第215話 地上に出るのは誰もいない出口を見つけたあとで

 九階層の銀色宝箱から出た流水の首飾り(水耐性・強)を誰に持ってもらおうか考えながら、俺は後ろで広げられる会話に耳を傾けていた。

 さっきから、何故か生まれるどころか身籠ってもいない子どもについて話が進んでいる。

 アムに男の子が生まれたら俺の立場を継がせたいとか、ミスラに子どもが生まれたらトーラ王国の魔法学院に留学させたいとかそういう話だ。

 ミスラ自身は留学するつもりはないらしい。

 俺と一緒にいて新しい魔導書を手に入れ、それについて研究したほうが勉強になるらしい。

 俺は子どもには自分の意思で進む道を決めてほしいんだけどな。


 隊長さんたちが頑張ったお陰で、道中の雑魚敵は明らかに少ない。

 ただ、六階層と三階層のボスは当然のように復活していた。


 尚、金色宝箱が三つ、銀色宝箱が五つ、茶色宝箱が七つと宝箱運はまぁまぁよかった。

 金色宝箱の中身は以下の通り。


 技術書(首皮一枚)

 技術書(魔力増幅)

 魔導書(Sヒール)


 三連続で技術書、魔導書が出るのは大当たりだな。

 首皮一枚の効果は体力が2以上ある時、死んでしまうような攻撃を受けても体力1で生き残ることができる能力だ。これは仲間全員修得できた。

 魔力増幅は、魔力を二倍消費することにより、魔法の効果を五割増しにする能力。こちらはアム以外が修得できた。俺はミスラと違って魔法の改造ができないのでかなりありがたい。ミスラも喜んでいた。

 Sヒールは、30秒ごとに1回ヒールの効果が発動される持続型回復魔法だ。複数回効果がある魔法というのはこの世界には存在しなかったらしく、ミスラがかなり興奮していた。

 今回はミスラの当たり回だな。


 続いて銀色宝箱。


 高級釣り竿

 錬金術レシピ(エクスポーション)

 型紙の欠片

 宝の地図

 バロメッツの苗

 

 高級釣り竿は文字通り高い釣り竿。レア度の高い魚やアイテムが釣れるようになる。

 錬金術レシピ、エクスポーション――これは現在は使えない。錬金工房のレベルが足りないのだ。

 型紙の欠片はいつも通りとして、宝の地図。

 宝の地図は、手に入れたダンジョンの中の地図しか表示されないので、クーデター問題が解決したあともう一回このダンジョンに来るのは確定だな

 最後にバロメッツの苗。

 畑で育つ作物の中でも面白いものだ。

 なんと、畑で仔羊が育つのだ。

 蒼剣では牧場で羊を育てることができるけれど、手に入るのは羊毛だけで羊肉は取れない。

 羊肉を手に入れようと思えば、羊の魔物を倒すか、このバロメッツを育てるしかない。

 

「さすが上級ダンジョンだな。覚えられる能力も魔法もいいな」

「首皮一枚――凄い能力です。前線で戦う者にとってこれほど心強い能力はありません」

「……魔導書……魔力増幅……素晴らしい」

「ええ――どうも魔力増幅は精霊術にも効果があるみたいです。能力を修得したとき、精霊たちを通じて理解しました」

「くそ、なんで僕は覚えられないんだ」


 ゲストメンバーのマクールは当然、能力も魔法も覚えられない。

 それはシオンもターメルも隊長さんたちも同じなので勘弁してもらいたい。


 さて、そろそろ地上に続く階段があるんだよな……ん?


「この先、凄い数の敵がいるぞ」

「数と配置は?」

「階段を守るように五十ほど」

「五十……部隊一つ分だな。出口を封鎖されているのか」


 隊長さんが眉を顰める。

 クーデターのことは一応住民たちに伏せている。

 ダンジョンの入り口に兵を配置したら住民に噂が広がるので、敢えて中に配置しているのか。

 シオンティーヌ様がダンジョンに逃げたのがバレたのか、それともアイリーナ様を王都の中に入れないためか。

 とりあえず、他の出口を探してみるが、どこも似たような感じだ。


「強行突破しますか?」

「俺たちなら全員倒していくこともできるが……」


 大半の兵士は上司に従ってるだけの兵士だし、あんまり手荒なことはしたくない……のだが、そういうわけにはいかないか?


「ん? これは――」


 地図を見ると、妙な通路がある。

 隠し通路か?


「この壁の向こうにも通路と出口がある。そこには誰もいないみたいだが……開かないな」


 鍵穴のようなものも見つからない。


「隠し通路か? しかし、そのような隠し通路があるなんて聞いたことがないが」

「うーん、壊せるかな?」


 俺が言ったとき、アムが問答無用で槌を振るっていた。

 壁が思いっきり揺れる――地震が起きたのかと思った。

 だが、壁が壊れる気配はない。


「アム、やるときはやるって言ってくれ……思い切りが良すぎるぞ」

「申し訳ありません。ですが、これは壊せるものではないようですね。さすがはダンジョンの壁です」


 そうだよな、ダンジョンの壁は簡単には壊せない。


「……これはダンジョンの壁じゃない」


 ミスラが否定する。


「……完全に偽装されているが魔力による壁。これなら壊せる」

「壊せるって、どうやって?」

「……ディスペル」


 ミスラが魔法を放った。

 すると、目の前の壁が消えた。

 ……え?


「いやいや、ディスペルって、呪いを消す魔法だよな? なんで魔法の壁を消してるの?」

「……呪いも魔法の一種。理解できればどんな魔法でも消すことができる。理論は同じ」


 お前、ディスペルの本を手に入れてまだ数日だぞ。

 なのに、そこまで応用できるようになったのかよ。

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