第220話 クーデターの首謀者との戦いは謁見の間の扉を開けたあとで

 スクルド――⁉

 それって、アイリーナ様の師匠で、王都に行ったきり行方不明になった人物じゃないか。

 預言の能力があって、アイリーナ様が死ぬとかクーデターが起きるとか言っていた。

 でも、俺たちの中では死んでいたことになっていた。

 確か、その理由は彼が自身の死を預言していたからって――って、スクルドが犯人だったら自分の死の預言なんていくらでも偽ることができる。

 

「アイリーナ様、否定しませんけど、もしかして気付いていましたか?」

「……はい、先ほど申した幻影魔法ですが――その研究をしていたのが師匠なのです。マクールさんが使っていた魔道具も元を辿れば師匠の研究の産物の一つです。先生は失敗作だと言っていましたが――」

「失敗作か……言ってくれるな。僕――いや、ボナメ公国はこの魔道具を完成させる対価として莫大な費用を彼に提供したというのに。その話が本当だというのなら、あのジジイは僕たちの研究費を元に幻影魔法を完成させ、そして黙っていたというわけか」


 マクールが忌々し気に呟く。

 でも、一つ疑問が残る。

 彼が本当にクーデターの主犯だというのなら、未来を視ることができるというのなら、なんでアイリーナ様を俺のところに行かせるような真似をしたのか?

 俺が彼女の味方をすることだってわかっていたはずだ。

 クーデターの邪魔になることだって。

 それに、ずっと気になっていたこともある――がそっちは関係ないか。


「アム、臭いを追ってくれ」

「はい――参りましょう。もう我々を止める者は誰もいません」


 王女の大精霊との契約、ムラハドの捕縛、指揮官たちの洗脳の解除、そして勇者の存在。

 それらの話は既に城中に伝わっている。

 残っているのは、スクルドとそしてもう一人。

 忘れてはいけないのが、勇者の子孫を名乗る存在か。


「行くぞ」


 俺たちは偽ターメルの臭いを追う。

 本物のターメルは長い監禁生活のため限界だったようで、救護室に運ばれた。


「臭いはこの中に続いています」


 城の中か。

 まぁ、そんな感じはしていた。

 メタ要素になるが、こういうとき敵のボスが待ち受けているのは玉座の間って決まっているからな。

 きっとこの先に――


「あぁぁぁぁぁあっ!」


 って思っていたらマクールが大声を上げ、そして駆けだした。

 もしかして、ここに敵がっ!?


「僕のゴーレムがっ! ゴーレムたちがっ!」


 あ、違った。

 城の入り口付近でゴーレムが残骸になっていた。

 たんなる故障ではなく、なんというかバラバラの修復不可能な状態になっている。

 ゴーレムの残骸と言ったが、正しくはゴーレムだった何かと言った方がいいだろう。

 うん、こいつはもういいや。

 マクールはそのままにして、臭いを追う。

 大きな扉が閉まっている。


「アイリーナ様、この先は?」

「謁見の間です。普段使われる場所ではなく、ほとんどは儀式のときにしか使われませんが――」


 なるほどね。

 ミスラが魔法の罠がないか調べる。

 罠はないらしい。

 不意打ちを警戒しながらも、俺は扉を開けた。


 広い謁見の間――玉座に座っているのは年老いた老人。

 耳が尖っているからエルフなのだろう。

 ということは――


「皆様おそろいのようでなによりです」

「師匠っ! 何故あなたがこのようなことを!」


 やっぱりこいつがスクルドか。

 見た目は穏やかそうな人に見えるが。


「あなたも私の弟子ならわかるはずです。私は代々宮廷魔術師としてこの国に仕えて来ました。そんな私が、いや、私だからこそ偽りの王家を廃し、正しい勇者の末裔に返還しなくてはならないのです。アイリーナ、弟子であるのなら師匠である私に協力しなさい」

「そういうことだよ、偽りのお姫様」


 玉座の後ろから黒髪の男が現れた。

 聖銀の鎧を身に付けている。

 見るからにイケメンの勇者だ。


「皆さんよく集まってくれた。私の名前は翠。勇者の子孫であり、この国の正統な王位継承者だ」

「何が正統な王位継承者だ! 主要な上級騎士たちを洗脳したり闇ギルドのマスターになりすまして操っていただけじゃないか!」

「操っていたとは心外だね。スクルドはただ疑念を拡大させただけ。疑念を持たれる偽物の王家がいけないんじゃないか」

「屁理屈を言うな! いいか、俺は勇者で、そしてアイリス様から王様の救出を依頼されてここに来たんだ。つまり、女神アイリス様は今回のクーデターに対して反対してるってことなんだよ!」


 女神の威を借りた発言に対し、翠は一瞬キョトンとしたあと、


「へぇ、女神アイリスの意思ね。だったら、君を殺せば女神アイリスの意思はついえたってことでいいよね!」


 次の瞬間、翠の姿がぶれた気がした。

 俺は咄嗟に剣を抜いて、彼の剣を受け止めていた。

 こいつ、強い!?

 剣がかなり重いぞ。


「へぇ、この攻撃を受けるんだ」

「サンダーボルトっ!」


 感心する翠に俺は問答無用で最速の雷魔法を放つ。

 至近距離からの攻撃、躱せるはずがない。

 だが――


「っ!?」


 雷魔法が翠の身体をすり抜けた。

 さらにアムと隊長さんが両サイドから斬りかかると、今度は翠の姿が消え、再びスクルドの隣に現れる。

 強い――これまでの誰よりも。

 勇者の子孫ってのは伊達じゃないってことか――と思うが、でも妙だ。

 地図では翠は薄い赤――つまりは弱い敵ってなっている。

 あいつの強さ、何か秘密がある気がする。

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