第218話 ムラハドを倒すのは三回攻撃したあとで

 ミスラのサンダーボルトがムラハドに直撃した。

 しかし、ムラハドは倒れない。


「防護結界は無事……貴様、一体何をした」

「……? 効いていない?」


 ムラハドがたじろいでいるが、ミスラも困惑している。

 サンダーボルトが直撃したのに効いているように見えないのだ。

 と思ったら、ムラハドの首飾りの三つある宝玉のうちの一つが砕けた。

 俺はすかさず鑑定をする。


【身代わりの首飾り:ダメージを受けたとき代わりに引き受ける。過剰なダメージを受けると宝玉が砕け、全て砕けると効果がなくなる】


 なるほど、ムラハドのからくりはそれか。


「ミスラ、効果はあるぞ。あと三回やれ」

「……ん、わかった」


 クールタイムが終わるのを待つ。

 だが、ムラハドもただ黙ってやられたりはしない。


「何をしたかは知らんが、奇跡は二度と起きん! 精霊よ、光とともに壁となれ!」


 ムラハドが防護結界をさらに発動させる。


「ははは! 一枚でも十分なのに防護結界が二枚です。これで――」

「……サンダーボルト」


 ミスラは防護結界に手を触れ、サンダーボルトを発動させた。

 サンダーボルトは当然のようにムラハドに直撃し、宝玉を砕く。

 今回のを見て、俺はようやくミスラが何をしたのか理解した。

 彼女は転移魔法を使ったのだ。

 彼女は転移魔法を応用して、魔法の発現位置をほんの少しだけずらすことができる。

 元々、対悪魔用に研究していたのだが、実際のところ悪魔戦では使われることがなかった――というより、それを必要とするほど悪魔が強くなかったのだ。

 しかし、ここに来て役に立つ。

 転移させているのだから、壁が何枚あろうと関係ない。

 当然、そんなこと教えるつもりはない。


「貴様、一体何を、何を、何を何を何を何を何を何を何を――」

「……答えは単純。ミスラと違って賢いあなたならすぐにわかるはず」


 ミスラが挑発するように言うが、魔法の発動箇所を転移させるなんて彼女にしかできない。

 ムラハドにわかるはずのない答えを考えさせることで、思考の袋小路に誘い込んでいる。

 さっき、自分の能力について自慢気に語っていたムラハドと、自分の能力を最後まで隠すミスラ。

 能力をひけらかすか最後まで隠すかの違いが勝敗を分けたな。


「……サンダーボルト」


 三発目の雷魔法がムラハドに当たった。

 身代わりの首飾りが砕ける。

 ムラハドが呆けている。

 勝負あったな。


「計カクなどシったコトカ……王を殺す。先に王を殺せば私のカチだ!」


 ムラハドはそう言うと近くに置いてあった剣の柄を握った。

 王を囲ってるのは防護結界じゃないのか!?


「ミスラ――!」

「……まだ使えない」

「ははは、私のカチだ!」


 このまま王を殺されたら――ここまで来たのに。

 ムラハドが剣を振り下ろす。


「「お父様!」」


 アイリーナ様とシオンティーヌ様が叫んだ。

 やつれた表情の国王陛下は自らに向かって来る凶刃を見詰め――


「剣筋が甘いな」


 ガラスが砕けると同時に、その剣を受け止めていた。

 俺たちは自分の目を疑った。

 その剣を受け止めたのは、さっきまでいた国王陛下と入れ替わるように現れた闇ギルドのマスターのターメルだったのだ。 

 ターメルは受け止めた剣を腕を捻って奪い取ると、その腹の部分でムラハドを殴りつけた。


「な……んで貴様がここに……」


 ムラハドは最後の最後まで何があったかわからずに意識を失った。

 クーデターの首謀者の最後にしてはあっけないものだ。


「ターメル、助かったよ。気付いたらいなくなってたけどこのためだったんだな。いまのどうやったんだ?」

「……? 誰が、お前は」


 ターメルは俺を訝し気に見て尋ねる。

 まるで俺なんて知らないと言っているかのようだ。


「何言ってるんだ? 今日ずっと一緒にいたじゃないか。ていうか、少し離れただけなのに随分とやつれたな」 

「ずっとも何も、クーデターの協力を断ったせいで、儂はここ今日はずっとこの部屋に監禁されていたぞ……まったく、年寄りに無茶しおって」


 ……は?

 いや、待て待て待て!

 クーデターの協力に断った?

 ずっと監禁されていた?


「ご主人様……彼の言っていることは本当だと思います。さっきまで一緒にいたターメル様と匂いが違います」


 は? じゃあ、さっきまで一緒にいたターメルはどこの誰なんだ?

 それと、国王陛下はどこに監禁されているんだ?


「――っ!? トーカ様っ! 逃げてっ!」


 普段静かなミスラが大声を上げた。

 直後、部屋が爆発した。

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