第51話 本を読むのはご飯を食べたあとで
市場といっても、飲食物を売っている露店が三分の一、野菜、果物、肉、穀物、魚を売っている店が三分の一、その他日用品や服などを扱っている店が三分の一ってところか。
果実っぽいものは一通りオ購入していく。
ライムもあった。
鑑定したらライムって出たので、ライムに間違いない。
俺が知っているライムより大きい、グレープフルーツくらいの大きさだが、ライムなのだ。
一個5イリスと安かった。
小麦粉も買った。
これでポチの作るパンがさらに美味しくなるだろう。
米は売っていなかった。
ポットクールが米の苗を仕入れてくれるのを待つしかない。
香辛料を訪ねたが、そのような高価なものは市場に売ってないと言われた。
どこにいけばいいのかと尋ねると、大きな商会を紹介された。
市場の奥にある大きな建物だ。
途中にある服屋で当面のミスラの着替えも購入。
こんな大きな商会があるのかと中に入ると、店の入り口に、ポットクールの肖像画【美化150%】が飾られている。
ポットクールの商会ってこんなにでかかったのか。
その肖像画に気を取られていると、
「聖者様にアムルタートさんではありませんか! ようこそおいでくださいました」
アルフレッドさんが俺に気付いて挨拶をしてくれた。
「こんにちは」
「ミスラは役に立ちましたでしょうか?」
「おかげ様で」
そういえば、彼女を勝手に連れていくことにしたけれど、大丈夫なのだろうか?
それに、契約魔法の使い手として知っていたのは、もしかしたらポットクール商会にとって有用な人物だったのかもしれない。
引き抜きになってしまうのでは?
俺はミスラを引き取ることにしたと彼に伝える。
「そうですか。彼女は先日、理由も言わずに家財を全て売り払いましたからね。引っ越しの手間もないでしょう。彼女の滞納している家賃については、敷金と相殺するよう、大家には私から申しておきましょう」
「でも三カ月したら戻るかもしれませんが」
「その時はその時です。三カ月も留守にしておくのであれば、その間の家賃が勿体ないです」
この世界、敷金とかあったのか。
一つ勉強になった。
「聖者様はそのことを報せにわざわざ来て下さったのですか?」
「いえ、香辛料があれば買いたいと思いまして」
「もちろん、取り扱いはございます。香辛料と言っても様々ございますが、何がご入用でしょうか?」
「では――」
と俺はミケに言われていた香辛料について予算とともに伝え、さらにポチに頼まれていた物も伝えた。
「それらは全部取り扱いがございます。商品を用意いたしましょう」
おぉ、さすがは大きな商会。
ついでに米を扱っていないか尋ねたが、米はこの地方では育てられないため、取り扱っていないらしい。
ただ、現在ポットクールが隣国から取り寄せる手筈をしているらしく、今度村に行くときには持って行けるだろうとのこと。
暫くして、アルフレッドが香辛料を用意してくれた。
香辛料の量は決して多くない。
「これだけですか?」
「ええ、香辛料は貴重ですから」
なるほど……中世ヨーロッパでは香辛料がとても貴重だったっていうからな。
ジャガイモとかトマトも売ってる世界だし、うちの村ではトウモロコシも育てているから中世ヨーロッパではないのだが、香辛料については高いらしい。
香辛料の苗とかが手に入って、村で量産体制が整うようになったら大儲けできそうだが、いまはこれを買う。
酒を売って得た代金の中から、ミケの取り分を使って購入するので、俺の財布にダメージはない。
香辛料を全て道具欄に収納する。
種類が多く、俺たちの道具欄には入りきらないので、一部はミスラの道具欄に入れさせてもらった。
離れているといっても同じ町の中くらいの距離なら道具の移譲は可能だ。
買ったものの梱包をしながら、アルフレッドは語るように言う。
「ミスラはもう成人しているとはいえあの見た目ですからね。私のようなものからしたら、どうしても孫のように思ってしまうのです」
「ですね。俺も同い年ですけど、どこか妹と重ねてしまいます」
「はい。その彼女が冒険者を引退し、身辺の整理をし始めたとき、黙ってどこかに行ってしまうのではないかと不安に思っていました。しかし、聖者様が引き取ったと言ってくださり、心から安堵しました。どうかミスラのことをよろしくお願いいたします」
「……はい」
ミスラの奴、アルフレッドに大切に思われていたんだな。
本当に孫のように思っていたのだろう。
「それと、彼女は放っておけば食事も睡眠も関係なく何時間でも本を読み続けてしまいますので気をつけてください」
いや、孫というより母親だな。
でも、アルフレッドの言っていることは理解できた。
宿に戻ると、彼女は同じ体勢で本を読んでいた。
「ただいま」
「…………もう帰ったの?」
「もう晩飯の時間だ」
「……そう」
彼女は俺を見たあと、視線を本に落としたので、俺は彼女から本を取り上げた。
彼女が手を上げて本を取り返そうとするが、その短い手、しかも椅子に座っている状態で届くはずがない。
「続きは晩飯食べてからだ」
「……食べなくても平気」
「ダメに決まってるだろ。ほら、行くぞ」
「……お金がない」
「知ってる。俺の従者なんだし、俺が払うのは当然だろ」
「……せめてしおりだけ挟んで」
彼女はそう言うと、持っていた小さな鞄の中から、赤い押し花のしおりを取り出して俺に渡した。
しおりを挟んで本を閉じる。
宿のおかみさんには、料理を一人分追加で注文し、さらに一人部屋をもう一つ借りたいと申し出た。
彼女を家に帰しても、何もないからな。
すると、宿のおかみさんは料理の追加注文には快く応じてくれたが、一人部屋については今日は満室でこれ以上部屋を用意できないと言われてしまった。
そのため、俺の部屋で寝ることになった。
相変わらず、ミスラは椅子に座って本を読んでいるが、寝る時間になったので本を取り上げる。
「じゃあ、寝るからランプの火を消すぞ」
俺がそう言うと、ミスラは寝るための薄着になり、
「……お邪魔します」
そう言って、もぞもぞと俺のベッドの上に上がっていく。
「おい、ミスラ?」
「……私の身体は小さい。抱き心地最高。経験はないが自信はある」
「寝言は寝てから言え。アム、悪いけど」
「はい。ミスラは私と一緒に寝ましょう」
俺はミスラをベッドから追い出してアムのベッドへと追いやった。
翌朝、ミスラから「……おっぱいに押しつぶされると思った」と文句が出たが、羨ましいので取り合わないことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます