第221話 突破口を見つけるのはアムに命を預けたあとで
翠の姿がぶれる。
と同時にその姿が消え、今度は俺の背後に現れた。
不意を突かれたが、アムが咄嗟に割って入り、斬りかかるもまた消えた。
一体なんなんだ?
俺の目で追えない速度での高速移動?
いや、でも斬りかかってくるときの速度はアムが割って入る事が可能な速度だ。
単純に俊敏の値が高いってわけじゃないだろう。
だとしたら転移魔法? いや、でも魔法は連続で使えないはずだ。
幻影魔法……実は翠は二人いて、姿を消したり出したりして瞬間移動しているように見せているとか?
いや、でも地図を見ても翠の反応は一つしかない。
なんなんだ、こいつは。
剣は重い。
移動が速すぎて見えない。
でも、剣速は決して速いとは言えず、地図でも俺よりレベルが低い相手と出ている。
チグハグだ。
瞬歩――という名前の移動速度を上げる能力があるにはあるが、それとも違う気がする。
「強いな。結構本気を出してるんだが、まだ当たらないとは。さすがは勇者を名乗るだけのことはある。やる気が出て来た。では――」
翠の姿がぶれた。
かと思うと、今度は俺の横に現れた。
避けるが、脇腹を掠った。
痛い。
痛みに耐えながらもカウンターで斬るがまた姿が消えた。
「トーカ様! 回復します!」
後方に控えていたアイリーナ様が指輪に手を添える。
俺の頭の上にメディスンスライムが現れ、回復魔法を使う。
痛みが癒えていく。
「勇者の子孫くせにみみっちい攻撃をしやがって」
「それを言うなら勇者のくせに私の速度についてこれないじゃないか」
俺の悪態に対し、翠は随分と余裕そうだ。
息一つ切らしていないのか。
後ろに控えているミスラやアイリーナ様やシオンティーヌ様を狙わないところ正々堂々としていて立派だが、それが逆にムカつくな。
「サンダーボルト!」
ミスラが魔法を放つ。
今日大活躍の高速のサンダーボルトだ。
それで狙ったのは、翠ではなくスクルドだった。
俺と翠が戦っている中、躊躇なくスクルドを狙うミスラの行動力には舌を巻くが、しかし結果は伴わない。
彼の前にムラハドが使っていた防護結界が張られたのだ。
精霊術と結界魔法を合成させた精霊魔法ってやつか。
「さすがはミスラさんですね。ターメルの姿であなたを見ていましたが、私はあなたに一目を置いてるんですよ。どうです? 私の弟子になりませんか?」
「……冗談」
「そうですか? あなたも半分エルフの血が流れている――人とは違う時の中に生きているのですよね? 私と一緒に魔法の研究をすれば、魔術の深淵のさらにその向こう側を見ることができますよ? あなたのお母上の悲願も――」
「――っ!?」
ミスラが杖を構える。
ミスラの母さんの悲願?
なんだ、それは。
なんでスクルドがそれを知っているんだ?
同じエルフだからか?
「勇者よ、よそ見をしていていいのか?」
「サンダーボルトーーよそ見なんてしてねぇよ」
突如現れた翠に対し、至近距離からのサンダーボルトも避けられたか。
ミスラのように魔法の発現位置をずらすことができて、翠の背後から魔法を打てばどうだ?
いや、ミスラが言っていたが、転移できる有効距離には限度がある。
(…………?)
何かが引っかかる。
さっきから俺を相手にしか攻撃していないのは、俺が勇者だから?
勇者の子孫として対抗意識を燃やしている?
本当にそうか?
「ぼーっとしていていいのか?」
もう少しで考えが纏まりそうなのに、翠の攻撃の相手をしながらだと思い通りに動かない。
「アム、俺を守ってくれ――考えを纏める」
「はい、お任せください」
彼女はそう言うと、スパイクシールドを取り出す。
「あれ? アム、盾は苦手って言ってなかった?」
「練習しました。いつまでも苦手なままではいられませんので」
うわ、頼もしいな。
でも、だからこそ俺は安心して集中できる。
目を閉じる。
「本当にそんな獣人に命を預けられるのかい?」
翠の声が聞こえる。
と同時に盾で剣をはじく音も聞こえた。
翠はわかってないな。
アムだからこそ命を預けられるんだよ。
考えを巡らせる。
翠は姿を消しては現れる。
転移魔法ではない。魔法だったらミスラが気付いている。
だったら、魔法ではないなにか。
それはなにか?
俺はそれをどこかで見た覚えがある。
それは一体どこで――
目を開けて地図を再度確認する。
アムが俺を守ってくれている。
そのために俺の周囲を動いている。
ん? 俺の近くにもう一つ白いマークが……これは?
あぁ、そういうことか。
ようやく一つの答えに辿り着いた。
翠が消えたり現れたりする謎に説明がつく。
そして、俺の予想が正しければ、翠の言動の違和感も納得できる。
「ようやく見えた! 突破口が!」
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