第50話 仲間になるのは覚悟を示したあとで

「本気って言われても、そんな風に脅されていい気はしないぞ?」

「……脅しじゃない。事実。私はあなたについていかないと殺される」

「事情を聴いてもいいか?」

「……いまは言えない。契約で決まっている」


 契約魔法か。

 あぁ、くそっ、絶対厄介事の気配しかしない。


「……あなたが望むなら、なんでもする。奴隷にはなれないが、契約魔法によりあなたに一生を尽くす約束をしてもいい。身体も差し出す」

「なんでそこまで……ってそれが言えないんだよな……で、本を読み終えたらミスラは死なないのか?」

「……死なない確率が上がるだけ。魔法を覚えて強くなれば、それだけ死なない確率が上がる」

「期限はあるのか?」

「……三カ月以内」


 わからないが、今の話からして、彼女は誰かに命を狙われている。

 その誰かから自分の身を護るために強くなる必要がある。

 問題は、彼女自身が強くなる必要があるってところか?

 普通に殺し屋とかに狙われているのなら、護ってくれる人と一緒にいればいい。いや、だから俺と一緒に行くって言ってるのか?


「……三カ月経ったら、その後は迷惑はかけない」


 考えてみたが、俺はミスラを見捨てることができなかった。

 きっと、ここで彼女を見捨てるようなことをしたら、日本に残してきたリンを見捨てるみたいな感じがして嫌だったのだろう。

 見た目が子供ってズルいな。


「袖振り合うも他生の縁か……わかったよ。アムもいいか?」

「ご主人様が決めたのであれば、私はそれに従います。ですが、ご主人様のその優しい心、従者として誇りに思います。ただし、契約魔法の更新はしていただく必要があります」

「そこまでする必要があるか?」

「はい。彼女を強くするためには必要だと思います」


 俺たちはダンジョンを出た。

 途中、魔物が出たのでそれを倒しながら進む。

 そういえば、アムの盗賊レベルが2に上がっていて、盗賊切りという能力を手に入れていた。

 攻撃力は落ちるが、切った相手の持ち物を手に入れるという能力であり、素材集めが少し楽になりそうだった。


 そして、ダンジョンを出た俺たちは、宿に戻った。

 ミスラの家にいっても何もないのはわかっているから、話を聞くならここで……ということになったのだ。


「……それで、何の契約魔法を掛ければいい?」


 契約の内容は俺も聞いていない。

 たぶん、今後得た俺に関する情報の秘匿とか、俺やアムを害さないとかかな?

 あ、魔導書を開いて読ませるのは俺が忙しくない時だけにしてもらう契約も必要だろう。

 そう思ったら、アムは俺が全く予想していないことを告げた。


「魔法の必要はありません。契約魔法に価値はありません」

「……どういうこと?」

「契約魔法は従わなければ命を落とす。いわば命を捧げた契約です。ですが、私が望むのは心を捧げる契約。いえ、約束です」

「……約束?」

「はい。この場で改めて誓ってください。ご主人様のために一生を尽くすと。魔法を使ってではない、あなたの覚悟を示してください」


 魔法ではなく覚悟。


「……誓う。ミスラの望みを叶えてくれるのなら、ミスラの全て捧げる」


 彼女のその言葉は真実なろだろう。

 何故なら、


【ミスラをレギュラーメンバーに登録しました】


 とシステムメッセージが頭の中に流れたのだから。

 アムの言っていた強くなるってそのことか。


「ああ、ミスラの覚悟。確かに受け取ったよ」


 でも、アムは本当に凄いよな。

 俺はこうしてシステムメッセージを聞いて初めてミスラの覚悟を理解できたのに、アムは最初からミスラが死ぬつもりだって見抜いたんだから。

 そう思って話したら、事実は違った。

 単にミスラの部屋を見たときに違和感に気付いていたらしい。

 床の色――おそらく棚や机などが置かれていた場所があった。

 お金がなくて物を処分した結果とも思ったが、しかしそのような借金をしているのなら、まず最初に彼女の持っていた本をお金に換えるはず。

 本は貴重だから。

 それを見てアムはなんとなく、死を覚悟した人が身辺の整理をしているようだと思っていたそうだ。


「……早速、魔導書を読ませて。トーカ様」

「ああ、そうだな……ん?」


 道具欄に入れてあった魔導書を取り出そうとして、あることに気付く。

 魔導書は俺にしか使えない。

 でも、俺にしか持つことができないのだろうか?


「ミスラ。レギュラーメンバーになったのなら、道具欄を開くことができるか?」

「……道具欄?」

「メニューを開くって念じてくれ」

「……メニュー……出た……ステータスとメニューがある。ステータスもわかるの?」

「そうだな。じゃあ、道具欄を出して」

「……出した」

「道具欄に魔導書があるだろ。それを取り出そうとしてくれ」

「……取り出す?」


 彼女が疑問形で尋ねる用に言うと、彼女の手の中に魔導書が出た。

 そして、魔導書は落ちなかった。

 やっぱりそうだ。

 魔導書はゲームの中だと主人公にしか使えないし、店に売る事もできない。

 でも、レギュラーメンバーの仲間に道具として「持たせる」ことはできる。

 その証拠に、さっき魔導書をミスラの道具欄に移すことができた。


「どうやら、レギュラーメンバーになったことで魔導書を持つことができるらしい。これで読めるな」

「……じっくり読む」


 ふぅ、これで本のページ捲り係は卒業だな。

 俺は買い物に行くけど、ミスラはどうするか尋ねた。

 彼女は顔を上げて、「……必要なら一緒に行く」と言ったが、たぶん魔導書を読む方が彼女にとって優先度が高そうだ。

 なので、彼女はそのままにしておくことにして、俺とアムだけで市場に買い物に行くことにした。


「アム、よかったのか? 妖狐族って大勢の群れでの行動はあんまり好きじゃないんだろ?」

「はい。ですが、あのまま放っておく選択肢はありませんでした。それに……」

「それに?」

「レギュラーメンバーが増えたら宝箱の色が変わる確率が高くなるのですよね? 楽しみです」


 アムが気合いを入れる。

 確かに僅かにだが、宝箱のレア率アップは上がる。

 あの瞬間に宝箱のことまで考えていたなんて、やっぱりアムは俺以上に宝箱廃人になってるな。

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