第78話 三度目の試練のダンジョンは錬金工房完成のあとで
その日の夜、再び試練のダンジョンに行った。
今回は太陽のクッキーを使う。
これで、一時間限定で経験値が二倍になる。
必要なレベルがわかったからだろうか、ミスラはさらにやる気になっている。そのやる気が空回りしないといいのだが。
レベル30になったことで、現れる敵は銅の球体であるカッパーボールから、銀の球体であるシルバーボールへと変化していた。
基本は同じだが、弱化、俊敏と体力が上がっている。
殴るのに必要な回数が4回から5回になっているのだ。
それに一番戸惑っていたのはミスラだった。
「……三匹しか……倒せなかった」
盗賊の職業レベルやそもそも基礎の俊敏が高いアムや、蒼剣でボール退治に慣れている俺と違い、ミスラはそもそも棒で殴るという経験が乏しい。
ましてや、走って追いかけて倒すなんて経験はこれまで皆無に等しかっただろう。
なにしろ、追いかけて殴るより魔法を飛ばして倒した方が早いのだから。
「……ミスラだけ足が引っ張っている」
「仕方ありません、ミスラ。得手不得手というものは誰にでもあります」
「……でも、元々これはミスラの戦いなのに」
「ミスラだけではありません。これは私の仇討ちでもあります。ライトソードがあるとはいえ、相手は悪魔。ミスラの魔法が頼りです」
「そういうことだ。だから早く強くなれ。アムとのレベル差も少し縮まってきたしな。それより、太陽のクッキーの制限時間が残ってるうちにボスを倒して二周目行くぞ!」
俺はそう言うと、落ち込むミスラを引っ張りボス部屋に突入した。
そして大きなシルバーボールを撃破。
あの銀の塊、売ったらどれだけのお金になるのだろうか?
ボールは倒すと死骸は消滅してしまううえ、ドロップする素材も共通のボールの欠片とボールの塊だけなので換金はできないが、なんとなくそんなことを思ってしまう。
ボスを直ぐに撃破した俺たちは、出てきた宝箱を開けて――銀色宝箱が一個あって、中身はドッグフードだった――ダンジョンから脱出。即座に二周目に以降。
二周目の途中で太陽のクッキーの効果は切れたが、しかし二周目を終えたときにはレベル35まで上がっていた。
アムはレベル20に到達。ミスラも19になっているな。
二周目のダンジョンクリアの宝箱も一つ銀色宝箱が出て、中身は酒樽だった。これはミケ行きだな。残りはいつも通り経験値薬だ。
「よし、じゃあ今日はここまでにしよう」
「……まだ戦える。昨日は三周した。今日はまだ二周」
「いや、明日は夜明け前に出発する。さっきエルマの村から酒場に来ていた奴に話を聞いてな。山のダンジョンの場所がわかった。初めてのダンジョンだが、高レベルのダンジョンの方が手に入る素材も多くなる。それと、俺も悪魔と戦うに備えて高レベルの魔導書を手に入れたい。推奨レベル30のダンジョンなら中級の魔導書が出るはずだ。俺はアムと違って魔力を上げるだけだと強くなるのに限度があるんだ」
サンダーボルトは威力こそ中威力ではあるが、範囲が一体限定であり、下級の上。
まだまだ弱い。
「それと、ポチには錬金工房の建設を依頼した。鍛冶場と迷ったんだが、ブースト薬の量産体制に入りたい。俊敏ブースト薬を飲めば、ボール退治も少しは効率が上がるだろう。ドッグフードが出てくれたから、明後日には完成するはずだ」
未鑑定のレシピもあるので、それにも期待している。
俊敏ブーストによる作業の効率化と聞き、ミスラは納得したようだ。
「大丈夫だ。まだ悪魔が来るまで一週間ある」
ミスラの首を見ると、数字が七になっていた。
深夜を過ぎ、日付が変わったからだろう。
翌日――いや、日付は変わっていたので同日か。
俺は犬の鳴き声で起こされた。
ポチではない。そもそもポチはワンと鳴かない。
目を開けると、目の前にいたのは白い犬だった。
ダンジョンでミスラが見つけた犬だ。
「……おはよう、トーカ様」
ミスラに起こされた?
窓の外を見ると、まだ外は夜だった。
俺が寝坊をしたわけではないようだ。
「おはよう、ミスラ。昨日は眠れたか?」
「……少し寝たけど、目が冴えたから、この子と散歩してきた」
「そうか」
隣にアムがいないから、彼女はもう起きているのだろう。
アムは俺に気付かれずにベッドから出る天才だな。
それとも俺が鈍感……眠りが深いだけだろうか?
朝ご飯と昼ご飯はポチが冷蔵庫に用意してくれていて、既にアムが道具欄に保存してくれていた。
家を出ると、裏庭の畑の近くに現場シートが掛かった場所がある。
どうやらあそこに錬金工房ができるらしい。
昨日、ポチにドッグフードを渡したらメッチャ喜んでいたからな。
ポチにとってのドッグフードは、俺にとってのA5級松阪牛ステーキ肉よりもいい品なのかもしれない。
エルマの村を出て南西に進む。
山道が続くが、この先に小さな村があり、ダンジョンはその近くにあるんだとか。
さて、初めて行くパターン。
これまでだと魔物に襲われてばかりだが、地図を見ると魔物が村を襲っている様子はない。
まぁ、そうそうあんな事件が起きたりはしないな。
襲撃イベントがないと拠点ポイントが手に入らないので少し残念な気もしたが、平和が一番だ。
そう思っていたら、突然、地図上に表示されていた建物内の白いマークが薄い赤に変わった。
そして――
「出たな、盗賊共! 俺たちの子供を返しやがれ!」
と言って武装した村人たちが俺たちの前に現れたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます