第219話 勇者と認められるのは空から光が差したあとで
「いたたたっ、さすがに死ぬかと思った」
さっきまで俺たちがいた部屋が大爆発を起こした。
そして、俺たちはその下の部屋にいた。
「お前達、どこから落ちて来たんだ? ていうか、なんなんだ、上から凄い音がしたぞ」
どうやら下の階は厨房だったらしく、マクールが料理人を縄で縛って言う。
ミスラが魔力の流れに違和感を感じ、部屋が爆発すると言ったので、俺とアムは咄嗟にアイアンハンマーを使って床を壊し、その中に入った。
と同時に、ミスラが土魔法を使って天井を修復、さらに補強する。
危なかった。
「危なかったのは僕の方だ。天井が崩れたときは生き埋めになるかと思ったぞ」
それは悪いことをした。
でも、あそこでミスラが天井を補強しなかったら爆発の衝撃で大規模に天井が崩れ、マクールたちはガレキの下敷きになっていたのだから感謝してもらいたい。
「それで、そいつはムラハドだな? 国王陛下はどうした? ん? ターメルは少しやつれたんじゃないか?」
「それが、上の階にいたのは国王陛下じゃなくてターメルだったんだ。そして、俺たちがターメルだと思ってたのがターメルじゃなかったらしい」
「は? 何を言ってるんだ?」
俺も自分で言っていてどういうことかわからないよ。
一体どうなってるんだかわからない。
そう言おうとしたら――
「「幻影魔法」」
答えに辿り着いたかのように言ったのはミスラとアイリーナ様だった。
ミスラが続けて言う。
「……光の幕を覆って相手に幻影を見せる魔法について古代の魔術師が研究しているという記録があった。その魔法を使えばターメルの姿を別人と偽ることが可能」
「僕もその魔法については聞いたことがある。姿を消す魔道具の技術もその理論に基いて作られているからな。だが、姿を消すものと違い、他人に姿を変える魔法はまだ研究段階のはずだ」
マクールが言う。
誰も使えない魔法を使ってるってことか?
そんなの一体誰が――
「ご主人様、一度戻りましょう。偽物のターメルの臭いを追います」
「そうだな、外にいる隊長さんたちも心配だ」
俺はそう言うと、気絶しているムラハドを抱え上げて窓から外のようすを見る。
そこでは、隊長さんたちが満身創痍になりながらも、迫りくる兵たちを退けていた。
「お前ら! クーデターの主犯格、宮廷魔術師第二席ムラハドは俺の手の中にある! こいつの命を助けたければ道を開けろ!」
俺は自分に注目を集めるためにスポットライトを使って、窓から飛び降りた。
今の俺の力なら三階から飛び降りたところでどうってことはない。
抱えているムラハドが受ける衝撃がどの位かは知らないが、手加減能力を発動させたので、落下ダメージも手加減の効果の範囲内だったらこれで死ぬことはないだろう。
うん、地図を見てもちゃんと赤色表示は残っているから大丈夫か。
「ムラハド様が……」
「どうする?」
兵たちに動揺が広がる中、アイリーナ様が降りてきて宣言した。
「皆さん、落ち着きなさい! 彼はこの時代に召喚された勇者様です! そしの証拠に――」
アイリーナ様はサラマンダーを呼び出して宣言する。
「この大精霊サラマンダーは勇者様の力により、私と契約するに至りました。これがなによりも彼が勇者である証拠です」
さらに兵たちに動揺が広がった。
「あれが大精霊、本当なのか? 魔物じゃないのか?」
「王家の指輪から出てきたから精霊だ……昔、国王陛下が王家の指輪から微精霊を召喚したのを見たことがある」
「じゃあ、あの方は本物の勇者様? 勇者の子孫じゃなくて? あの平凡そうな男が?」
「そうだろ! 天から光が落ちてきている! あれこそ勇者様である証拠だ!」
平凡で悪かったな。
それと、最後のは違う。
これは天からの光であっても、勇者の証じゃなくてただのスポットライトだ。
でも、確かに曇った空から落ちてくる光って、神秘的に見えるかもしれない。
ムラハドが打ち取られたこと、アイリーナ様が大精霊と契約していること、そして俺が勇者であるらしいということ。
それらのせいで、兵たちは戦う意欲を失くしたようで、次々に剣を落としたり、鞘に納めたり反応はバラバラだ。
だが――
「お前ら、何をしている! 相手は敵だ! 戦え!」
「王家は勇者の子孫であると偽っていたのだ! それを許せば女神アイリス様より天罰が下るぞ!」
「戦うのだ! それがこの国のためだ!」
指揮官らしき男たちが現れて部下に発破をかける。
この状況をわかっていないのか?
アイリス様の命令を受けて俺が来ているのに、アイリス様が天罰を下すわけがないだろ。
「……ディスペル!」
突然、何の前触れもなくミスラが魔法を使った。
一体何を……って、思ったが解呪魔法を掛けられて突然剣を落とした指揮官を見て俺は理解した。
「……トーカ様とアイナも! 早く」
「よし」
「そういうことですか、わかりました」
俺は指揮官らしい男に近付きディスペルを、別の指揮官は、次の瞬間には状況を把握した隊長さんに羽交い絞めにされアイリーナ様にディスペルを掛けられていた。
そして、ディスペルを掛けられた指揮官たちは――
「……っ!? 私は一体何てことを」
「アイリーナ殿下っ! 違うのです! 私はこのようなことをするつもりはなかったのです」
「………………」
自分のしでかしたことに後悔する指揮官、言い訳をする指揮官、自分のしたことを受け入れられずに呆けている指揮官!
「わかっています。あなたたちはただ操られていただけ。そうなのですよね?」
だろうな。
洗脳とか催眠とかそういう類の呪いのようなものだろう。
たぶん、王家が勇者の子孫を偽っていると教えられ、そのときに芽生えた疑念を増幅させた――とかよくある手法だ。
ムラハドの奴め、なんと卑劣なことを。
「そして、あなたたちを操ったのは――」
そう言ったところで、アイリーナ様が言葉を止める。
何故か彼女はそこで躊躇した。
その言葉の続きを待っていると、操られていた指揮官の一人が言った。
「……私に妙な魔法をかけたのは、宮廷魔術師第一席――スクルド様です」
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