第82話 山のダンジョンに向かうのは顛末を聞いたあとで
盗賊たちを全員拘束した俺たちは、アムとミスラに子供たちを連れて村に行ってもらった。
俺は盗賊を見張るためその場に残った。
途中、目を覚まして拘束を解こうとしている奴もいたが、ドワーフ謹製の拘束具、簡単に外れるわけもなく、ましてや外れたとしても俺が見張っているのだから逃げられるわけもない。
暫くして、アムが村人たちを連れて戻ってきた。
村人たちと一緒に盗賊たちを村に運ぶ。
これが結構大変だった。
手枷がついているのに逃げ出そうとして崖から転落しそうになる盗賊が現れたり、盗賊の服についた血の匂いを嗅ぎつけて魔物が現れたりと面倒なことが起きたのだ。
それでもなんとか村に盗賊たちを全員運んだ俺たちは、とりあえず今日は全員休ませてもらうことにした。
あぁ、一仕事したあとは風呂に入りたい。
翌朝、改めて村長のガンテツから礼を言われた。
「聖者様――子供たちを救ってくれたこと、誠に感謝する」
ガンテツがそう言って頭を下げた。
「ガンテツさん、その聖者ってのはなんですか?」
「ん? 違うのか? 魔術師の嬢ちゃんから、あんたは聖者と呼ばれて多くの村で敬われているって聞いたぞ」
「間違ってませんが……」
「それに、この死の大地の周辺の国々には苦しんでいる人を助ける聖者伝説ってのがあってな。聖者が天に祈れば干ばつの土地に雨が降り、枯れ果てた大地には多くの作物が育ち、人々を病や飢えから救うっていう言い伝えがあるんだ。おとぎ話だと思っておったが、今朝、驚いた。収穫まで半月以上かかるはずの作物が育っていて、しかもこれまで経験のないくらい立派に育っている。雨は降らなかったが、聖者伝説そのものだ」
そんな伝説があったのかっ!?
そりゃ、最初の村でもいきなり聖者扱いされるわ。
いや、まぁ都合がいいといえば都合がいい。
作物を育てるのだって、村人の信頼を勝ち取ってサブ拠点を作るためだった。
聖者伝説を利用すれば、さらに信頼を得やすくなるだろう。
「それと、例のスライム連れの坊主なんだが――」
昨日助けた子のうち、スライムと一緒にいた男の子どもはやはりこの村の子じゃなかった。
名前はフィリップという。
家族三人で旅をしていたのだが、運悪く盗賊に襲われてしまったそうだ。
両親はその場で殺され、少年は魔物使いの能力があるから高く売れるということで盗賊に捕まった。
今朝、再度村人たちが盗賊のアジトを捜索した結果、その家族の物と思われる荷物が見つかったそうだ。
「坊主は暫く村で預かるが、時期を見てトランクル王国の孤児院に送るつもりだ。能力持ちだから優先して受け入れてくれるだろう」
とのことだ。
でも、どうせ孤児院に送るのなら、ブルグ皇国の方が近い気がする。
この周辺の地理関係に詳しくはないのだが、大雑把な国の立地は理解している。
教会の国だっていうのなら、孤児院とかもありそうだが。
そう尋ねたところ、ブルグ皇国は教義的に魔物は全て悪であるという風潮が強く、魔物使いの能力は忌み嫌われているらしい。
それよりかは、トランクル王国の方が将来は能力を使った仕事ができるだろうとのこと。
でも、一つ懸念材料がある。
それはスライムたちだ。
なんでも、一緒にいるスライムはフィリップにとって初めての従魔らしく、ここ数年ずっと一緒にいたとのこと。
いくら従魔とはいえ、役に立つかわからないスライムを孤児院が受け入れてくれるとは思えない。
孤児院に引き渡すということは、フィリップとスライムを引き離すことになるだろうとのことだ。
それと、捕まえた盗賊たちについては、西のトウロニア帝国に引き渡すとのことだ。
というのも、ブルグ皇国では盗賊の扱いはほぼ極刑になるが、西のトウロニア帝国だと奴隷堕ち。
さらに、ブルグ皇国に引き渡しても報奨金すらもらえないが、トウロニア帝国だと奴隷としての推定価格の七割が報奨金として支払われる。ちなみに、トランクル王国でも奴隷となるが、報奨金は五割程度らしい。
盗賊にとっても村たちにとっても有益なのだとか。
子どもたちを帝国に売り払おうとしていた奴らが逆に帝国に売られることになるとはな。
同情はしない。自業自得なのだから。
そして、採れたばかりの野菜で作ったスープをご馳走になり、俺たちはようやく山のダンジョンに向かった。
山のダンジョンは岩と岩の隙間の穴が入り口になっていて、話を聞かなければ気付かないような場所にあった。
もっとも、地図を見ればダンジョンの入り口の表示が出るので、迷うことなくダンジョンの中に入る。
ダンジョンは坑道と違って明るくて進みやすいからいいな。
「さて、ガンテツさんから聞いたんだが、ここにはアイアンゴーレムの他に、黒いモグラの魔物――ブラックモールが出るらしいんだが、俺の知っているブラックモールは倒すとアドモンが生まれる」
「宝箱が出るんですね」
「……魔核も」
「そういうことだ。最低三回、狙って倒していくぞ」
俺は二人にそう伝え、ダンジョンの奥へと進んだ。
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