第216話 作戦開始の合図は静かな宣言のあとで
隠し通路を進む。
階段を上ったが、外ではない。
なんか部屋に出た。
金属の扉があり、扉には鍵が掛かっていた。
「開かないな……」
普段使われていない場所なのだろう。
扉の蝶番が錆びている。
でも、扉そのものは結構凝っているんだよな。
杖の紋章とか掘られているし。
ってあれ? よく見ると扉の隙間、なんかセメントみたいなもので塗り固められていないか?
「シオンお姉さま、これは――」
「ええ、王家の紋章ですね」
王家の紋章?
ってことは、国の施設のどこかってことか。
まぁ、王都だから国の施設があってもおかしくない。
とりあえず、地上に出たわけだから地図を使えば地上の位置が確認できる。
「あの、アイリーナ様、シオンティーヌ様……ここ、なんか国のど真ん中……ていうか、敵のマークが大量にあるんですけど」
地図はインターネットの衛星写真みたいに空から見た映像を見るわけではない。
だが、建物の大まかな形とかがわかる。
直ぐ近くにかなり大きな建物があり、東と西に円形の何かがある。
ここは東側の円形の何かだ
これってもしかして――
「城の東の塔でしょうね。かつて王家の隠し通路があった場所です」
変な道だと思ったら、王家の隠し通路だったのか。
「え? じゃあ、シオンティーヌ様はここを通って城から脱出……いや、ここが使われた形跡はないですよね」
「はい。昔は使われていたみたいなのですが、お恥ずかしい話……先ほどミスラ様が消された魔法の壁を抜ける方法が失伝していまして――」
シオンティーヌ様が言いにくそうにする。
彼女がそんな表情をする理由はだいたいわかる。
恐らく、隠し通路の壁を消す方法がわからなくなったのは、本来の王家の血筋が途絶えたタイミングだったのだろう。
当時の国王は隠し通路について調べることができなかった。
もしも魔術師を動員して隠し通路について調べたとき、『勇者の子孫にしか通れない道』なんてことになったら自分が勇者の子孫ではない、正当な王位継承者ではないことがバレてしまう。
だから、扉をセメントのようなもので塗り固めることしかできなかった。
「ここは城の中なのですよね? だったら、一気に国王陛下の救出をすればいいのでは?」
「いや、でもアム。この扉は――あ、うん、そうだね」
アムがハンマーを取り出していた。
ダンジョンの壁や魔法の壁ならまだしも、セメントで塗り固められている扉ならそれで壊せるね。
蝶番の部分も錆びてるし、こういう扉だったら内側からの衝撃に弱いはずだ。
作戦を練る。
まずは国王陛下のいる西の塔に一直線で向かう。
そして、塔に入ると、外からの敵を隊長さんたちが防ぐ。
国王陛下を助けたら、帰還チケットで俺の家に送る。
隊長さんたちとシオンティーヌ様も一緒だ。
パーティメンバーとして登録されていないので、一人一枚チケットを使う必要があるが、在庫は十分ある。
アイリーナ様は危険だが一緒に来てもらう。
彼女にはムラハドを倒すときに一緒にいてもらわないといけない。
ムラハドを倒したあと、大精霊の力を持って、彼女が正当な王位継承者であることを知らしめる。
そして、クーデターが失敗したという宣言とともに、トランデル王国に侵略戦争の大義名分を失わせる。
それでも攻めてくるようなら、俺たちが打って出ないといけないからな。
目立たず行動したいが、ミスラが壊した隠し通路がいつ発見されるかわからない。
夜までは待てないだろう。
少し休憩したら出発する。
その宣言をするのはシオンティーヌ様だ。
休憩といっても、体力はエリアヒールで回復している。
魔力も既に回復済み。
休憩とは名ばかりの覚悟を決めるための時間を取ったのだ。
「……行きましょう。誰一人死ぬことは許しません。危ないと思ったら勇者様よりいただいた帰還チケットを使うのです」
全員、声を出さずに頷く。
国を取り戻す戦いの開始にしては静かな宣言だった。
だが、静かなのもここまでだ。
「アム、俺も一緒にやるぞ」
「はい、ともに参りましょう」
俺は黒鉄の槌を取り出した。
そして俺とアムは息を合わせて金属の扉をぶん殴る。
轟音とともに扉が吹っ飛んだ。
作戦開始の宣言は静かでも、合図はド派手だ。
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