第222話 勇者の子孫退治は謎ときのあとで
「突破口が見えた? 手も足もでないくせにハッタリか?」
「それはどうかな? ライトアローっ!」
俺は翠に向かって駆けた。
いまのままだったら、斬りかかっても剣が当たる直前、翠の姿が消えてしまうだろう。
だが、俺は今回、光魔法を放った。
相手は翠ではない、スクルドだ。
俺はその場で急ブレーキする。
翠まではまだ距離がある。
にもかかわらず、翠の姿が消えて、そしてスクルドの背後に現れた。
「おいおい、まだまだ距離があるのにそんなところに逃げて、どうしたんだ?」
「雇い主が狙われたからね、万が一のことがあったら困るから――」
「違うだろ。俺がどう動くか見えていないから、安全なそこにしか行けなかったんだろ? 違和感はあったんだ。お前は俺のことを勇者だと認め、勇者の子孫として対決を挑んでいる風を装っていた。でも、やっぱり妙だよな? 魔法でチョッカイをかけてくるミスラに対して何の警戒も見せないのは。こっちは防護結界を使っているムラハドを倒してるが、お前達は俺たちがどうやってムラハドを倒したのかわからないはず。だったら、最初に警戒するのは魔法の使い手のミスラのはずだ。なのにお前はミスラに対して攻撃もできない」
俺は首を横に振った。
「いいや、できなかったんだ。何故なら有効範囲の外だったから。翠、最初お前は俺に真正面から斬りかかってきた。一番不意を突けるタイミングなのに、真正面から――そこが現れることができるギリギリの範囲だったんだろ? そして、その有効範囲の中心は、スクルドの立っている場所だ」
「スクルドが転移させていたということですか?」
アムが尋ねるが、転移ではない。
魔法だったらミスラが気付いたはずだ。
そして、その答えは近くにあった。
「アイリーナ様、さっき俺の近くにメディスンスライムを召喚しましたよね。距離が結構あったのに」
「は、はい。精霊様は魔力を飛ばせば少し離れた場所にも召喚を――まさかっ!?」
「ああ、そうなんだろ? スクルドは精霊のように、翠を送還、召喚を繰り返して高速移動しているように見せかけていたんだ」
「そんな、人間を精霊のように扱うなんて、できるはずが――」
アイリーナ様はそう言うが――スクルドを見て口を噤む。
彼は微笑んでいた。
まるで、よくできましたと生徒を褒める先生のように。
「よくわかりましたね。最初に正解に辿り着くのはアイリーナだと思っていましたよ」
「送還による緊急回避はゲームの基本だからな。まぁ、ペナルティが多いから本当の緊急時にしか使えないけどな」
投げたり弾き飛ばされた聖剣を回収する時と同じようなものだ。
あれも魔力の消費が多いから何度も使えない。
「そうです! 精霊の召喚には魔力を使うはずです! 何度も召喚していたらいくらあなたの魔力が多くても――」
「ええ、私一人の魔力では到底賄いきせませんよ。私一人の魔力ではね――」
彼はそう言って、数珠のように宝石を編んだ輪っかを取り出した。
なんだあれは――と俺は鑑定し、その目を疑った。
【愚者の石:魔力の消費を肩代わりする石。消費した魔力は時間経過で回復する。魔術師の命を素材に作られる】
魔術師の命――っ!?
「まさか、お前――」
「ええ、この国の魔術師団は愚かですね。私の言葉を信じて、命を捧げてくれましたよ」
「種明かしはここまでだ。それで、どうする? 種がわかったところで、貴様に私を止めることができるのか?」
勇者が不敵な笑みを浮かべる。
「無実の魔術師を殺して利用する奴に対して、勇者の子孫が付き従っていいのか?」
「大義のためには小さな犠牲はつきものなのだよ」
それって悪人が言うセリフだぞ。
「それで、どうする? 僕は異界に身を隠すことができる。そして、どこからでも現れることができる。対抗手段を取ろうと思うのなら、君も異界に来ることだ。そこにいるアイリーナ様と契約してな。でも、そこにいる未熟な王女の力で現世に再召喚できるとは思えないがね」
そう言って翠は再び姿を消す。
今度は直ぐには現れない。
さっきまでは消えたと同時に現れたが、種がバレた以上、今度はいつ現れてもいいってことか。
一瞬でも油断したらやられる。
精神的にも参ってしまう。
そう思うだろうな。
「トーカ様……すみません。彼の言う通り、私の力ではトーカ様を精霊のように召喚、送還することは――」
「わかってますよ。その必要もありません」
俺はそう言って、
ミスラを見ると彼女も頷いた。
そして、俺は
音が部屋に鳴り響く。
「なんですか、その笛は? 応援を呼んだつもりですか? 誰を呼ぼうと――」
スクルドの笑みが驚きに変わる。
「まさか、貴様――勇者を名乗っておきながらそのようなものを」
「おや、さすがは第一席宮廷魔術師様だ。これが何かわかったようだな」
突如、空間が割れた。
そして、そこから現れたのは、黒い腕に腹を貫かれた翠と、そして勇者の腹を貫いた張本人――
『二度と会うことはないと思ったが、随分と面白いところに呼びつけてくれるな』
契約の悪魔バルクニルだった。
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