第79話 盗賊退治は太陽が沈んだあとで

 村人たちが土下座していた。

 ジャパニーズ土下座だ。

 この世界でも土下座は通用するようだ

 武装した村人たちに襲われかけたその時、ミスラが空に向かって「炎よ顕現せよ」といって巨大な火の玉を飛ばした。

 そして――


「……ミスラたちただの旅人で、盗賊じゃない。あなたたちを攻撃しなかったのが証拠」


 と言ったら誤解が解けた。

 魔法というのは使える人間も少なく、普通の人にとっては脅威らしい。

 その魔法を見た途端、村人たちから戦う気力が失われ、そしてミスラの話を聞いてくれるようになったそうだ。


「すまん、俺らはてっきり、あんたがたが盗賊の仲間だと思って」

「いえ、誤解が解けたようでなによりです。それで、何があったんですか?」


 俺は村長のドワーフであるガンテツさんに尋ねた。

 この村の男性の半数はドワーフだった。


「最近、この村の近くに盗賊が出るようになったんだ。まぁ、この土地はどの国にも所属していない、騎士隊が派遣されることもないからそう言う奴らはたびたび現れるんだが、この村の半数は屈強なドワーフ。盗賊など全員蹴散らしていたんだ。だが、盗賊たちはあろうことか村の子供三人を攫いやがった。そして儂等にこう言った。子供を返してほしければ、村にある全ての武器と食糧と酒を差し出せとな……その中には儂の子もいた。ドワーフはエルフと同じく長命種だが、その分、子供ができにくい。儂等ドワーフは酒と鍛冶をこよなく愛すると言われているが、それよりも自分の子の方が大事なのだ」

「だが、言うことを聞いても子供たちが帰って来るかはわからない。それに、武器や酒はともかく、食糧を全部差し出せばどの道村は全滅だ。だから、盗賊がやってきたらとっ捕まえて、奴らの塒を聞き出し、そこを強襲しようって話になってたんだ」

「そうしたらあんたがたが現れた――若い男と女二人。てっきり盗賊の使いっぱしりだろうと思ってしまったんだ。考えてみれば、約束の日は明日だし、子供はともかく美人の妖狐族なんていたら慰めものになるだろうから、使いっ走りになんてしないのにな」


 それを聞いて、ミスラが「……ミスラは子供じゃない。もう十八」と文句を言っていたが、話が進まないので黙っておく。

 また変な時に来てしまったな。

 盗賊襲撃イベントは既に終わっていたってことか。


「盗賊がどこにいるのかはわからないのですか?」

「ああ、ここから西の方から来るのはわかるが、あのあたりは昔、鉱山があったらしく穴だらけでな。どこにいるかなんてわからない。全員で探そうにも、大勢で探して回ったら盗賊たちに気付かれて子供たちの命が危ない。かといって、夜中だと暗くてまともに捜すのは無理だ」


 相手が焚き火でもしていたらわかるかもしれないが、盗賊たちもバカじゃないなら、村人たちが子供を奪い返しに来る可能性だって考えるはずだ。村人に食糧と酒だけでなく、武器も差し出すように言っているってことは、村人の武力を警戒しているのだろう。

 いや、待てよ? 俺なら地図機能を使えば盗賊の位置もわかるんじゃないか?


「……トーカ様なら助けられる」

「はい、ご主人様の力があれば盗賊退治も可能です」

「そうだな。どのみち、いまからダンジョンに行くのは無理だろう」


 もう太陽も沈みかけている。

 どのみち、今夜はこの村に泊めてもらう予定だった。


「本当にいいのか? 大した礼もできんが」

「いいんです。それより、この村の畑って見せてもらっていいですか?」

「畑か? まだ収穫時期の作物はないが――」


 畑を案内してもらうのは、もちろん天の恵みを使うためだ。

 どうせなら好感度を上げまくって、この村もサブ拠点として使わせてもらおう。


 食事は保存食があるからお構いなくと言ったのだが、作りたての食事を用意してくれた。

 ただ、酒は断った。

 これから戦いに行くのに酒を飲んで酩酊状態になったら大変だ。

 ガンテツさんが言うには、「この程度の酒精、水と変わらんだろう」と言っていた。

 岩山の中腹なので普通の水を飲むには離れた場所の泉で水を汲んで、一度煮沸させないと飲めないから、保存の効くるエールの方が普段飲みされているらしい。

 だが、俺は遠慮して持ってきていたペットボトルの水(家の水道水)を飲んだ。


 そして、夜中。

 準備が整った俺たちは村人たちに見送られて西に進む。

 月が明るいが、それでも夜道。

 当然薄暗く、道もほとんど見えない。

 登山道ではないし、滑落なんてことになったら大変だ。

 ただ、ここで凄いのがアムだった。

 夜の道だけど、はっきりと見えているらしく、彼女が安全な道を選んで進んでくれるので、俺たちはその後をついていくだけで移動できた。

 そういえば、狐って夜行性の動物だったっけ。


 地図を確認しながら、アムのあとをついていく。

 ミスラは魔法の杖を文字通り杖として使って、なんとかついてきてくれている。

 さて、聞いた話だとこのあたりが鉱山のはずだ。

 地図を見る。

 魔物が住み着いているのか、敵を示す反応がいくつかある。

 そして――


「見つけた――白いマークが三つ。子供たちだ」


 子供たちの周りには、薄い赤のマークがいくつかある。

 盗賊たちだろう。

 村人と違い最初から敵を示しているってことは、盗賊は倒すべき相手とゲームシステムが認識しているからだろう。

 俺たちは敵の位置を確認し、三人で作戦を練ることにした。

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