第224話 スクルドを倒すのは動きを封じたあとで
とりあえず、エクスポーションを取り出して翠に飲ませる。
うん、傷口は塞がったな。
まだ目は覚まさないが、こいつはこれでいいだろう。
それより問題はスクルドの方だ。
スクルドが銀髪の少女の姿に変わった。
国王陛下がターメルに変わったり、スクルドが美少女に変わったり、結界の中に入ってる奴は姿が変わる宿命なのだろうか?
「――師匠が偽物? スクルド師匠はどこにやったのです!」
アイリーナ様が叫ぶと、その少女は煩わしそうに耳の穴に指を突っ込む。
「ああ、うるさいうるさい。師匠はここにいるでしょ? 私は正真正銘スクルドよ。遥か昔からこの国に仕えてるわ。魔法の研究をするには組織の力が必要だったから利用させてもらったの。もっとも、それももう終わりだけどね。十分利用させてもらったわ。預言だって言えば、みんなバカみたいに信じちゃって私の思惑通り動いて。私に未来を視る能力なんてないのに」
「じゃあ師匠が――あなたが預言したのは――」
「もちろん、私たちが興したものよ。預言が本物と思わせるためにね。山火事、地震、落雷……魔法の力を使えば可能だったわ。精霊の研究をしたかったから精霊術の適性のある子どもを攫ってきて、国王の子どもとすり替えたああ、そういえばあなたの弟が病死する預言もしたわね。国王は私に『スクルドは精一杯息子の看病をしてくれた』って言ってたけど、愚かよね? 私が呪いをかけただけだっていうのに」
「サラマンダー様っ!」
アイリーナ様の顔が怒りに満ち、サラマンダーを召喚する。
サラマンダーはアイリーナ様の意志に応えるように、俺のファイヤーボールよりも大きな炎の塊を飛ばす。
が、スクルドの前に水の膜が現れてその火を防いだ。
サラマンダーは今の一撃に全てを込めたのか、送還されていなくなった。
「それにしても、本当に今回の勇者は凄いわね。サラマンダーと契約させられるなんて。ふふっ、あなたを派遣して連れて来させた甲斐があったわ。ここで殺すのが勿体ないくらい」
スクルドがそう言うと、水の膜が揺れた。
そして――
「みんな避けろ!」
水の膜が針のような形状に変わって飛んできた。
俺は咄嗟にミスラの前に立ち彼女を守る。
防御力のお陰で大したダメージは受けていないが、それでも痛いのは痛い。
「怪我はないかミスラ! ……アムは――大丈夫そうだな」
彼女はスパイクシールドを使って急所を守ったあと、ポーションを使って回復していた。
「はい、私は問題ありません」
「……ミスラもトーカ様が守ってくれたから大丈夫。でも隊長さんたちが」
隊長さんを含む数人の兵がアイリーナ様とシオンティーヌ様を庇って負傷していた。
かなり深い傷だ。
エリアヒールで治せるか?
いや、今俺が治療に専念したらスクルドの相手ができなくなる。
「な、何が起こってるんだ? 陛下はどうした!? スクルドはどこにいった? その女は誰だ!」
マクールがやってきて叫んだ。
そういや、こいつのことをすっかり忘れていた。
「マクール! エクスポーションで隊長さんたちの治療を頼む! あとで返すから!」
「わ、わかった!」
マクールが茶色宝箱から手に入れていたエクスポーションを取り出して、隊長さんたちに飲ませる。
彼らの治療はそれで大丈夫だろう。
俺はスクルドに専念する。
「いやぁ、凄いわね、エクスポーション。私も一本貰っておけばよかったかな? ターメルを演じているときに無理に貰おうとするとキャラがぶれてしまうから言い出せなかったのよね。ねぇ、勇者様。今頼んだら一本貰える?」
「素直に捕縛されるっていうのなら何本でもやるぞ。牢屋の中で好きに研究したらいいさ」
「あは♪ それはできない相談かな」
彼女はそう言って闇の剣を構える。
俺も白銀の剣ハンニバルを構えた。
魔法は厄介だが、連続で使えない。
相手のレベルは俺より下だ。
勝てない相手じゃない。
持続回復魔法のSヒールをアムにかける。
「アム、行くぞ! ミスラ、魔法で援護を頼む」
「はい」
「……ん」
二人がかりで斬りかかる。
さっきまでの翠とは違う。
力は弱い。
だが、当たらない――剣で受け流さられる。
まるで俺たちの攻撃が読まれているかのようだ。
本当は預言の力を持っているんじゃないかと思うくらいに。
だったら――
「力押しで――パワーレイズ! パワースタンプ!」
俺は自分自身に強化魔法を使った後、武器を黒鉄の大剣に持ち替えて振り下ろす。
「おっと危ない」
彼女は笑って避けて、アムの剣を避ける。
と同時に水の膜を生み出すと、その水の膜がミスラが不意に放ったサンダーボルトを受け止めていた。
「ちっ、水が雷を防ぐなよ」
「知らないの? 不純物を取り除いた水は雷を通さないのよ」
そんなの知らない。
水が周囲に飛び散ると、また刃に変わった。
その刃が今度は真っすぐ俺に向かって来る。
四方八方から飛んでくる水の刃に対し、俺は覚悟を決めて受け止めた。
「うーん、やっぱり並みの魔法じゃ効かないか。だったら――あら?」
突然、スクルドの足下から土が盛り上がり彼女の首から下を呑み込んだ。
一体何が?
振り返ると、肩で息をしながらアイリーナ様が立っていた。
その彼女の背後にいるのはバルクニルだ。
「悪魔の力を借りて魔法の威力を高めたの? そんな方法は教えていなかったはずだけど」
「あなたから教わったこと以外でないとあなたを倒せませんから。トーカ様! あまり時間はもちません」
見るとスクルドを呑み込んでいる岩に罅が入り始めている。
このままだと直ぐに解放されるだろう。
「手加減はしてやるから覚悟しろ」
俺はそう言って剣を振り下ろした。
これで終わり――のはずだった。
「そこまでです!」
俺の剣が受け止められた。
なんで――
「なんであなたが邪魔するんですか!」
アイリス様!
―――――――――――――
8分遅れてすみません。
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