第80話 坑道への潜入は足下を照らしたあとで
地図で敵の位置を確認しながら移動する。
それにしても、この地図機能って便利だよな。
戦争で指揮官が使ったら、範囲は限られるが味方と敵の隊の配置とか丸わかりなんだよな。
確認できた赤いマークは全部で12。全部が盗賊か、それとも魔物が混じってるかはわからない。たぶん、離れた場所にいるのは魔物と思う。
しかも、アジトに使っている坑道はダンジョンではないので、内部の構造も丸わかりだ。
どうやら、盗賊たちは敢えて坑道の入り口に見張りを置いていないらしい。
まぁ、村人が子供を取り返しにくることを警戒しているのなら、入り口に見張りを立てたら「俺たちのアジトはここですよ」と立て看板を設置するようなものだからな。
その代わり、坑道に入って二つ目の曲がり角に二人、見張りがいるようだ。
なので、普通に歩いて盗賊のアジトである坑道の入り口近くまで移動する。
こういうとき、睡眠ガスとかそういうのがあれば便利なんだがな。
人質がいるから、煙で炙り出すわけにもいかないし。
「ご主人様。ここは私が――」
「確かにアムの俊敏なら敵に気付かれる前に倒せると思う。でも、三人で行こう」
見張りを立てていないくらいだ。
こんな時間に盗賊たちが坑道の外にいて別行動しているとも思えない。
ならば、後ろから挟み撃ちされる心配もない。
子どもたちが人質になっているというのなら、見た目だけは子どものミスラも一緒にいた方が安心できるだろう。
ただ、坑道の中は真っ暗で何も見えないんだよな……明かりを付けたら盗賊たちに気付かれる。
でも、坑道の中、結構足場が不安定で、何も見ないで移動したら転びそうな気がする。
俺たちにしか見えない明かりがあればいいのだが――ん?
あるじゃないか!
俺はメニュー画面を開く。
このメニュー画面って、スマホの液晶くらいの明るさがある上に、結構自由に移動させることができる。
それを足下にもっていけば、うん、しっかり照らすことができる。
「ご主人様、どうなさったのですか?」
「ああ、メニュー画面、アムとミスラもステータスや道具の確認に使ってるだろ? あれを広げて地面に持っていけば」
「これは明るいですね。それに、私にはご主人様のメニュー画面が見えないように私のメニュー画面も他の人にも盗賊にも見られる心配がないのですね」
「……明るい。野営のとき夜中に本を読むときにも使えそう」
ミスラ、夜の読書用にするのは光量が足りないぞ。目が悪くなるからやめた方がいいと思う。というか夜中は寝なさい。
まぁ、これで躓きにくくなった。
ミスラには杖を突いて歩かないように注意し、忍び足で坑道の中に入る。
最初の曲がり角を曲がったところで、奥からうっすら明かりが漏れている。
それに、話し声も聞こえる。
できる限り近付き、手を伸ばしてアム達に止まるように指示を出す。
「ガキ共はどうしてる?」
「暴れつかれて寝てるよ。いまは全員倉庫の奥だ」
「ああ、鉱石の保管に使われてたって部屋か。大切な人質だもんな。あれが飯になるんだから大切に扱わないとな」
「お前はバカか? 返すわけがないだろ。ドワーフの子供は高く売れるからな。貰うものを貰ったら西の帝国で他のガキを金に換えるんだよ。どのみち、食糧を全部奪ったらあの村には用がない。狩場を変えるそうだ」
やっぱり盗賊たちは素直に子供たちを返すつもりはないようだ。
ガンテツの予想が当たったな。
俺とアムは頷き、一気に盗賊の前に出る。
「な、おまっ!」
油断していた盗賊の一人の右腕と口を手で拘束しながら押し倒す。
もう一人の盗賊はアムが押し倒し、既に気絶させていた。
さすが手際がいい。
俺もここから首の後ろを殴って気絶を――ん? 仰向けに倒したら首の後ろトンはできないな。
と思った次の瞬間――
(え?)
盗賊の左手の袖の下に隠し持っていたナイフが俺の胸に当たった。
刺された――と直感的に思ったが、違う。
刺されてない。
少し痛いと思ったが、スライムに体当たりをくらったときよりダメージが少ない。
何故? 手加減したのか? と思ったが、目を見開き驚いている盗賊を見ると、どうも違うらしい。
……あぁ、これはあれだ。
盗賊Aの攻撃。0のダメージを与えた。
ってことだ。
盗賊の攻撃力を俺の防御力が圧倒的に上回っているため、ダメージが入らないんだ。
まぁ、こっちはレベル30だもんな。
アムは最初に会った時、レベル1桁でも村で一番強いって言われていた。
盗賊の、しかも夜に見張りをさせられている下っ端ともなればその攻撃力は低く、ナイフで攻撃力を上げたところでたかが知れている。
圧倒的なステータスの暴力だな。
間違っても死ぬことはない。
俺は盗賊の鳩尾を殴って気絶させ……気絶だよな? 死んでないよな?
ステータス差を見たので、殺していないか心配だ。
大丈夫、地図を見ると赤いマークは消えてない。
ガンテツが用意してくれていた拘束具と猿轡で盗賊たちを動けなくし、その場に放置。
さらに奥に進む。
分かれ道があり、左は大勢の盗賊たちが寝ている部屋、右がひとり部屋。
奥が子供たちが監禁されている倉庫だろう。
まずは子供たちを救出する。
そうすれば存分に戦える。
ただ、妙なんだよな。
子供たち三人が捕まっている部屋とは別に、隣の部屋にもう二つ白いマークがあったんだよ。
もしかして、他に誰か捕まっているのだろうか?
だとしたら、その人も助けないといけない。
そう思っていたのだが、さっきは白いマークが二つしかなかったはずなのに、そのマークが何故か三つに増えていた。
いったいどういうことだ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます