第217話 ムラハド退治は結界に阻まれたあとで

 金属の扉は数十メートルは吹っ飛び、城壁にぶつかった。

 ホームランだな。

 当然、その音を聞きつけて兵たちがこっちに向かって来る。


「出てきてください、サラマンダー様!」


 アイリーナ様がそう言うと、目の前にサラマンダーが現れた。

 その見た目はトカゲというよりは、もう真っ赤なドラゴンだ。

 サラマンダーは口から炎を吐き出した。その炎は壁のようになり、迫って来る兵たちの足止めをする。

 扉破壊もド派手なら、いきなりサラマンダーの攻撃ってのもド派手だな。


「こっちです、ついてきてください!」


 シオンティーヌ様と隊長さんたちが西の塔に向かって走る。

 と思ったら、城の中から大勢の兵が出てきた。

 マクールが四体のゴーレムを呼び出す。


「マクール!」

「殺すなって言うんだろ? お前の甘さは理解している。僕に任せろ!」


 マクールはそう言うと、ゴーレムでスクラムを組む。

 まるでアメフト選手のようだ。見事なまでのワンチームだな。

 ……いや、全部マクールが動かしてるんだから、ワンチームじゃなくてワンマンプレイか?

 ここまで目立たない活躍だったゴーレムがしっかりと役目を果たしているな。

 でも、城の中を通らずに行くのは――


「……トーカ様、この壁の向こう、人いない?」

「ああ、いないぞ」

「……なら――土よ顕現せよ」


 ミスラが魔法を放つ。

 強大な岩が壁を打ち抜いた。

 魔法の威力がまだ上がってるな。


「そこは⁉ 勇者様が残した石碑が保管されている――」

「シオン姉さま、そんなことを言っている場合ではありません」


 なんか大切なものがあった部屋みたいだが聞かなかったことにして、俺たちは開いた穴を通っていく。

 あぁ、メイドさんらしき人が逃げている。

 俺たち賊じゃありませんから、「泥棒っ!」とか言って騒がないで。

 そして、文字通り一直線に西の塔に向かう。

 西の塔は既に兵が大勢集まっていた。

 ここだけは力づくでいくしかないな。


「アム、道を切り開くぞ!」

「はい、伴に参ります!」


 俺とアムは手加減能力を使って突撃する。

 痛いと思うけどごめんなさい!

 直線上にいる敵を大剣で薙ぎ払う。

 そして――

 

「……土よ顕現せよ!」


 ミスラが二つの壁を作って通路を生み出した。

 ただの壁ではない。

 サラマンダーの炎がその壁の外側を覆い、よじ登れないようになっている。

 俺たちはそのまま塔に向かった。

 塔の扉に鍵が掛かっているかどうか調べる前に、俺とアムの大剣がそのまま扉をぶち破り、そのまま中に入る。

 あ、サラマンダーが引っかかった。

 さすがにサラマンダーを塔の中に入れるのは難しいか。


「ここは俺たちが死守するぞ!」

「「「はい!」」」


 隊長さんと騎士たちが扉の前に部隊を展開する。

 後ろは彼らに任せ、俺たちは塔を登っていく。

 途中、メイドさんが恐怖のあまり窓から飛び出して逃げようとしていたので、慌てて【犬が歩けば当たる棒】を投げて気絶させ、マクールに彼女がまた塔から飛び降りないように縄で縛っておいてもらう。

 くれぐれも変なことはしないように念を押して。

 もうすぐ最上階だ。


「この先に敵が一人いるぞ」


 みんなに警戒を促し、そして俺たちは最上階の扉を開けた。

 そこで待っていたのは魔導士のローブを纏っている男。

 さらにその奥にはやつれて何かガラスのようなものに閉じ込められている男。


「ムラハド!」

「これはこれは、誰かと思えば城から逃げ出した元第一王女のシオンティーヌ様と、トランデル王国にいるはずの元第二王女のアイリーナ様ではありませんか」

「あなたがここにいるとは、好都合です。観念しなさい!」


 アイリーナ様が言う。


「観念? まるで私が追い詰められているかのような台詞ですね」

「実際追い詰められているでしょう? こちらは五人、あなたは一人。いくらあなたが魔術に秀でた術士とはいえ、魔法は連続では使えない。一度魔法を使ったが最後、誰かがあなたを取り押さえますよ」

「できるものならやってみなさい。できるものなら――」

「……サンダーボルト」


 話を最後まで聞かずにミスラが魔法を放つ。

 が――その魔法が何かバリアのようなものに防がれる。

 だったら直接!

 俺は剣で切りかかるが――剣の攻撃もバリアでまた防がれる。

 通用しない。

 まるでダンジョンの壁を切っているかのようだ。


「ははは! 私の防護結界は完璧! 剣も魔法も通用しませんよ!」

「ですが、それではあなたも攻撃できませんよ」

「わからないのですか、アイリーナ様。私は攻撃する必要はないのですよ。ここで待っていれば塔を守る兵たちがここに押し寄せてきますよ」


 ムラハドは勝利を確信した顔で言った。

 このままここにいたら――


「ミスラ、ディスペルで消せないのか?」

「……無理。これは純粋な魔法とは違う。たぶん、精霊の力を使っている」

「おや、そちらのハーフエルフは気付きましたか? そうです。この国王が持っていた指輪による精霊術と私の魔法を融合させているのですよ。これぞ究極の防御魔――」

「……サンダーボルト」


 ミスラがそう言うと、サンダーボルトがムラハドに直撃した。

 こいつ、今何をしたんだ?

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