第226話 授与式は戦後処理のあとで
どうやら、俺たちが戦っていた相手は、スクルド(の魔力のほんの一部)が憑依した国王陛下だったらしい。
衰弱状態だったので、助けたときには意識がなかった。
蒼剣だと、衰弱は一定時間ごとに最大体力&体力の両方が減っていく状態異常だった。
ゲームと同じかどうかはわからないが、手加減をして体力を残しても、衰弱のせいで死んでしまっていたかもしれない。
アイリス様が止めてくれてよかった。
「この人は私が預かりますね。いろいろと話もあるので」
そのアイリス様はそう言って翠を浮かせると、今回の事情については詳しく話をしないまま彼と一緒に消えた。
全部終わって俺たちが家に帰ったら話をするそうだ。
目を覚ました国王陛下は直ぐにトランデル王国に使者を送り、クーデターの終了を宣言。
意外なことに、戦争はすんなり終わった。
だが、今回の戦争において、トランデル王国が奪った国土の七分の一と四つの都市、それに連なる町や村の返還は拒絶。
今度、話し合いが行われるそうだが、返還してもらうのは難しいだろうというのがアイリーナ様から聞いた話だ。
城の牢には第三宮廷魔術師を含む魔術師たちが三十人程監禁されていたが、大半の魔術師は行方不明となっている。恐らく、愚者の石に姿を変えられたのだろう。その愚者の石も、スクルドが持っていた黒い剣とともに姿を消した。
スクルドに操られてクーデターを起こしたもの、その命令で加担したものについての罰は反逆罪にしては非常に軽度なものだったが、ただ一人、ムラハドだけはクーデターの責任を取らされて処刑された。
彼は最後まで自分はスクルドに操られていただけだと主張したが、表向きは彼がクーデターの首謀者になっていることもあり、クーデターの終結を宣言するには彼の死が不可欠だったらしい。
俺は人の死に対して喜べる人間ではない。
だが、ミスラが言うにはムラハドが操られている魔力の痕跡のようなものはなかったそうなので、彼が操られていたというのは自分が助かりたいための嘘だとわかり、少しだけ気持ちが楽になった。
さらに、現在の王家が勇者の子孫ではないことが公にもなったのだが、アイリーナ様が大精霊と契約をしたこと、さらに女神アイリス様が現れて国王陛下をお救いしたことを多くの人が目撃していたこと、さらにクーデターを起こした人間の多くが洗脳されていたため、今回の反乱に大義がなかったことなどがあり、国民は国王の話を受け入れ、いまのところ大きな問題は起きていない。
そして、クーデター終結から一ヶ月が経過した。
女神アイリス様は家に帰ったら直ぐに来るのかと思ったけれど、今回少し無茶をしたことで上司から注意を受けて罰を受けている。
俺は再び王城にやってきた。
褒賞が与えられることになったのだ。
「よく来て下さった、トーカ・ユサキ様。この度は我が国を救ってくださり感謝いたします」
そう言って国王陛下はその場に膝をつき、頭を下げた。
それに倣うように、横にいた大臣と第三王子のキールウェイン様、そしてアイリーアン様とシオンティーヌ様、さらには近衛兵たちが全員土下座をしたのだ。
そういえばここって勇者の興した国だから、土下座文化もあるのか。
って、全員土下座は勘弁してくれ。
アム、頼むから「ご主人様に最大の敬意を示すのは当然です」みたいな顔をしないでくれ。
「頭を上げてください。最後陛下を助けたのは女神アイリス様ですから」
「いいえ、女神アイリス様の加護があったのは、勇者であるトーカ様がこの国に来て下さったお陰だと思っております。本来であれば、我々がトーカ様が治める町に出向いて挨拶をしないといけないのですが、何分国の問題もまだ完全には解決しておらずそのような状態で国を離れることができず――」
知っている。
使者として訪れたアイリーナ様から、国王陛下が何度も何度も謝罪していたと聞いている。
「とにかく、頭を上げてください」
「陛下。トーカ様が困っていらっしゃいます」
「あぁ……」
国王陛下がそう言って立ち上がる。
他の皆も立ち上がった。
少しほっとした。
「トーカ・ユサキ様。今回の褒賞として金貨3000枚。宝物庫の中から希望のものを五つ、そして最後に仲間であるアムルタートとミスラの奴隷契約を解除をするものとする」
俺の希望が叶った。
そう、俺が王様に頼んだのはアムとミスラの奴隷からの解放だ。
王族や大貴族なら奴隷から解放できるって言っていたから国王陛下だったら余裕だろう。
金貨3000枚と宝物庫の中から好きな物を貰えるっていうのは聞いていなかったけれど、まぁ貰えるものは貰っておこう。
「ありがとうございます」
「うむ。最後に、トーカ・ユサキ様にトーラ王国国王の名において勇者の称号を授けるものとする」
は?
周囲の人間がこれまでで一番大きな拍手をする。
待て待て待て待て待て。
え? 俺勇者?
自称じゃなくて、公式勇者になるの?
「おめでとうございます、ご主人様。ご主人様の従者であることを誇りに思います」
「……トーカ様、おめでとう。史上二人目の勇者」
アムとミスラにも祝われる。
俺はこれまでは自分のことはただ異世界から来た人間であり、世間から勇者として認められた人間が勇者だって言ってきた。
これで俺は正真正銘勇者になってしまったということか。
でも、アムが嬉しそうにしているからそれでいいか。
こうして授与式は終わる――かと思ったのだが、最後に国王陛下が爆弾発言を用意していた。
「最後に、これは褒賞ではなく余からの頼みなのだが……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます