第225話 女神アイリスの戦いはスクルドの正体を伝えたあとで
俺の剣を見たこともない金色の錫杖で受け止めたのは、女神アイリス様だった。
なんで⁉
もしかして、敵がアイリス様に化けているのか?
しかし、地図上の表示では白いマークになっている。
それに――
「あ、あの、遊佐紀様……力を弱めてくれませんか、そろそろきついです」
ちょっと涙目で彼女は言った。
あ、凄いのにこの絶妙な残念具合、本物のアイリス様に間違いない。
俺は剣を引くも、彼女が本物だっていうのならだったら猶更わからない。
なんでスクルドを庇ったんだ。
「その勇者の言う通りよ。あのままだったら私は確実に負けてたのに、何で止めたの?」
「そりゃ止めますよ。いくら手加減の能力を使っているからといっても、今の状態のあなたに攻撃したらどうなるかわかりませんからね――」
不敵に微笑むスクルドを睨みつけるようにアイリス様は言った。
「スクルド……それがあなたが自分に付けた名前ですか?」
「ええ、そうよ。あなたの世界の未来を司る女神の名前。預言者のフリをするにはちょうどいい名前でしょ?」
「北欧神話ですか……人間の神話についてはあんまり詳しくないんですが……」
スクルドは女神の名前だったのか……って北欧神話?
地球の神話の名前から取ったのか?
もしかして、スクルドも地球の人間だったのか?
「いいえ、遊佐紀様。これは地球の人間では、いえ、そもそも人ではありません。スクルドの正体はこの世界の神の一柱です」
「神様⁉ もしかして、クナイド教が信仰しているっていう……」
以前、ラン島で見た奴らは、レザッカバウムって神を信仰していたが、魔の神は全てで十二柱存在するって聞いた気がする。
「よく勉強してるわね。ワグナーから聞いたのかしら? その通りよ」
「なんでその神様が宮廷魔術師になって悪さばっかりしてるんだよ」
「そんなの、世界を新しく造り変えるために決まってるじゃない。偽りの神を信じる愚かな人間たちを滅ぼしたあとでね」
偽りの神って、アイリス様は正真正銘の女神だろう?
この世界でも唯一神として信仰されていて、お金のイリスだってアイリス様の名前から取られている。
むしろ、偽りっていうのなら、スクルドの方が偽物っぽいだろ?
邪神らしいし。
それにしても、偽りの勇者の子孫だったり、偽物のターメルだったり偽物の預言者だったり、偽物だらけだな。
でも、さすがにアイリス様を偽物扱いするのはないだろう。
「……あなたの言葉は否定できません」
ってあれ? 否定しないの?
「ですが、私も神である以上、あなたを止める義務があります。まずは、その人を解放しなさい」
「ふん、できるものなら力づくで――でしょ?」
スクルドを纏っていた岩が一瞬で砕ける。
こいつ、実は最初から逃げようと思ったラ逃げられたのかっ!?
女神アイリス様とスクルドの戦いが始まった。
俺も手助けしようとするが、アイリス様は俺には手を出すなという。
俺は結局、彼女たちの戦いを見るしかできなかった。
「トーカ様、話が聞こえませんでしたが、あの方は? 突然現れたように見えましたが」
アイリーナ様が尋ねる。
聞こえなかった?
普通の声で話していたと思うが――
「彼女はアイリス様です。俺がこの世界に来るときに出会った女神様ですよ」
「女神アイリス様っ!? あの方がっ! 助太刀をしなくてもいいのですか」
「手を出すなって言われたんです」
聞いていた皆がその場に跪き、手を合わせて戦いを見守る。
アイリス様が押しているか?
だが、なんだろう? スクルドは負けているというのにずっと余裕そうだな。
アイリス様から魔法で薔薇の蔦を生み出してスクルドを縛り上げた。
勝負あったな。
スクルドは意識を失っているようだ。
「ミスラさん! こっちに来てください!」
ミスラがこっちを見る。
俺は頷いて返した。
ミスラがアイリス様とスクルドのいる場所に行く。
「……なんでしょうか?」
「ミスラさん、彼女の魔法の流れを見てください。あなたならわかるはずです」
「……ん? そういうこと?」
ミスラは意識を失っているスクルドを見る。
そして、何かに気付いたように目を見開き、
「……そういうこと。随分と悪辣な」
俺がギリギリ聞こえるくらいの声で言った。
どういうことだ?
そして、ミスラはスクルドの肩に手を当て、
「ディスペル」
と魔法を唱えた。
すると、スクルドの姿が突然老人の姿へと変わった。
あの顔、見覚えがある。
『お父様!』
『陛下!』
アイリーナ様たちが叫ぶ。
ああ、そうだ西の塔に捕まっていた陛下だ!
あの陛下はターメルだったけれど、スクルドが陛下? どういうこと?
【はいはい、終わり終わり。まぁ、女神様と今代の勇者様に挨拶するって目的は達成したし、私はとっとと退散ね】
俺の疑問をよそに、スクルドの声が聞こえた。
そして、その声の気配は消えた。
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