが特殊個体なのかはわからない。

 子どもは頷いてスライムを抱えて立ち上がった。


「扉の破片を踏まないように気を付けろよ」


 と注意を促して外に出ると、アムたちは子供三人を部屋の外に連れ出していて盗賊たちが通路を塞いでいた。

 残っている盗賊八人が揃っていのだ。

 武器は剣や斧、棍棒などバラバラだが全員同じ革の鎧を着ている。

 全員で揃って購入したというよりは、


「お前ら、村の奴らに雇われた冒険者か。舐めた真似をしやがって」

「報酬を貰ってるわけでもないから雇われたってのは違うな」


 それに俺は冒険者でもない。

 この中で冒険者はミスラだけだ。


「だったらなんでこんなことをしやがる。お前らには関係ないだろうがっ!」

「子供が酷い目に遭ってて助けないはずがないだろ」


 俺はそう言って拳を構える。

 アムも二本のナイフを、ミスラも四元魔法の杖を構えた。


「ちっ、勇者気取りのバカ野郎が。だが、この人数差だ。ガキ共を守って勝てると思ってるのか?」

「勝てるさ。レベルとステータスは主人公を裏切らない。アムは子どもたちを、ミスラは援護を頼む」


 俺はそう言うと、前に出た。

 盗賊共が斬りかかってくるが、遅い。

 俊敏値が低いのだろう。

 日本にいた頃だったら恐怖のせいで俊敏値の差があってもまともに体が動かなかったかもしれない。

 だが、今は怖くなかった。

 ナイフで刺されることもなかったからか? それとも相手が格下だとわかっているからか?

 違うな、アムが見ているからだ。

 さっき盗賊の頭は、俺が冒険者だとか村に雇われているとか見当違いなことを言っていた。だが、一つ的を射ていた言葉があった。


「勇者気取りのバカ野郎を舐めるなよ」


 アムの前では勇者であると決めた。

 俺は盗賊の頭っぽい男の後ろに回り込み、首の後ろに手刀を叩きこんだ。


「がっ」


 衝撃で倒れるが、気絶――してない。

 とりあえず、落とした武器を再び掴もうとしたので、その手を踏みつけた。


「ギャァァァァ!」


 頭の悲鳴とともに、嫌な感触が靴越しに伝わる。

 指の骨が砕けたんじゃないか?

 と思ったとき、俺の後頭部に衝撃が。

 棍棒を振り下ろされたらしい。


「ご主人様っ!」

「大丈夫だ」


 振り向くと、棍棒が柄の部分からポッキリ折れている。

 それを見た盗賊の一人が逃げ出そうとするが――


「……サンダーボルト」


 逃げた盗賊をミスラの魔法が打ち抜いた。

 立ち向かってくる盗賊は二人いたが、残り四人の盗賊は戦う前に降参した。

 初めての対人戦は敵も味方も人質も誰も死ぬことなく無事に終わった。

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